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04、王家の秘宝

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<ベルナルド殿下から婚約破棄されてしまいました。これまで殿下に嫁ぐことだけを目標に生き、王妃になるために学んできたのに、私の人生は何だったのでしょう? 今まで耐えてきましたが、本気でお母様とお祖母様のもとへ行きたいです。唯一の救いはイザベラがベルナルド殿下と婚約できたこと。これで公爵家は安泰でしょう。イザベラがこれから、あのつらい王妃教育を受けると思うと心が痛みます>

 なんて優しい子なんだろう。しかしその翌日の日記に、恐ろしいことが書いてあった。

<お父様とお義母様から、私の役目は終わったと告げられました。表向きは遠い山の中の修道院へ入ることにするそうです。私は知りませんでしたが公爵家には膨大な借金があり、私を修道院へ入れるお金なんてないとのこと。山奥の湖に沈んで姿を消してほしいと泣いて頼まれました。最期に公爵家の役に立てるなら本望です>

「あり得ない……」

 日記を持つ僕の両手はわなわなと震えていた。彼女は何も持たずに旅立ったから、この部屋にはこれほど物があふれていたのだ……!

「シェリル嬢――!」

 だまされ命を奪われた彼女が痛ましくて、僕の口からは嗚咽が漏れていた。逆境の中にあっても前向きに生きようとした努力家の彼女がいとおしい。純粋だった彼女を返してほしい――

「そうだ、王家の秘宝」

 思い出すんだ。なんだったのか。

 僕は立ち上がり、木箱から日記の束をすべて出した。底から出てきたのは古びた置時計。べっこう細工の落ち着いた色合いが美しいが、その針はもはや時を刻んではいない。

「これだ。時を戻す魔道具――」

 僕は日記の束から魔術書を探し出した。魔法陣の書き方と呪文が載っている。

 大理石の床にチョークで魔法陣を描き、呪文を調べた。まず「テンプス・レヴェルテーレ」と唱える。それから戻りたい時間を指定する。魔術書にはずらりと時の呼び方が書いてある。一日前、二日前、一ヶ月前、一年前など。
 僕は三年前に戻ることにした。三年前は―― 「トリブス・アンニス・アーゴ」と唱えればいい。

「よし」

 魔術書を閉じ魔法陣の上に立ってから、僕はハタと気付いた。

 僕は前にも一度、時を戻したのだ! だが忘れてしまったのだ、なんのために過去に戻ったのか。記憶が消えてしまっては意味がない!!

 慌ててもう一度魔術書をひらく。延々と続く時の呼び方リストのあと、次のページに続きの呪文が書いてあった。

「ここまで読まなかったんだ」

 僕はなんていう粗忽そこつ者だろう!

 だが同じ過ちは繰り返さない。今度こそ純粋で美しいシェリル嬢を救うんだ!

 僕はずっしりと重い時計を胸に抱いて、魔法陣の中心に立つと呪文を唱えた。

「テンプス・レヴェルテーレ・トリブス・アンニス・アーゴ。メモリアム・メーアム・テネーオ・オムニア!」
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