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Ⅱ、聖女になりたくない公爵令嬢
15★アルバ公爵家の姉妹~いじわる姉と最強妹~
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聖ラピースラ王国東部、アルバ公爵領――
二本の大河に囲まれた肥沃な領土の中心で、アルバ公爵邸の白壁が朝日に輝いている。
どっかーん!!
攻撃魔法が禁じられた聖王国にはおよそふさわしくない爆音が、平和な朝の空気を破った。
「結界を張ったドアが壊されたぞ!」
公爵家の私兵たちがわらわらと城内の階段をかけあがる。
「やはりレモネッラ様の魔力の前には我々の結界など及ばなかったか」
大理石の床に敷かれた瑠璃色の絨毯の上を、兵士たちが走ってゆく。壊された木の扉の向こうは美しくしつらえられた寝室だ。その部屋の主――ピンクブロンドの髪に整った顔立ちの少女が、ゆらりと姿をあらわした。
「お母様の部屋に行かせてよ!」
ネグリジェの上にガウンを羽織った少女は、悲痛な声で懇願した。
「いけません、レモネッラ様! クロリンダ様に止められております!」
数人の兵士が少女を押しとどめる。
「お姉様はなぜこんなことを?」
少女の問いに答える者はない。
「お母様はご病気なんでしょ!? 早く回復魔法をかけてあげたいのに!」
「睡魔!」
廊下の端から一人の兵士が魔法を放った。少女の身体がゆったりと倒れてゆく。
「でかしたぞ!」
上司らしい男の称賛に、
「いえ、不意打ちだから成功しただけです。レモネッラ様に気付かれれば防御結界で防がれていました」
若い兵士は首を振った。
「レモネッラ様は強すぎる…… とうてい我々の手にはおえん」
誰からともなくそんなつぶやきがもれ、兵士たちは疲労困憊のため息をついた。
「あなたたち、またアタクシの妹に負けましたの? 本当に魔術兵なわけ?」
意地の悪い口調で尋ねたのは二十歳くらいの女性。無数の宝石を縫い付けた派手なドレスが、彼女の生まれ持った素朴な顔立ちを消し去っている。三人の侍女がせっせと彼女のくすんだ金髪を高く結い上げていた。
「申し訳ありません、クロリンダ様」
魔術兵長らしき年長の男がひざまずいてこうべを垂れた。
「我々ではレモネッラ様には太刀打ちできません!」
「知っているわ。だからけがらわしい亜人族のギルドにまで依頼をかけたのよ。お前たちが役立たずだから」
羽とレースでごてごてと飾り立てた扇をゆらしながら、眉をひそめる。
「くれぐれもアタクシの計画を邪魔しないでちょうだい」
「莫大な魔力量を誇るレモネッラ様を聖女として、王太子殿下とご婚約させましたお話ですかな?」
「そうよ。姉のアタクシはみじめにも、妹の世話をする侍女として王都に同行するの。聖女は日に三度、聖堂で祈りを捧げる義務があるから王太子様と親交を深める時間なんてないわ。そのあいだに王太子様はしいたげられた控えめな美女――そう、アタクシに夢中になるのよ!」
魔術兵長は一切の感情を顔に出さず、深々と礼をすると何も言わずに下がった。かわりに使用人の一人が手紙を持って入ってきた。
「ただ今、鳥人族の配達人がヴァーリエの冒険者ギルドからの返信を持ってまいりました」
「開封してちょうだい。なにが書いてあるの?」
使用人は封蝋で閉じられた封書を破り、中から便箋を取り出した。
「護衛任務を引き受けてくれるSSSランク冒険者が見つかったそうです。ただこの青年、ジュキエーレ・アルジェントは竜人族ゆえ――」
「ふん、竜人族ですって? あのモンスターもどきの種族、魔力は強いらしいからうちの妹を押さえ込むにはちょうどいいわね」
使用人は二枚目の便箋に視線を走らせ、
「貴国における無用な争いや差別から身を守るため、白い布で全身を覆って生活することを許可してほしい、と書かれております」
「アタクシたちだって醜い化け物の姿なんて見たくないから、ちょうど良いのではなくって?」
金箔のフレームで飾られた大きな鏡の前で、クロリンダはくすっと鼻でわらった。
─ * ─ * ─ * ─ * ─
次回、ラピースラ王国に到着したジュキが、レモネッラ嬢に出会います!
二本の大河に囲まれた肥沃な領土の中心で、アルバ公爵邸の白壁が朝日に輝いている。
どっかーん!!
攻撃魔法が禁じられた聖王国にはおよそふさわしくない爆音が、平和な朝の空気を破った。
「結界を張ったドアが壊されたぞ!」
公爵家の私兵たちがわらわらと城内の階段をかけあがる。
「やはりレモネッラ様の魔力の前には我々の結界など及ばなかったか」
大理石の床に敷かれた瑠璃色の絨毯の上を、兵士たちが走ってゆく。壊された木の扉の向こうは美しくしつらえられた寝室だ。その部屋の主――ピンクブロンドの髪に整った顔立ちの少女が、ゆらりと姿をあらわした。
「お母様の部屋に行かせてよ!」
ネグリジェの上にガウンを羽織った少女は、悲痛な声で懇願した。
「いけません、レモネッラ様! クロリンダ様に止められております!」
数人の兵士が少女を押しとどめる。
「お姉様はなぜこんなことを?」
少女の問いに答える者はない。
「お母様はご病気なんでしょ!? 早く回復魔法をかけてあげたいのに!」
「睡魔!」
廊下の端から一人の兵士が魔法を放った。少女の身体がゆったりと倒れてゆく。
「でかしたぞ!」
上司らしい男の称賛に、
「いえ、不意打ちだから成功しただけです。レモネッラ様に気付かれれば防御結界で防がれていました」
若い兵士は首を振った。
「レモネッラ様は強すぎる…… とうてい我々の手にはおえん」
誰からともなくそんなつぶやきがもれ、兵士たちは疲労困憊のため息をついた。
「あなたたち、またアタクシの妹に負けましたの? 本当に魔術兵なわけ?」
意地の悪い口調で尋ねたのは二十歳くらいの女性。無数の宝石を縫い付けた派手なドレスが、彼女の生まれ持った素朴な顔立ちを消し去っている。三人の侍女がせっせと彼女のくすんだ金髪を高く結い上げていた。
「申し訳ありません、クロリンダ様」
魔術兵長らしき年長の男がひざまずいてこうべを垂れた。
「我々ではレモネッラ様には太刀打ちできません!」
「知っているわ。だからけがらわしい亜人族のギルドにまで依頼をかけたのよ。お前たちが役立たずだから」
羽とレースでごてごてと飾り立てた扇をゆらしながら、眉をひそめる。
「くれぐれもアタクシの計画を邪魔しないでちょうだい」
「莫大な魔力量を誇るレモネッラ様を聖女として、王太子殿下とご婚約させましたお話ですかな?」
「そうよ。姉のアタクシはみじめにも、妹の世話をする侍女として王都に同行するの。聖女は日に三度、聖堂で祈りを捧げる義務があるから王太子様と親交を深める時間なんてないわ。そのあいだに王太子様はしいたげられた控えめな美女――そう、アタクシに夢中になるのよ!」
魔術兵長は一切の感情を顔に出さず、深々と礼をすると何も言わずに下がった。かわりに使用人の一人が手紙を持って入ってきた。
「ただ今、鳥人族の配達人がヴァーリエの冒険者ギルドからの返信を持ってまいりました」
「開封してちょうだい。なにが書いてあるの?」
使用人は封蝋で閉じられた封書を破り、中から便箋を取り出した。
「護衛任務を引き受けてくれるSSSランク冒険者が見つかったそうです。ただこの青年、ジュキエーレ・アルジェントは竜人族ゆえ――」
「ふん、竜人族ですって? あのモンスターもどきの種族、魔力は強いらしいからうちの妹を押さえ込むにはちょうどいいわね」
使用人は二枚目の便箋に視線を走らせ、
「貴国における無用な争いや差別から身を守るため、白い布で全身を覆って生活することを許可してほしい、と書かれております」
「アタクシたちだって醜い化け物の姿なんて見たくないから、ちょうど良いのではなくって?」
金箔のフレームで飾られた大きな鏡の前で、クロリンダはくすっと鼻でわらった。
─ * ─ * ─ * ─ * ─
次回、ラピースラ王国に到着したジュキが、レモネッラ嬢に出会います!
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