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第二章:聖剣編/Ⅰ、豪華客船セレニッシマ号
04、バルバロ伯爵家は実在するのか?
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大きな木造船セレニッシマ号の甲板には三本の帆柱が立ち並び、幾重にも重なる白帆を真っ青な空にはためかせていた。
「もーぉ! 何よあれっ!? 魔物なのはどっちよ! 私のジュキに失礼なこと言って許せないわ!!」
大海原を渡る風にピンクブロンドの美しい髪をなびかせながら、レモが啖呵を切った。
俺のことを「私のジュキ」って言ってくれた! うれしくて心がふわっとあたたかくなる。レモはかわいらしい目をつり上げてるけど。
二人並んで海をながめながら、俺は白いマントで彼女をそっと包み込んだ。
「俺のために怒ってくれてありがとう」
レモは腕の中でまだ難しい顔をしていた。いつもなら触れ合うだけで、すぐに笑ってくれるのに。
「どうしたの?」
ちょっと心配になって彼女のこめかみに、こてんと頬を寄せる。
「私、思い出したの。あの男、ヴァーリエの宿でも見たのよね」
「え、俺たちの泊まってた宿で?」
セレニッシマ号は月に一度しか出航しないので、俺たちはヴァーリエの都で四泊していた。
レモは、船の腹に当たるたびに白く砕け散る波を、じっと見下ろしている。
「尾行られてたんだわ」
俺は強い日差しに目を細めながら、
「なんで宿では襲ってこなかったんだろう」
「おそらく―― 彼が泊まっていた一階からだと、二階に上がるのに必ず帳場の前を通らなきゃならないから……?」
俺たちの泊まった宿は入ってすぐが吹き抜けになっており、左手に帳場、正面に大階段があった。一階の客室は、大階段の左右に伸びた廊下に並んでいた。俺たちの泊まった二階へ行くには、帳場に面した大階段を使うしかない。
「帳場、真夜中でも夜行性の獣人さんが座ってたもんな」
「そうなのよ。バルバロ伯爵は相当、秘密裏に行動したいみたいね。家名に傷が付くのを恐れているのかしら?」
「そもそもバルバロ伯爵家ってのは本当にあるのか?」
俺の問いに、レモはしっかりと首を縦に振った。帝都の魔法学園に通っていたから知識があるのだろう。
「バルバロ家は代々、騎士団長を務めている家系なの」
「んん? そんな家の当主がこんな辺境の自治領まで来て、獣人族の令嬢と婚約したがるって変じゃないか?」
「変なのよ」
即答するレモ。
「バルバロ伯爵を騙ってるだけとか」
適当に言ってみた俺の推理に、レモは神妙な顔つきのままうなずいた。
「私もその線を考えてたの。でも紋章入りのカフスボタンを付けていたのよね」
「成り代わったとか?」
レモは首をかしげてから、もどかしそうに額を押さえた。
「あ~、師匠にハーピー便でも出して訊けたらいいんだけど!」
「師匠って魔法学園時代の?」
「そ。私の担当教授は帝国騎士団魔術顧問を務めてた人なの。だから騎士団には彼に世話になった人がたくさんいるし、バルバロ家についても詳しいはずよ」
貴族たちが通う魔法学園ってなぁ帝国騎士団の魔術顧問が教えに来るのか。
「すっげぇ人に習ってたんだな」
「彼のギフトも私と同じ魔術創作だったから担当してくれたの。現代の賢者って言われるほどの人物なのに、攻撃魔法に興味がなくて皇帝に再三、職を解いて下さるよう歎願したそうよ」
攻撃魔法が大好物って顔したレモが、そんな平和主義者に師事していたとは。
「どうしても彼を帝都にとどめたかった皇帝は、彼を帝立魔法学園の教授に任命したんですって。ぜひジュキを会わせたいわ!」
海面で踊る光を受けて、レモの瞳が輝いた。
「え、なんで?」
現代の賢者とか聞いてビビる俺。
「だって魔力量に制限がないジュキなら、師匠の生み出したどんな魔術だって具現化できるもの!」
そうか。どれほど優れた魔術を創作できても、人族の魔力量という限界があるわけか。
「私のたった三万越えの魔力量だって、師匠は重宝してたくらいなんだから」
レモは「たった」などと言っているがとんでもない。一般的に言われる人族上限の三倍はある。彼女は大聖女の子孫だから魔力量が桁外れなのだ。――なんてことを、魔力量が二十万を超えていて測定不能な俺が言っても信憑性ないけどな。
「そういえばレモ、冒険者ギルドならハーピー便を出すサービスも請け負ってるはずだよ」
「そうなの!?」
俺はうなずいて、
「登録冒険者以外は手数料を多めに取られると思うけど。スルマーレ島に着いたら行ってみようよ」
「行く行く! さすがジュキ、私の知らないことたくさん知ってるわね!」
レモが俺の背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめてくれた。さすがでも何でもなく、庶民なら誰でも知っていることなのだが、自前でハーピー便を頼める公爵令嬢には必要のない知識なんだろう。
「俺からすりゃあ帝都にすごい知り合いがいて、レモの方がさすがだけどな」
「うふふっ 私たち二人合わせれば無敵ね! 相性抜群よ!」
レモの頬にいつものキラキラとした笑顔が戻って来た。潮風に吹かれながら、俺はレモの肩をしっかりと抱き寄せた。
その夜――
ラーニョ・バルバロ伯爵を名乗る魔物は再度、俺たちを襲ってきた。だが二度も獲物をのがす俺たちではない。いくつか重要な情報を手に入れることができた。
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いちゃいちゃ回で失礼いたしました!
次回は船室で夜を明かす二人――若い男女が一つの部屋で夜を過ごす・・・何も起きないはずはなく。。。そうそう、しっかりお客さんが襲ってきますよ!
「ってそっちかよ!」
と思った方も、
「予想してた」
と思った方も、お気に入り追加してお待ちいただけると嬉しいです!
「もーぉ! 何よあれっ!? 魔物なのはどっちよ! 私のジュキに失礼なこと言って許せないわ!!」
大海原を渡る風にピンクブロンドの美しい髪をなびかせながら、レモが啖呵を切った。
俺のことを「私のジュキ」って言ってくれた! うれしくて心がふわっとあたたかくなる。レモはかわいらしい目をつり上げてるけど。
二人並んで海をながめながら、俺は白いマントで彼女をそっと包み込んだ。
「俺のために怒ってくれてありがとう」
レモは腕の中でまだ難しい顔をしていた。いつもなら触れ合うだけで、すぐに笑ってくれるのに。
「どうしたの?」
ちょっと心配になって彼女のこめかみに、こてんと頬を寄せる。
「私、思い出したの。あの男、ヴァーリエの宿でも見たのよね」
「え、俺たちの泊まってた宿で?」
セレニッシマ号は月に一度しか出航しないので、俺たちはヴァーリエの都で四泊していた。
レモは、船の腹に当たるたびに白く砕け散る波を、じっと見下ろしている。
「尾行られてたんだわ」
俺は強い日差しに目を細めながら、
「なんで宿では襲ってこなかったんだろう」
「おそらく―― 彼が泊まっていた一階からだと、二階に上がるのに必ず帳場の前を通らなきゃならないから……?」
俺たちの泊まった宿は入ってすぐが吹き抜けになっており、左手に帳場、正面に大階段があった。一階の客室は、大階段の左右に伸びた廊下に並んでいた。俺たちの泊まった二階へ行くには、帳場に面した大階段を使うしかない。
「帳場、真夜中でも夜行性の獣人さんが座ってたもんな」
「そうなのよ。バルバロ伯爵は相当、秘密裏に行動したいみたいね。家名に傷が付くのを恐れているのかしら?」
「そもそもバルバロ伯爵家ってのは本当にあるのか?」
俺の問いに、レモはしっかりと首を縦に振った。帝都の魔法学園に通っていたから知識があるのだろう。
「バルバロ家は代々、騎士団長を務めている家系なの」
「んん? そんな家の当主がこんな辺境の自治領まで来て、獣人族の令嬢と婚約したがるって変じゃないか?」
「変なのよ」
即答するレモ。
「バルバロ伯爵を騙ってるだけとか」
適当に言ってみた俺の推理に、レモは神妙な顔つきのままうなずいた。
「私もその線を考えてたの。でも紋章入りのカフスボタンを付けていたのよね」
「成り代わったとか?」
レモは首をかしげてから、もどかしそうに額を押さえた。
「あ~、師匠にハーピー便でも出して訊けたらいいんだけど!」
「師匠って魔法学園時代の?」
「そ。私の担当教授は帝国騎士団魔術顧問を務めてた人なの。だから騎士団には彼に世話になった人がたくさんいるし、バルバロ家についても詳しいはずよ」
貴族たちが通う魔法学園ってなぁ帝国騎士団の魔術顧問が教えに来るのか。
「すっげぇ人に習ってたんだな」
「彼のギフトも私と同じ魔術創作だったから担当してくれたの。現代の賢者って言われるほどの人物なのに、攻撃魔法に興味がなくて皇帝に再三、職を解いて下さるよう歎願したそうよ」
攻撃魔法が大好物って顔したレモが、そんな平和主義者に師事していたとは。
「どうしても彼を帝都にとどめたかった皇帝は、彼を帝立魔法学園の教授に任命したんですって。ぜひジュキを会わせたいわ!」
海面で踊る光を受けて、レモの瞳が輝いた。
「え、なんで?」
現代の賢者とか聞いてビビる俺。
「だって魔力量に制限がないジュキなら、師匠の生み出したどんな魔術だって具現化できるもの!」
そうか。どれほど優れた魔術を創作できても、人族の魔力量という限界があるわけか。
「私のたった三万越えの魔力量だって、師匠は重宝してたくらいなんだから」
レモは「たった」などと言っているがとんでもない。一般的に言われる人族上限の三倍はある。彼女は大聖女の子孫だから魔力量が桁外れなのだ。――なんてことを、魔力量が二十万を超えていて測定不能な俺が言っても信憑性ないけどな。
「そういえばレモ、冒険者ギルドならハーピー便を出すサービスも請け負ってるはずだよ」
「そうなの!?」
俺はうなずいて、
「登録冒険者以外は手数料を多めに取られると思うけど。スルマーレ島に着いたら行ってみようよ」
「行く行く! さすがジュキ、私の知らないことたくさん知ってるわね!」
レモが俺の背中に手を回して、ぎゅっと抱きしめてくれた。さすがでも何でもなく、庶民なら誰でも知っていることなのだが、自前でハーピー便を頼める公爵令嬢には必要のない知識なんだろう。
「俺からすりゃあ帝都にすごい知り合いがいて、レモの方がさすがだけどな」
「うふふっ 私たち二人合わせれば無敵ね! 相性抜群よ!」
レモの頬にいつものキラキラとした笑顔が戻って来た。潮風に吹かれながら、俺はレモの肩をしっかりと抱き寄せた。
その夜――
ラーニョ・バルバロ伯爵を名乗る魔物は再度、俺たちを襲ってきた。だが二度も獲物をのがす俺たちではない。いくつか重要な情報を手に入れることができた。
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いちゃいちゃ回で失礼いたしました!
次回は船室で夜を明かす二人――若い男女が一つの部屋で夜を過ごす・・・何も起きないはずはなく。。。そうそう、しっかりお客さんが襲ってきますよ!
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