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第13話、愛し合うふたり

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「すっかり飲み過ぎちゃいました……」

 メイに寄りかかって歩くミシェルを私も反対側から支えつつ、抱きとめるようにしてベッドへ連れてゆく。

「ミシェルは皇太子妃なんだから、挨拶に来た家臣たちにつきあって毎回乾杯してやる必要なんてないんだぞ?」

 大きな天蓋付きベッドの端に腰かけたミシェルは、首に巻いたレースチョーカーのリボンを解きながら、

「だって皆さん僕とお酒を酌み交わすの、うれしそうなんだもん。断れないよ……」

 なんだか話し方まで怪しい。

「そりゃミシェルが美人だからだろ」

 なんとなくおもしろくない。配偶者たる私がすぐ横にいるのに家臣どもめ、私のミシェルをさんざんみつめて―― いや、見たって減るものじゃないけれど。

 メイは手早く紐を解いたり、いくつも刺してあるピンをはずしたりして、ミシェルの重いガウンや窮屈な胸当てストマッカーをはずしてやる。女性のドレスは複雑なのだ。

「メイ、あとは私がるから大丈夫だ。もうだいぶも更けた。休んでくれ」

「お気遣い感謝いたします、殿下」

 メイは深々と頭を下げたまま床にむかって、

「今夜はどうぞお楽しみください。幸せな夜を」

 と、つぶやいた。

 ん……? 楽しむって晩餐会はもう終わったじゃない――って……!

「ちょっとメイ!?」

 私が意味に気付いたときには、

「おやすみなさーい!」

 彼女――いや、彼は控えのに逃げて行った。

 そうだった、今夜はお互いの性別を明かして初めての夜なのだった。

 ミシェルの顔を見ると、酔っていても意味が分かったのか大きな目をさらに大きくして、何度もまばたきしている。……これはどういう反応なのかしら? 恥ずかしがっているのか、男子として一戦を交えるつもりなのか、まったく読めない。

「ミシェル、ひとつ訊きたいのだが――」

「はい、セザリオ様」

 緊張した面持ちで私をみつめるミシェル。

「きみは、ゆくゆくはヴァルツェンシュタイン帝国の皇后になる、という人生で良いのか?」

 ミシェルはきょとんとしている。

「私は今後、アルムハルト王国との関係も見直してゆくつもりだ」

 帝国内にいつ反乱が起きるか分からない地域をいくつも抱えて、つねに武器を持った兵を駐屯ちゅうとんさせるなんて、私はそんな国庫と国民の使い方をしたくない。

「だからミシェルは王国に戻って、男であったことを明かし王太子に戻るという道もあるんだ」

 ミシェルの、海の色をした両の瞳から涙があふれた。

「僕を帝国から追い出すのですか!?」

「違う! そんなつもりじゃない!」

 私はあわててミシェルの肩を抱き寄せた。 

「僕は愛してしまったんです、あなたを――」

 私の腕の中で彼は、かすかに震える声で続けた。「この心も体も、すでにあなたのものです。いまさら、いらないなんて言わないで……」

「言わない、絶対言わないから」

 彼の額に唇を押し当てる。

「私だってミシェルとずっと一緒にいたい」

 その言葉にミシェルは、ふと糸がほどけるように微笑を見せるとやさしいまなざしで、

「ミシェルは皇太子妃として、あなたをしっかり支えますって申し上げたじゃないですか」

 そういえばそんなこと―― 婚礼の儀の翌朝に言ってくれたんだっけ。

 私はうなずいて、ミシェルの頬を指先でなでた。愛のない政略結婚のすえにこんな夜が訪れるなんて思いもしなかった。

「私は皇太子として、皇帝として、ミシェルを守り続けるから」 

「うれしいですっ」

 ミシェルが私のあごのしたに頭をすり寄せた。「あ、セザリオ様。アルムハルト王国は叔父が継ぐからご心配なく」

「そうか」

 ガウンを脱いだミシェルが寒そうに見えて、肌着シフトドレスの肩に自分の長上着ジュストコールをかけてやる。それから恐る恐る、私は気になっていることを尋ねた。

「あのー、二人きりのときは女性らしくしてほしいもの――だよな?」

「へ? 僕が恋をしたのは男装したセザリオ様だけど―― 女装したいならご自由にどうぞ?」

 女装て! 私はミシェルと違って生まれつき女性だから!

「あー複雑なお顔されてますね、セザリオ様。僕、かっこいい女の人が好きなんで」

 なんとなく予想はついていたけれど。ミシェルのしたり顔がちょっと気に入らない。私は彼の両肩に手を添えると、ベッドのヘッドボードに並んだクッションの上に押し倒した。

「じゃあベッドの上でも私は男のように振舞って良いのかな?」

「むしろ本望です……」

 ミシェルは両手で自分の顔を覆いながら、指の間から私を盗み見た。「セザリオ様―― 素敵……!」

 これは重症だ。

「ほら、この手をどけて。きみのかわいい顔が見えないじゃないか」

 やんわりと彼の手をにぎる。

「うふふっ」

 と、うれしそうに笑っていたミシェルが、ふと真顔になって、

「あのっ、でも今夜はだめです…… 僕、たくさん飲んじゃったので――」

 飲むとなんなの? ――あ。

「殿方はお酒を飲み過ぎるとた――」

「ひゃぁぁぁ、言わないでくださいっ セザリオ様の美しい唇がけがれてしまう!」

 なんなのよ、それは。

「私の唇は私のものだ。勝手なことを言わないでくれ」

 憮然ぶぜんと言い放つ私に、

「僕のはセザリオ様のものです」

 言ったわね? 私は有無を言わさず彼の唇を奪った。

「んんっ」

 あら、かわいい声あげちゃって。唇をふさいだまま背中に手を回し、コルセットの紐を素早く解く。女性の衣服の構造はよーっく把握してるんだから。

「ああっ だめですっ」

 ミシェルの制止には耳を貸さず、コルセットを引きはがしてベッドの下に捨て、首元で結ばれた肌着シフトドレスの紐をほどいた。

「やだ、恥ずかしい……」

 などと言いながら、さしたる抵抗もせずに上半身をあらわにされるミシェル。

「きれいな顔していても、カラダは男の子なんだね」

 私はくすっと笑って、のどぼとけの突起から下へ向かって指をすべらせた。平らな胸の間をなぞって、ひきしまった腹直筋をなで、へそのくぼみまで――

「ひあぁぁ……」

 ミシェルはまぶたを閉じ、口を半開きにしたまま小さな悲鳴をあげた。

 私は構わず、胸の上にちょこんと乗った小さなつぼみを唇ではさむ。

「んはっ…… あっ」

 舌の先で転がしていると、それは次第に固くなる。

「色っぽい声だしちゃって。ここいじられるのがそんなにイイの?」

 もう一方のつぼみを指先でクルクルなでながらからかうと、

「ちがっ……」

「違くないでしょう?」

 顔を見ると涙目になっている。まばゆい輝きを放つピンクブロンドの髪を私の指でもてあそばれながら、

「僕は……っ セザリオ様にさわられたら全身、性感帯になっちゃうんですっ」

「あらやだ、はしたない」

「僕ばっかりずるい……っ セザリオ様も脱いでよ――」

 うるむ瞳で訴えかけてくるが、

「だーめ」

 私は冷たく言い放った。片手を彼のへその下へすべらせながら、

「ミシェルのここがちゃんと元気になるまで、お預けよ」

「い、いじわる……」

 ふくれっつらしてとがらせたその唇を、もう一度キスでふさいでやった。
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