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01、シェリル・フィオリーニ公爵令嬢、婚約破棄される
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「シェリル・フィオリーニ、お前と交わした婚約は破棄させもらう!」
華やかな夜会の席でそう宣言したのは僕の兄、ベルナルド第一王子だ。
あれ? このシーン、見覚えがあるぞ……
僕は妙な既視感を覚えた。
次のシーンも言い当てられる。兄はシェリル・フィオリーニ公爵令嬢の義妹イザベラ嬢に婚約を申し込むんだ。果たして――
「新たにイザベラ・フィオリーニと婚約することをここに宣言する!」
ほらね。思った通りだ。でもなんで分かったのだろう?
童顔で愛され上手なイザベラ嬢が、うふふ、と笑い声をあげながら兄のうしろから登場した。くるくる回ってドレスのスカートを花のように広げて、兄の腕を抱きしめる。
「大変光栄ですわ! ベルナルド殿下!」
イザベラ嬢の高い声が広間に響いた。
対するシェリル嬢はあっけに取られて、まっすぐ切りそろえた漆黒の前髪の下に緑の瞳を見開いていた。だが唇はキッと一文字に結んだまま。そのやせた頬は青ざめている。なんて哀れなんだ。僕は彼女をあ……――
いやちょっと待て。僕が彼女を愛してるって? そんなはずはない。兄の婚約者を愛するなんて考えたこともない。
だけど今、僕の心に浮かんだ想いはなんだろうか?
「ベルナルド殿下、わたくしとの婚約を破棄された理由をうかがってもよろしくて?」
シェリル嬢は背筋をまっすぐ伸ばしたまま、芯のある声で尋ねた。
「訊かずとも分かっておろう。それともお前の悪事の数々を、今この場で白日のもとにさらして欲しいとでも?」
兄の言葉に気丈なシェリル嬢はしっかりとうなずいた。
「見当がつきませんもの。お願いしますわ」
「よかろう。まずお前は、使用人にさせるべき公爵邸の掃除をイザベラにさせていたそうだな」
「え、それはイザベラが――」
「さらにイザベラのスープにゲジゲジを入れたとか」
「ゲジゲジ? ――ってなんですの?」
「それだけじゃない。イザベラのコーヒーカップに毒を盛ったとか」
「毒ですって!?」
「イザベラがコーヒーを飲まなかったと分かると、今度は公爵邸の大階段から彼女を突き落としたと聞いているぞ!」
「ええっ? そんなわけは――」
「シラを切るな!」
兄の怒声が広間に響き、シェリル嬢は沈黙した。
腹違いの妹に数々の悪事を働いたシェリル嬢は、山あいの修道院に閉じ込められることが決まった。
そう、そして僕は彼女が残した日記を読むんだ。内容は覚えていないが、そんな気がする。でもなぜ、どうやって僕が彼女の日記なんて読むんだろう?
その理由はすぐにわかった。
華やかな夜会の席でそう宣言したのは僕の兄、ベルナルド第一王子だ。
あれ? このシーン、見覚えがあるぞ……
僕は妙な既視感を覚えた。
次のシーンも言い当てられる。兄はシェリル・フィオリーニ公爵令嬢の義妹イザベラ嬢に婚約を申し込むんだ。果たして――
「新たにイザベラ・フィオリーニと婚約することをここに宣言する!」
ほらね。思った通りだ。でもなんで分かったのだろう?
童顔で愛され上手なイザベラ嬢が、うふふ、と笑い声をあげながら兄のうしろから登場した。くるくる回ってドレスのスカートを花のように広げて、兄の腕を抱きしめる。
「大変光栄ですわ! ベルナルド殿下!」
イザベラ嬢の高い声が広間に響いた。
対するシェリル嬢はあっけに取られて、まっすぐ切りそろえた漆黒の前髪の下に緑の瞳を見開いていた。だが唇はキッと一文字に結んだまま。そのやせた頬は青ざめている。なんて哀れなんだ。僕は彼女をあ……――
いやちょっと待て。僕が彼女を愛してるって? そんなはずはない。兄の婚約者を愛するなんて考えたこともない。
だけど今、僕の心に浮かんだ想いはなんだろうか?
「ベルナルド殿下、わたくしとの婚約を破棄された理由をうかがってもよろしくて?」
シェリル嬢は背筋をまっすぐ伸ばしたまま、芯のある声で尋ねた。
「訊かずとも分かっておろう。それともお前の悪事の数々を、今この場で白日のもとにさらして欲しいとでも?」
兄の言葉に気丈なシェリル嬢はしっかりとうなずいた。
「見当がつきませんもの。お願いしますわ」
「よかろう。まずお前は、使用人にさせるべき公爵邸の掃除をイザベラにさせていたそうだな」
「え、それはイザベラが――」
「さらにイザベラのスープにゲジゲジを入れたとか」
「ゲジゲジ? ――ってなんですの?」
「それだけじゃない。イザベラのコーヒーカップに毒を盛ったとか」
「毒ですって!?」
「イザベラがコーヒーを飲まなかったと分かると、今度は公爵邸の大階段から彼女を突き落としたと聞いているぞ!」
「ええっ? そんなわけは――」
「シラを切るな!」
兄の怒声が広間に響き、シェリル嬢は沈黙した。
腹違いの妹に数々の悪事を働いたシェリル嬢は、山あいの修道院に閉じ込められることが決まった。
そう、そして僕は彼女が残した日記を読むんだ。内容は覚えていないが、そんな気がする。でもなぜ、どうやって僕が彼女の日記なんて読むんだろう?
その理由はすぐにわかった。
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