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第三章:帝都編/Ⅰ、姿を変えて帝都へ旅立つ
02、聖剣の騎士、村を救った英雄となる
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「水よ、刃となりて我が意のままに駆けよ!」
虚空に突如出現した水の塊が鋭い刃物のように宙を切り裂き、怪鳥の両の目玉をえぐった。
「ギィエェェェ!」
身も凍る奇声を発して怪鳥がのけぞる。
「えっ、ジュキ!?」
親父が俺を振り返った。
「お前、ジュキだよな!?」
「ジュキちゃん、魔法使えるようになったのか!」
「いや待てよ、今の詠唱――」
親父の言葉はレモの風魔法にさえぎられた。
「暴旋風撃!」
怪鳥の上でバランスを崩しかけた女を直撃する。
「きゃぁぁぁっ」
予想外にあっけなく、女は空に吹き飛ばされ海の方へ消えて行った。……ん? あの叫び声、どこかで聞き覚えが――
「ギョゲギャァ!」
いや、今はそれどころじゃない。視力を奪われた怪鳥は二本の足を踏み鳴らし、暴れまわる。村人たちは怯え、子供たちの泣き叫ぶ声が響き渡る。
動くな動くな。手に入れたばかりの聖剣で倒したいけど、当たらねえじゃんか。えーい、めんどくせぇ。
「水よ、かの者包みて凍てつきたまえ!」
ざばんっ カッキーン
空から降って来た大量の水が怪鳥を包み、一瞬にして凍りついた。
「ジュキ、やっぱりお前、呪文――」
怪鳥から逃げた親父が俺の術式が普通じゃないことに気付いたようだが、今説明している暇はない。恐ろしいものでも見たかのような震え声が気になるが――
「ギウウウッ!」
怪鳥が異様な鳴き声を上げて、俺の氷を解かそうとする。その前に空から聖剣で―― あ。ここで竜の羽を生やして飛んだりしたら、親父も母さんも驚きのあまり失神しかねない、か……。村のみんなも俺のこと化け物だって思うかな? こんな竜人族いねぇもんな……
「グワァ!」
一瞬の隙をついて、怪鳥が俺に向かって火の玉を吐いた!
「ジュキ!」
親父の悲鳴に心の中で「大丈夫」と答えつつ、
「凍れる壁よ!」
俺の前に一瞬で、分厚い氷の壁が出現した。聖石の結界で守られるかもしれないが、試しに炎を食らってみる気などさらさらない。そのとき、
「飛ぶわよ、ジュキ!」
うしろからレモが俺に抱きつき、
「風纏颯迅!」
空へと舞い上がった! レモ、ナイスアシスト!!
「聖剣よ、悪しき存在滅したまえ!」
怪鳥の次の攻撃が来る前に、聖剣アリルミナスが巨大な鳥の頭に触れた。その途端まばゆい光が辺りを包み、怪鳥は黒い炭となって崩れ落ちた。
カランコロン
あとに残ったのは魔石が三つ。
「なんで三つも……」
普通、モンスターはその体内に一個だけ魔石を持っているんだ。
「またラピースラ・アッズーリの仕業かしら」
レモが耳のうしろで気味悪そうにつぶやいて、俺を抱えたままふわりと土の上に着地した。
「複数の魔物をかけ合わせたってことか?」
「分からないけど――」
レモの言葉は駆け寄ってきたユリアの声にかき消された。
「うっそー! お肉が残ってないっ!」
魔法で急所一突きだと魔物の死体は残らないことが多いんだが、そういえばなんでクラーケンは持ち帰れたんだろうな? きっとユリアの食欲という信念のなせる業だな。
「レモ、とっさに飛んでくれてありがとな」
俺の上半身をいまだ抱きしめたままの彼女にこっそり耳打ちする。
「うふっ、ジュキを支えるのが私の役目なんだから任せてよ!」
明るい笑顔で俺を見上げ、
「ジュキったら、帝国一強くてかっこいい英雄なのに繊細なんだから」
「うっ」
俺が故郷の村で竜の翼を見せたくないってこと、バレてるな……
「そういうきみが大好きだから、何も変えなくていいのよ」
ニッと笑って俺の肩の上に、こてんと頭を寄せる。彼女のなめらかな髪に指をすべらせて、その額に口づけしそうになって俺は自重した。俺たちは村人たちの注目の的になっていたからだ。
「ジュキのやつ、一瞬でモンスターを倒しちまった!」
「俺たちの村を救った英雄だ!」
代わりに俺は、気になっていたことをレモに尋ねた。
「なあ、怪鳥の上にいた女――レモが風魔法で吹き飛ばしたヤツって知り合い?」
「よーっく知ってる人よ。逆光のせいで顔は見えなかったけど声から察するに――」
─ * ─ * ─ * ─ * ─
声から察するに―― 誰なのか!? 予想しつつ、お気に入り登録しつつ、お待ちください!
虚空に突如出現した水の塊が鋭い刃物のように宙を切り裂き、怪鳥の両の目玉をえぐった。
「ギィエェェェ!」
身も凍る奇声を発して怪鳥がのけぞる。
「えっ、ジュキ!?」
親父が俺を振り返った。
「お前、ジュキだよな!?」
「ジュキちゃん、魔法使えるようになったのか!」
「いや待てよ、今の詠唱――」
親父の言葉はレモの風魔法にさえぎられた。
「暴旋風撃!」
怪鳥の上でバランスを崩しかけた女を直撃する。
「きゃぁぁぁっ」
予想外にあっけなく、女は空に吹き飛ばされ海の方へ消えて行った。……ん? あの叫び声、どこかで聞き覚えが――
「ギョゲギャァ!」
いや、今はそれどころじゃない。視力を奪われた怪鳥は二本の足を踏み鳴らし、暴れまわる。村人たちは怯え、子供たちの泣き叫ぶ声が響き渡る。
動くな動くな。手に入れたばかりの聖剣で倒したいけど、当たらねえじゃんか。えーい、めんどくせぇ。
「水よ、かの者包みて凍てつきたまえ!」
ざばんっ カッキーン
空から降って来た大量の水が怪鳥を包み、一瞬にして凍りついた。
「ジュキ、やっぱりお前、呪文――」
怪鳥から逃げた親父が俺の術式が普通じゃないことに気付いたようだが、今説明している暇はない。恐ろしいものでも見たかのような震え声が気になるが――
「ギウウウッ!」
怪鳥が異様な鳴き声を上げて、俺の氷を解かそうとする。その前に空から聖剣で―― あ。ここで竜の羽を生やして飛んだりしたら、親父も母さんも驚きのあまり失神しかねない、か……。村のみんなも俺のこと化け物だって思うかな? こんな竜人族いねぇもんな……
「グワァ!」
一瞬の隙をついて、怪鳥が俺に向かって火の玉を吐いた!
「ジュキ!」
親父の悲鳴に心の中で「大丈夫」と答えつつ、
「凍れる壁よ!」
俺の前に一瞬で、分厚い氷の壁が出現した。聖石の結界で守られるかもしれないが、試しに炎を食らってみる気などさらさらない。そのとき、
「飛ぶわよ、ジュキ!」
うしろからレモが俺に抱きつき、
「風纏颯迅!」
空へと舞い上がった! レモ、ナイスアシスト!!
「聖剣よ、悪しき存在滅したまえ!」
怪鳥の次の攻撃が来る前に、聖剣アリルミナスが巨大な鳥の頭に触れた。その途端まばゆい光が辺りを包み、怪鳥は黒い炭となって崩れ落ちた。
カランコロン
あとに残ったのは魔石が三つ。
「なんで三つも……」
普通、モンスターはその体内に一個だけ魔石を持っているんだ。
「またラピースラ・アッズーリの仕業かしら」
レモが耳のうしろで気味悪そうにつぶやいて、俺を抱えたままふわりと土の上に着地した。
「複数の魔物をかけ合わせたってことか?」
「分からないけど――」
レモの言葉は駆け寄ってきたユリアの声にかき消された。
「うっそー! お肉が残ってないっ!」
魔法で急所一突きだと魔物の死体は残らないことが多いんだが、そういえばなんでクラーケンは持ち帰れたんだろうな? きっとユリアの食欲という信念のなせる業だな。
「レモ、とっさに飛んでくれてありがとな」
俺の上半身をいまだ抱きしめたままの彼女にこっそり耳打ちする。
「うふっ、ジュキを支えるのが私の役目なんだから任せてよ!」
明るい笑顔で俺を見上げ、
「ジュキったら、帝国一強くてかっこいい英雄なのに繊細なんだから」
「うっ」
俺が故郷の村で竜の翼を見せたくないってこと、バレてるな……
「そういうきみが大好きだから、何も変えなくていいのよ」
ニッと笑って俺の肩の上に、こてんと頭を寄せる。彼女のなめらかな髪に指をすべらせて、その額に口づけしそうになって俺は自重した。俺たちは村人たちの注目の的になっていたからだ。
「ジュキのやつ、一瞬でモンスターを倒しちまった!」
「俺たちの村を救った英雄だ!」
代わりに俺は、気になっていたことをレモに尋ねた。
「なあ、怪鳥の上にいた女――レモが風魔法で吹き飛ばしたヤツって知り合い?」
「よーっく知ってる人よ。逆光のせいで顔は見えなかったけど声から察するに――」
─ * ─ * ─ * ─ * ─
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