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第三章:帝都編/Ⅰ、姿を変えて帝都へ旅立つ

01、魔物から故郷の村を救え!

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「あの鳥なんか変じゃねぇか?」

 海岸沿いの道を歩きながら俺は空を見上げて、となりを歩くレモに話しかけた。

「ずいぶん大きいわね。でもこんな人里に魔物が出るとは思わないし」

「あんな食べ甲斐ありそうな鳥、見たことないよ! 石窯に入るかな!?」

 ユリアのとぼけた発言は無視して、

「モンテドラゴーネ村に向かっていく気がするんだけど……」

 村のある丘は海岸すれすれから立ち上がっている。その頂上に建つ鐘楼を見上げながら、俺は陽射しに目を細めた。

 俺、ジュキエーレ・アルジェントとその恋人――聖女の力を持つ公爵令嬢レモネッラ、そしてなぜか俺たちの旅にひっついてきたケモ耳美少女――狼人ワーウルフ族のユリア伯爵令嬢は今、俺の故郷に向かっていた。

 俺の婚約者を自称するレモネッラ嬢が俺の両親に会いたがったからってのもあるが、俺自身も遠い帝都へ旅立つ前に一度くらい、家族の顔を見ておきたかったのだ。

 村へと続くなだらかな山道を登りながら、鳥のさえずりが聞こえないことに違和感を覚える。

「妙に静かだな」

「さっきの怪鳥のせいかしら?」

 村の方を見上げるレモのピンクブロンドの髪の上で、新緑を透かしてこぼれる木漏れ日が踊っている。

「さっきのおっきな鳥さん、背中に人乗っけてたよね」

 ユリアの言葉に俺とレモは同時に振り返った。

「「えぇっ!?」」

「二人とも見てないの?」

 不思議そうに首をかしげる。

「あんた目、いいんだな……」

「さすが勉強してこなかっただけあるわね……」

 ちくりと毒を吐くレモに屈せず、

「そうだよ! ユリアは健康優良児なのっ!」

 自慢げに胸を張った。



「一体なにが起こっているんだ……?」

 村の入り口に架かった橋の上で、俺は立ち尽くした。

 聞こえるはずだった物売りの声や、追いかけっこする子供たちの笑い声は、消えていた。初夏の風が運んできたのは、悲鳴と叫び声。

「急ぎましょう!」

 レモが俺の手を取って走り出した。

 阿鼻叫喚を破ってかすかに聞こえてきたのは、

「ジュキエーレ・アルジェントの居場所を吐かないと村を焼き尽くすぞ!」

 という女の声。

「なんか聞き覚えがあるような……」

 レモが小さくつぶやいたが、人々を襲う怪鳥が見えてきて俺は叫んだ。

「やっぱりさっきの鳥型モンスター!」

 母さんを守って、人間を丸飲みできそうなサイズのくちばしと剣を交えているのは――

「親父!」

 冒険者時代に使っていた魔法剣マジックソードは俺にゆずってくれたから、親父が今振るっているのは、ミスリル製などではなく普通のはがねの剣だろう。魔力を通せないとなるとまずい!

 俺は走りながら腰の聖剣アリルミナスを抜いた。

「その声、まさかジュキか!?」

「そうだよ! 帰ってきたんだ!」

「こっちに来てはだめだ! こいつらの狙いはお前なんだから!」

 こいつら?

 見上げると、鳥の上に女が立っている。うしろに初夏の太陽が輝いているせいで、逆光になって顔までは分からない。

「ジュキエーレ・アルジェントだと? ちょうどいい!」

 まさかラピースラ・アッズーリ!? だがあいつは誰かに乗り移らなけりゃ身動きできないはずだ。ロベリアに乗り移ったまま帝都からここまで、鳥にまたがってやって来たってのか!?

「その声、やっぱり――」

 駆け寄ってきたレモが俺のうしろでうなずくと、呪文を唱えだした。レモの知っている人物ってこたぁロベリアに乗り移った彼女ではない。だが誰であろうと俺の家族を襲うやつは容赦しねぇ!

「あとは俺がやる!」

 俺は胸元とベルトの聖石に精霊力を通し、結界出力を上げながら聖剣を振りかぶった。

「親父、おじちゃんたち、下がってくれてて平気だよ!」

 親父と、彼の元冒険者仲間である中年オヤジたちに声をかける。

「ジュキちゃん、無理しちゃいけねぇ!」

「危ねえからおっちゃんたちに任しとき!」

「まだまだ俺たちゃ腕がにぶっちゃいねぇんだ!」

 そうだった! 村の人たちは俺が魔法を使えるようになったことも、聖剣の騎士になったことも知らないんだった!

 みんな俺を守ろうと動かない。まるで盾のように俺の前に立ちふさがって怪鳥を止めているから、聖剣が届かないじゃんか! ここは水魔法で俺の実力を示すしかない!

「水よ、やいばとなりて我が意のままに駆けよ!」



─ * ─



※ ジュキの父親は若い頃、同じ村の幼馴染とパーティを組んで冒険者をしていました。
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