歌うしか能がないと言われてダンジョン置き去りにされた俺、ギフト『歌声魅了』で魔物を弱体化していた!本来の力が目覚め最強へ至る【精霊王の末裔】

綾森れん

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Ⅱ、ユリア嬢は天然娘

13、シーサーペントが部下になった!

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「お、追いつかれる――!」

 シーサーペントが俺の足をくわえたそのとき――

『なんだこの清らかな力は――』

 突如ヤツの動きが止まった。

『魔力ではない……膨大な精霊力…… ま、まさか貴殿は――』

 シーサーペントが真っ赤な両眼をしばたいた。

吾等われら水の精霊を統べる王――!』

 いや、力を受け継いだだけで本人じゃないんだが……

『そのような小さきお姿であったとは……。竜人の男子おのことしてあらわれたと聞いてはいたが』

 ん? 聖獣が俺の生まれについて知ってるのか?

の非礼をどうかゆるしたまえ!』

 シーサーペントは首をうなだれた。巨体に似合わぬ恥じ入り方に哀愁が漂う。

「許すも許さないも…… あんたがユリア嬢を――あの獣人の少女をあきらめて海へ帰ってくれるんなら、それでいいんだ」

『なんとお心の広い――まさに王にふさわしいお人柄!』

「いや、あんたこそここらへん一帯の海を守ってくれてるぬしなんだろ。これからもよろしく頼むな」

 俺は恐る恐る近付いて、シーサーペントの頭をなでた。おとなしくしていれば巨体なだけで、かわいい爬虫類かも知れねえ。俺も半分くらいお仲間だしな。

『どうぞの頭にお乗りください。舟までお連れしますゆえ』

 海ん中に連れて行かれたりしないよな? と疑心暗鬼になりながら、俺はシーサーペントの大きな頭に座った。彼はゆっくりとしゃがみ込むように俺を下ろしてくれた。

「シーサーペントをてなずけただと!?」

 遠巻きにながめる小舟から、ざわめきが聞こえてくる。

 舟に戻って来た俺とシーサーペントの様子に、ユリア嬢と老人もポカンとしている。

 シーサーペントはお辞儀でもするように、俺の腰あたりまで頭を低くした。

『魔神とのいくさの際はすぐにせ参じますゆえ、どうかをお呼び付け下さい。美しき竜王よ』

 え……俺、伝説の魔神アビーゾと戦うの!? 聖獣たちの間ではそういう話になってる!?

 黒い巨体は運河に沈み、ただの大きな影となり、舟の下をすべるように去っていった。

「天使さん、すごーい! おっきな蛇さんペットにしちゃった!」

 ユリア嬢がパチパチと手をたたく。ペットて……。せめて部下と言ってやれ。

「無事でよかったです、ユリア嬢」

 俺は彼女に一礼し、レモの待つ船に飛び去ろうと翼を広げた。きっと彼女は、俺がなかなか戻って来なくて心配しているはずだ。

「お待ち下され! わしは狼人ワーウルフ族のルーピ伯爵家前当主。そなたにお礼を差し上げたい!」

 灰色のケモ耳を生やした老人のほうが、訊いてもないのに自己紹介してきやがった。身分を聞いて無視するなんて不敬なことできないじゃん。めんどくせぇ……

 俺は観念して魔法で翼と角を隠した。せまい舟の上では邪魔なのだ。

「ほほぅ、人の姿にもなれるのじゃな」

 腕や足のウロコは消せないから、そう人の姿でもないんだが、服で隠せるから問題なし。かぎ爪と水かきの生えた両手を背中にまわし、こっそり特別製のグローブをはめた。手をつなぐときレモが悲しむから、はずしていたのだ。

「ルーピ伯爵様、お目にかかれて光栄です。竜人族のジュキエーレ・アルジェントと申します」

 片足を引き、右手を胸に添えてお辞儀をする。

「そなた竜人族じゃったのか。空を飛べる竜人族がいるとは驚きじゃ!」

 翼なんか生やせるのは先祖返りした俺だけだから、じいさんの驚愕はもっともだ。

「わしは現在のルーピ伯爵ではないぞ。さっさと息子に家督をゆずって隠居したのじゃよ。毎日のように届くどこぞの商会からの陳情書に目を通し、彼らの契約上のいざこざに裁定を下し――なんぞという日々は忙しくてかなわんわ。かわいい孫と過ごす時間がとれぬではないか」

 小さな島の領主といえど商業活動が盛んな街だと仕事も多いのか、領地がせまいゆえに伯爵の下で働く子爵や男爵が不足しているのか――まあそもそも百年ちょっと前、亜人族の地域に力を及ぼした帝国が、有力者に爵位を与えただけだしな。

「名前の長い天使さん、わたしユリアだよ! 二度も救ってくれてありがとう!」

「わしの宝物、ユリア・ヌーヴォラ・ルーピじゃ」

「ユリア様、はじめまして。ジュキエーレ・アルジェントです」

「じゅ……じゅじゅっ!?」

「そなた、わしの大切な孫をうろたえさせるでないぞ」

 このじいさん、孫バカかな?

「ジュキで構いませんよ、ユリア様」

「そなた、ユリアの婚約者になる気はないか?」

「コンニャク! コンニャク!」

 ユリア嬢が聞いたことない呪文を唱えてはしゃいでいる。

「えーっとユリア様の婚約者は、剣大会で決めるのでは――?」

「息子がそうれを出したがな、わしならくつがえせる」

 帝国中から志願者が集まり始めているというのに、身勝手なじいさんだな。

「あの、優勝者は聖剣をいただけるとか――?」

 とはいえ聖剣には興味がある。

「聖剣で参加者を釣ったようじゃな、息子は」

「え? 実際にはいただけない?」

 そこ重要なんだけど。

「聖剣の所有権が欲しいのか? シーサーペントを平伏へいふくさせられるそなたじゃ。魔術剣大会の優勝者をなぐって所有権を奪えばよかろう」

「所有権?」

 聖剣を奪うんじゃないのか?

「それより若者よ、おぬしをユリアと婚約させてやってもよいと言っておるのじゃ」

「俺にはもったいないお言葉です」

 なんとか辞退しようと頑張る。

「謙遜することなどない。シーサーペントに頭を下げさせる――そんなことができるのは、そなただけじゃ」

「そのお言葉だけで充分でございます」

「何が気に入らぬのじゃ!?」

 ひえ~、怒り出したよ……

「ユリアは世界一かわいいじゃろ!?」

 孫溺愛ジジイめ!

「実は…… 心に決めた人がおりまして、彼女は俺と婚約したいと――」

「嘘をつけ! そなたのような庶民の子供に婚約の話が出るわけないじゃろう!」

「いや、俺もう十六――」

「嘘をつけ!」

 嘘じゃねーよ! 理不尽だ!!

「本当に婚約者がおるなら、その者の名を申してみよ!」

「ジュキの婚約者はわたくし、聖ラピースラ王国アルバ公爵家のレモネッラですわ」

 うしろから突然気取った声が聞こえて振り返ると、そこには空中遊泳の術で運河の上に浮かぶレモの姿があった。
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