歌うしか能がないと言われてダンジョン置き去りにされた俺、ギフト『歌声魅了』で魔物を弱体化していた!本来の力が目覚め最強へ至る【精霊王の末裔】

綾森れん

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第三章:帝都編/Ⅰ、姿を変えて帝都へ旅立つ

07、伝説の白竜、現る

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「水の精霊王、ドラゴネッサ様!」

 ドーロ神父がその名を呼び、木製テラスの上にひざまずいた。

「まさか封印からお目覚めになっていたとは……!」

 ドーロ神父は知識人だけあって、ばーちゃんの名を知っているんだな。

 夜空を舞う巨大な白竜は、月光を受け輝いて見える。

『そこの坊やが――わらわのたてがみのように美しい白銀の髪を持った少年が、聖剣を振るって封印を断ち切ってくれたのじゃ』

 ばーちゃんは、夏の日差しに輝く海のような瞳を俺に向けた。

「ジュキが――」

 ドーロ神父が振り返って俺を見る。何か言いかけたが、

「すげー!」

「聖剣の騎士、なんでもありだな!」

 村人たちの大騒ぎにかき消された。その中から村長が進み出て、

「我らがホワイトドラゴン殿!」

 直立したまま頭を下げる。

「あなたにかけられた封印を千二百年もの間、解くことができず大変申し訳なかった!」

『謝罪せずともよい。わらわは大精霊として創られた存在。身体は動かなくとも意識だけは、ほかの精霊や異界の神々とつながっておった』

 ばーちゃんの声はおだやかだ。

『寂しくなどなかったぞ!』

 言ってることはちょっとかわいいけどな。

「ドラゴネッサばーちゃん、わりいな。わざわざ来てもらっちまって」

 ようやく俺が話しかけると、

『構わぬのじゃ。千二百年前まで、わらわは伝説の存在などではなく、そなたらを見守り共存しておったのじゃぞ?』

 そっか。聖歌の詩に「私たちをお守りください精霊王」って出てくるけど、昔は実際に守ってくれる存在だったんだな。

『それで坊や、わらわが必要なのかい?』

「うん。千二百年前みたいに、また俺たちを見守って欲しいんだ。ラピースラ・アッズーリが妙な魔物をよこして村を襲撃しないように」

『よかろう。坊やが帝都で頑張っているのじゃ。わらわも坊やの故郷を守るくらいせんとな』

 俺はホッとして思わず笑顔になった。

「ありがとな、ばーちゃん!」

『任せておくれ。魂だけになったラピースラに封じられるわらわではないからの』

 村のみんなも喜んで手をたたいている。

「聖剣の英雄が、ホワイトドラゴン殿を説得しちまった!」

 いや、ばーちゃんは心優しい神様みたいな存在だし、俺たちは彼女の子孫なんだから、誰が頼んだって承知してくれたはずだけどな。

『じゃ、わらわはもうひと風呂ぷろ浴びてくるでな』

「……は?」

『坊やが出発するのは今夜ではないじゃろう?』

 おっしゃる通りなんですが。

『ちょうどよい活火山を見つけたのじゃ。ほほほ~い♪』

 お気楽な鼻歌を歌いながら、ドラゴネッサばーちゃんの優雅な白い巨体は夜空に消えて行った。

 まだひざまずいているドーロ神父の肩に、俺はそっと手を置いて、

「神父様、驚かせてごめんなさい。俺、うっかり『ばーちゃん』て呼んでたし――」

 ドーロ神父は静かに首を振ると立ち上がり、俺の髪を優しくなでた。

「謝ることなど何もありませんよ、ジュキ。ドラゴネッサ様も喜んでおいでのようだ。きみにすっかりなつかれて」

 なつくって。言葉のチョイスが違うと思うんだけどなーっ!

「よっし、それじゃあ――」

 村長が太い腕で俺の肩を荒々しく抱き寄せながら、木製の杯をかかげた。

「ホワイトドラゴン殿復活を祝って、もう一度乾杯だ!」

「「「乾杯!」」」

 唱和して葡萄酒を飲み干す村人たちを横目に見ながら、レモが感嘆する。

「竜人族って酒豪ばっかなのね!」

「だな。あんたは付き合って飲まなくていいからな?」

 俺たちがそんな話をしていたすきに、ユリアがふらふらと俺の同世代グループの方に近寄って行った。

「ねーねーそっちの子たちはジュキくんの冒険譚、聞かなくていーのー?」

 そいつらは誘わなくていいんだ……! と口にも出せず複雑な表情の俺に気付いたのか、レモが立ち上がって声をかける。

「ちょっとユリア――」

 レモも友だちの少ない学園生活を送っただけあって分かってるな!

 ユリアは気にも留めず、

「ジュキくんはぁ、シーサーペントの想い人で、ホワイトドラゴンのいとし子だけど、私の優しいお兄ちゃんなのー。おそれ多くないから平気!」

「誰の想い人だって!?」

 思わず反応する俺。聞き捨てならねー。

 ユリアに声をかけられて、一人の男が仕方なく立ち上がった。見覚えはあるが名前は忘れた。

「ジュキ、久しぶりだね! 俺、君がきっと大物になるって思っていたよ!」 

 杯を片手に近付いてくる。

「いや、無理しなくていいよ……?」

 気を遣ったつもりが、上から目線みたいになってしまった。男は笑顔を引きつらせたまま固まっている。

「そうそう! 聖剣の騎士様は広ぉぉい心でお許しくださるから平気だよー」

 悪意のないユリアの言葉に、

「あ、ありがとうございます、聖剣の騎士……様?」

 男は慌てて俺に礼を言うと、すごすごと自分の席に帰って行った。

「あーはっはっは! いい気味ねぇ」

 俺の隣でレモが悪役令嬢さながらの笑い声をあげたところへ、

「ジュリアーナさん特製、海の幸のリゾットですよ、皆さん!」

 酒場のおかみさんが大きな鉄の平鍋を両手で運んできた。

「母さんのリゾット!?」

 期待がふくらんで大きな声が出る俺。おかみさんのうしろからひょっこり現れた母さんが、

「ジュキちゃんの倒したクラーケンも入ってるわよ」

 いたずらっぽくウインクした。俺より先にユリアが万歳して喜ぶ。

「わぁい! 聖剣の騎士様が仕留めたおいしいやつ! 騎士様は優秀な漁師でもあるのだ!」

 いや、違うから……。



 夜が更けるまで飲んで食べて騒いだ俺たちは翌朝早く起きられるはずもなく、一日置いて二日後の朝、領都ヴァーリエへ向かって旅立った。帝都に行くにはいったん領都へ出る必要があるのだ。

 レジェンダリア帝国には、帝国中央が敷いた本道と、各地の領主が管轄する支道という二種類の街道がある。帝国内の自治領・王国・公国の都からは、帝都に向かって本道が伸びており、駅逓制度が整備されている。

 一方いま俺たちが歩いているのは、海沿いの支道。松や、名前の分からない低木など、潮風に強い木々の間から海が見える。

「波の音が聞こえる街道って素敵ね!」

 俺と手をつないで歩きながら、レモがキラキラした笑顔を向ける。少し先を歩いていたユリアが首をかしげて振り返り、

「この変な笑い声が素敵?」

「は? 笑い声?」

 俺が訊き返した次の瞬間、

「わーはっはっは! お前たちの方から姿を現すとはな!」

 行く手から耳障りな爆笑が聞こえてきた。

「モンテドラゴーネ村までつかまえに行く手間が省けたぜ!」

 向こうから歩いてくるのは、因縁のイーヴォとニコだった。



─ * ─ * ─



なつかしい顔ぶれに、ほっとあたたかい気持ちになりますね!(嘘)
今回もすがすがしく、やられてくれるのかな!?
次回をお楽しみに!
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