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第三章:帝都編/Ⅰ、姿を変えて帝都へ旅立つ

12、後輩ちゃんは妹モードで誘惑する

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 無防備にも思いっきり開脚したユリアが、俺の両足の上に乗っている。膝の上にユリアの尻の重みを感じるという困った状況。

「なあユリア、あんたも帝都にいたんだろ?」

 何か話さないと心臓がバクバク言うので、話題を探す俺。

「うん。一年半くらい――もうちょっといたかな?」

 ユリアは両手を俺の肩に置いて体を支えながら、ぱたぱたとしっぽを振っている。

「第一皇子って見たことある?」

「なんかのパーティーで、うーんと遠くにいたよ」

 そんなものか。辺境の多種族連合ヴァリアンティ自治領の伯爵令嬢じゃあ、貴族の学園に通ってたってお近づきになんかなれないか。

「いくつくらい? 皇子殿下って」

「大人ーっ」

 そうですか…… めちゃくちゃアバウトだな。

「でも、お耳が悪かったんだよ」

「耳が?」

 てことは、俺のギフト<歌声魅了シンギングチャーム>が効きにくいのだろうか。

「そう。でも治ったの」

「へえ、よかったな。いい魔法医が見つかったのか?」

「分かんない。みんな変だって言ってた」

 それまで元気に振っていたしっぽが急に、しゅんとしてしまった。

「変?」

 俺はふと、蜘蛛伯爵の話を思い出した。あいつも病弱な身体を治したくて、魔石救世アカデミーに関わったんだっけ?

「まさか第一皇子、耳が聞こえるようになったのは、魔石救世アカデミーの外部理事になってから?」

「無敵人生アカデミーの立ち食い師になんかなってないよ?」

 どういう聞き間違い!? あっけにとられていたら、ユリアが顔を近づけてじーっとのぞきこんできた。近いって!

「ジュキくんの目、本当に宝石みたい」

「いや、ユリアの瞳も深海みたいですごく魅力的じゃん」

「うふふ、美人さんに魅力的って言われちゃった」

 くそーっ、俺のこと異性だと思ってないな?

「わたしもジュキくんみたいな美人さんになりたいな」

 クスクス笑って俺の頬に触れる。こっちは反応しないように必死なのに! 伯爵令嬢のくせに股広げてひとの上に乗っかりやがって!

「ユリア、俺一応、男だからな?」

 不機嫌な声を出すと、

「知ってるよーっ! きゃははは!」

 ユリアは爆笑して、こてんと俺の胸に顔を寄せた。

「ジュキくんの心臓、ドキドキいってるね」

 しまったぁ! 獣人族って俺たちより耳いいんだった!

「ほっぺもピンクに色づいちゃって。ジュキくんたら、わたしのこと意識してる?」

 蠱惑的な表情で首をかしげる。ついに何も言えなくなった俺の唇を、ちょんっと人差し指でつついて、

「妹にそんな気持ちになっちゃダメなんだよ、お兄ちゃん?」

 こんなふうに兄を誘惑する妹がいてたまるかっ!

 そのとき通りから、レモとねえちゃんの話し声が聞こえてきた。

「レモせんぱい、帰ってきた!」

 ユリアはぴょんっと俺のひざから飛び降りると、玄関に向かって走ってゆく。

 た、助かった……

 それにしてもなんなんだ、あの小娘は! 俺、からかわれてたのかなぁ……

「ジュキちゃん、スープ見ててくれてありがとうね」

 姉に笑顔を向けられて、俺はようやく鍋が火にかかっていたことを思い出した。ゆで上がった野菜の、ほっとする匂いが部屋を満たしているのに、ユリアのせいで気付かなかったよ。

「素敵な服買ってきたから、ジュキちゃん、明日の朝を楽しみにしててね!」

「なんで明日まで待たなきゃなんねーの?」

 今夜、不安で眠れねぇじゃん。

「明日早いんだから、今日は食べてもう寝なさい」

 姉は母さんみたいな口調で言うと、スープを四人分の皿に分けた。

「ジュキにぴったりの、色っぽいデザインなのよ!」

 なぜか興奮してるレモ。

「色っぽい……? 露出度高いのはだめだよ、俺。肌を隠さないと正体がバレるから」

 普通の竜人族は、俺のように異様に白くはないのだ。

「安心して。そこはちゃんと対策しつつ、ジュキの綺麗な身体を活かせるデザインを選んだの。ぐへへっ」

 妙な笑い方をするレモ。

「さあ、いただきましょう!」

 ねえちゃんが俺たちに笑顔を向けて、

「チーズをかけて召し上がれ」

 テーブルの真ん中に置いた皿に、ハードタイプのチーズと、削り器グレーターを載せた。

 食前の祈りを唱えてから、四人では小さすぎるテーブルを囲んで夕食を取った。

 パーティメンバーと酒場の汚れたテーブルを囲んで食った、むさい飯とは大違いだ。女の子たちはせまい空間に集まっても汗臭くない。みんなの笑い声が明るくて華やかで、いい気分だ!



 そして夜。姉は少し困った顔で、

「うち、ベッドが二つとソファが一つしかないのよ」

 洗いたてのシーツをソファにかけながら、

「レモネッラさんとユリアさんには申し訳ないんだけれど、二人で一つのベッドに寝てもらえるかしら? 私はソファを使うから、ジュキちゃんはベッドで休んでね」

「ねえちゃんからベッドを――」

 奪うわけにはいかないから俺たち宿を取るよ、と言おうとしたら、レモが思いっきりかぶって発言してきた。

「お姉様をソファで寝かせるなんてできませんわ! ここはお姉様の家。どうぞご自分のベッドでお休みください」

 それからユリアを振り返り、

「どこでも寝られるユリアはソファでもいいわよね?」

「うん! わたし空気さえあれば大丈夫!」

 空気がなけりゃ寝られないどころか生きられないだろ。

「じゃ、決まりね!」

 パンパンと手をたたくレモ。

「ん……? それで俺はどこで――」



─ * ─



レモの策略や如何に!?
次話、帝都に向けて出発です。『聖剣の騎士、女騎士となる』お楽しみに!
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