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Ⅳ、聖剣アリルミナス

39、地下洞窟「水晶洞」へ

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 二日後――

「レモせんぱい、ジュキくん! おっきな港が見えてきたよーっ」

 実はシーサーペントだけじゃなくユリアまでついて来た。

「ユリア、危ないからあまり身を乗り出さないで」

 甲板で海風に吹かれながら、レモが注意する。頭上を飛び交うカモメたちも、帆船と一緒に現れたシーサーペントに驚いて、慌てて港の方へ逃げてゆく。

「あれはヴァーリエ港だな」

 海面に反射する日差しに目を細めながら、俺は次第に近付く港を見つめた。

「アルジェント卿、港まででよろしいですか? それともどこかの河口まで行きましょうか?」

 水兵帽の横からイタチみてぇな耳をのぞかせた船員が、俺に話しかけてくる。一瞬、アルジェント卿って誰だよ、と思ってしまうが俺のことだった。騎士に叙されると、この国では「卿」が敬称になるらしい。

「えーっと、ちょっと待って―― 地図地図……」

 人に指示を出すなんて慣れてない俺が、もたもたと亜空間収納マジコサケットの中をまさぐっていると、

「竜王殿、ダンジョン『古代神殿』の最下層へ行かれるのでしたな?」

 海からシーサーペントが首を伸ばして話しかけてきた。「竜王殿」って呼び名の方がさらに誰だよって感じなんだが、しっかり定着しやがった。

「うん。本物の竜王殿に会いに行きたいんだ」

 あえて「本物」を強調する俺。人間と感覚の違う聖獣だからか、シーサーペントは何も気付いた様子はなく、

「それでしたら竜王殿、『水晶洞すいしょうどう』という海底洞窟がダンジョンの最下層とつながっておりますよ」

「え、初耳なんだけど!?」

が案内いたしましょう」

 自慢げなシーサーペントには悪いが――

「でも海底ってことは水の中なんだよな?」

「もちろん。しかし途中から上り坂になっており海水が消えるのです。だからダンジョンまで水が及ぶことはない」

 そんなこと聞いてるんじゃなくて……

「俺たち水中じゃ息できないからな?」

「あ」

 あ。じゃねーっつーの。この聖獣ちょっと抜けてるよな。

「だいじょぶよ、ジュキ。私が風の結界を張るわ」

 レモがとなりから声をかけてくれる。

「でも長時間結界を維持したら、また魔力切れ起こさねえか?」

「風の結界なら大きな術じゃないから平気よ」

「竜王殿が魔力を補充してやれば良いではないか」

「どうやって?」

 他者に魔力を補充できるなんて聞いたことない。

「ご存知ありませんでしたか。体液には魔力――竜王殿の場合は精霊力が含まれているのですぞ。お二人は恋人同士。何も問題ないかと」

 大ありだっつーの。

「わ、わ、私は受け入れられるわ!!」

 レモがすっかりその気になってやがる。

「わぁ、楽しみ!」

 こういう話になると突然、察しが良くなるユリア。

「そんなことするくらいなら、俺がレモから風魔法習った方が早いだろ」

「ほほーう。接吻でも構わないのですぞ、竜王殿。やり方が分からないとおっしゃるなら、が実践してみせましょう」

「うわー! やめろやめろ!」

 あろうことか魚臭い口で俺に迫ってきやがった!

「お控えください、聖獣様!」

 俺の前に飛び出したのはさきほどの船員。なんて勇気ある行動!

「このお方は聖剣の騎士。我らがスルマーレ島を救った英雄です!」

「ちっ、恋の好敵手か」

 違うから。何はともあれ、シーサーペントは首を引っ込めた。

「ありがとう。助けてくれて」

 ほほ笑みかけると、船乗りはビシッと敬礼した。

「いえ、騎士殿! 当然のことをしたまでですっ!」

 しかし仕事に戻った彼が、甲板で働いている水夫たちに耳打ちするのが聞こえてしまった。

「すげーかわいい笑顔で礼言ってもらえたぜ!」

「いいなあ。アルジェント卿、細くて白くて声も少年みたいでたまんねぇよな」

「おいらもアルジェント卿の綺麗な目で見つめられてぇよ」

 ……そこはかとなく身の危険を感じるんだが!?

「竜王殿、『水晶洞』はもうすぐです。そろそろの頭にお乗りなさいませ」

 下心ありそうで気に入らねぇが仕方ない。ダンジョンの入り口から最下層まで行くの、めんどくせぇもんな……

「わぁい! 乗る乗るぅ~!」

 さっそくユリアがシーサーペントの首によじ登っている。

「私も――よいしょっと。あ、なんかヌルヌルしてる」

「それじゃあ俺たちはここで聖獣に乗り換えますんで。ここまで乗せてくれてありがとう!」

「いえいえ、騎士殿のお役に立てて光栄でした!」

「地下洞窟の旅、お気をつけて!」

 船乗りたちが甲板から手を振って見送ってくれる。俺がシーサーペントの頭に乗ると、帆船は入り江になったヴァーリエ港に向かって行った。船は伯爵家が所有する商船なのだ。ユリアのじいさんの説明によれば、ルーピ伯爵家の初代は二百年以上前の貿易商だそうで、今も伯爵家は帝国内の物流をになって利益を上げているそうだ。

 シーサーペントは俺たちを乗せて入り江の南端に近付いてゆく。

「そろそろもぐりますぞ」

聞け、風の精センティ・シルフィード――」

 レモが風魔法を構築する。

「――汝(なんじ)が息吹(いぶ)き尽くることなく我らを包み、護(まも)りたまえ。風護結界ウインズバリア!」

 風の結界が俺たちを包み込むと、シーサーペントは一気に潜水した。水圧で振り落とされないよう、俺たちはシーサーペントの頭や首にしがみつく。

「あ……竜王殿の太ももの内側が当たってる感触――」

「俺やっぱ泳いで行こうかな……」

「あわわわ、冗談です! につかまっていて下さい!」

「レモせんぱい、ジュキくん、見てぇ。岩に裂け目ができてるよー」

 ユリアがのん気な声で指さしたとき、海底洞窟の入り口から巨大なクラーケンが現れた!



─ * ─ * ─



VSクラーケン! さっそく聖剣の出番!?

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