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橙矢くんと今村くんの話

勝たんしか将生くん!!

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「……楽しそうだね、そーくん」
「気配を消して!背後取るな!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいご」

ピカピカの泥団子を作って喜んでいた頃からの付き合いなので、橙矢は俺の家の鍵の隠し場所を知っている。なのでこういうことはしょっちゅうある。
いやそれにしても、一人暮らしを始めたはずなのに、こちらに帰って来すぎだと思う。ちゃんとおばさんに顔見せてるか?

「何の用だよ」
「い、いや……キスシーンは無事に撮り終わったよって報告したくて……」
「おお、良かったな。愛の伝道師のお墨付きじゃん」

スマホを眺めながら言えば、俺の布団をかぶった状態のまま、端正な顔がこちらを伺う。妙に彫りの深い地蔵に見つめられている気分になるのでやめてほしい。

「そ、それ……」
「ん?」

俺のスマホを指したまま、骨張った真っ白な指がプルプル震えている。生まれたてのバンビちゃんかお前は。
指されるまま手元を見て、そして、橙矢を見る。濁った碧眼が、よくわからない感情を湛えていた。

「そーくん、楽しそうに見えて」
「そうか?」
「うん」
「あー、友達とチャットしてたからかなー……」
「ともだち」
「…………」

気まずくなって、そっと目を逸らす。言っていて烏滸がましくなってきたからだ。『気の合う友達』なんて。
……あの桃瀬くんと。
互いの足を踏み合いながらショップへと向かった俺たちは、肩を組んでショップから出て来た。
桃瀬担には背後から刺されそうだが、なんというか、こう、純粋に将生くんオタクとしての相性が良すぎた。
「まずいですよ!」「良いって、どうせバレねえって」「あっ、勝手に俺のLINE開くな!」「大丈夫。うちのメンバー、橙矢くん以外漏れなくアホだから」「フルフルするな!」と、多少の悶着はあったものの、最終的に連絡先まで交換してしまった俺たち。固い握手を交わしたあの日以来、こうして頻繁に連絡を取り合ってるわけだが。

「将生くんファンだよ。男同士でこんな話できる相手中々居ないし?」
「………………」
「はは……」

一向に口を開こうとしない橙矢に、上擦った笑い声を漏らす。なんだその沈黙。なんだその表情。せめてなんか言えよ。『友人』に対しての記述を待ってるのかもしかして。だとしたらそれは困った。困ったぞ。
何を隠そう、その友人が桃瀬くんであることは本人から口止めされている。当たり前だ。誰が推し活してる姿を推し本人に見られたいと思うのか。側から見れば俺らみたいな人種は異常者でしかないからな。

「…………橙矢くん?」
「……………」
「もしもーし、橙矢くん、大丈……」

夫……と続けた言葉は続かない。
何故ならなんと、橙矢くんはポロポロと泣いていたからだ!

「と、橙矢くん!?」
「うううううううーー!」

青い目が、海みたいに潤んでは涙が溢れ出てくる。元来真っ白な相貌が、うっすらと桃色に赤らんで、柳眉が切なげに寄って。下睫毛を揺らしては零れ落ちる水滴は、細枝をしならせる雨みたいだった。

「見苦しいものを…オェッ、お見ぜじで……っ、ごべんな……おええ!」
「泣くな泣くな泣くな!なに、どうしたの!橙矢くんはなんで泣いてるの!」
「わがらな……ううー!」

慌ててベッドに腰掛けて、布団越しに橙矢の背中を摩る。驚きのガチ泣きである。十数年来のガチ泣きである。こいつはしょっちゅう半泣きであるが、ここまで本気の涙は中々見せない。
参った、俺は橙矢の涙に弱い。昔の世話焼き颯真くんに意識を乗っ取られて優しくなってしまう。

「……っ、そーくんがぁ、」
「うんうん」

背中を摩り続けて十数分。布団と手のひらの摩擦で煙が立ち上り始めた頃、橙矢はようやっと落ち着いて来た。グスグスと鼻を啜る姿は、とでも傷ましい。イケメンって得だ。

「なんか、そーくん、おれの知らないうちに、全然知らない人と仲良くなってぇ、相対的に俺のつまらない人間性に気付いてぇ、失望されたりしたらなんておもってぇ、」
「うんうん」
「想像したらァ、」
「想像しちゃったんだ……」
「なんか、よくわからないけど、悪い想像止まらなくてぇ、」

小刻みに震えていた橙矢はとうとう、わっ!と顔を伏せてしまう。俺のシーツはハンカチじゃねぇぞと蹴り飛ばしたいところだが、今突き放したら、多分本当にこいつは首を括ってしまう。

「だってもう耐えられないよぅ、そーくんが会ってくれなくなるのも、口訊いてくれなくなるのも。……あと、おれ以外を推し始めたらとか想像しただけで…………」

生気の失せ切った目が、俺の机の上を一瞥する。
そこに鎮座しているのは、十数人もの将生くんアクリルスタンド……と、一際異彩を放つ、たった1人の桃瀬くんアクリルスタンドである。
俺とて将生くん100 %の楽園に、不純物を混ぜるのは本意ではなかった。
けれども、本人に押し付けられたのだから仕方がない。「お前ん家の将生くんパラダイスに、せめてこいつだけでも触れさせてやってくれ……頼む…こいつを将生くんの隣に……」と、ヤツらしからぬ神妙さで、懇願されたのだから仕方がない。
同僚だからこそ、できない推し活もある。神棚作り、ひいては推し本人も出入りする空間のパラダイス化はその筆頭だろう。
そんな同胞の不自由を汲んだ思いやりが、まさか橙矢のメンヘラを加速させてしまうとは思わなんだ。
だが、考えてみれば確かに、身近な人間の推し変を目の当たりにするのは、こいつの豆腐メンタルにはキツい物があったかもしれない。勘違いだとしても。
弁解らしい弁解も思いつかなかったので、取り敢えずまたその背を摩っておく。さめざめと涙を流していた橙矢が、「ォエ゛!」と咽せた。

「な、涙とまらない、本当に止まらない……このまま干からびて、みなさんに迷惑かけて、映画降ろされて、事務所クビになって……うう、植林活動の最中に遭難して一人寂しく死……」
「なんで木を植えるの……」
「贖罪……」
「贖罪」
「お、俺如きが浪費して来た……酸素を……少しでも取り戻さなきゃ……うう、息しててごめんなさい、俺なんかが酸素吸って……き、嫌いにならないで……」
「なるか馬鹿!」

思わず叫んでしまうが、残念ながらこいつは大真面目にこれを言っているのだからタチが悪い。面倒臭い通り越して、ちょっと面白いぞ。

「俺は一途なんだよ。これからもずっと将生くん一筋だ。将生くんが植林しようと脱糞しようと嫌いになることはないし」
「…………」
「お前の事だって、今更嫌いになるわけないだろ。どんだけ長い間お隣さんして来たと思ってんだ」

ゆっくりと橙矢が顔を上げる。先刻まで赤らんでいた肌も、すっかり元の色に戻ってしまっている。血管まで透けて見えそうだ。ちょっと心配になるくらい顔色が悪いが、妙な危うさを孕んだ美しさがそこにはあった。
橙矢が身じろげば、鳶色の前髪がサラリと揺れる。影が落ちた碧眼は、深海を思わせる、深い色をしている。

「……そーくん」

ヌッと伸びて来た手が、俺の前髪を摘んだ。生ぬるい体温が、毛先から伝わってくるみたいだった。目を逸らせないままの俺に、どこか影のある視線が焦点を合わせる。
変な空気だ。もったりと重くて、湿っぽくて、先刻とは違う湿度が気持ち悪い。

「垢抜けたね」
「え?」
「前髪、ワックスでセットして。眉毛も整えたんだ」
「……変か?」
「ううん、すごく似合ってる」

言葉自体は嬉しいのに、先刻からの落差とその表情から、素直に喜べない。どんな文脈だ。どんな情緒だ。バブル前後の地価かよ。
戸惑いながら「あ、ありがとう?」と言えば、血色の悪い唇が、薄く弧を描いた。将生くんの顔でそんな苦しそうに笑うな。

「……あー、友達?が、色々教えてくれるんだよ。最近」
「うん」
「いい加減、イモ男卒業させてやるって。服選んでくれたり。……はは、そいつさ。口悪いくせに、大学生の薄給でも買える範囲の店に連れてってくれんの」

『取り敢えず黒に逃げるのはやめろや、インキャ』『お前顔面に虫ついてんぞ。あ、眉毛か。ゲジゲジと見間違えたわ』なんて。俺の身包みを奪い眉を引き千切りながら、甲斐甲斐しく身だしなみを整えてくる桃瀬くん。その姿を回想してると、なんだか笑いが込み上げてくる。

「…………」
「だからさぁ、」

声を上げれば、橙矢が肩を揺らす。顔がヤバい。完全に目が据わってやがる。他人か自分かの誰かしらを殺しそうな顔だ。思春期を経て、俺はこいつの感情が少しもわからなくなってしまった。

「待っとけよ、今度のコンサート。垢抜けファンボ俺が、一番デカい声で将生くんコールしてやるからよ」

あ、また泣いた。なんだコイツ。




カナン。それは約束の地。またの名をコンサート会場。
数千人の熱気が埋め尽くす観客席で、俺は今日のために用意して来た一張羅と前髪のコンディションを整える。桃瀬くんのスパルタ指導のおかげで、前より心なしか周りの女性ファンからの視線が優しくなった気がする。
今は亡き桃瀬くんに、心中で敬礼。
『将生くん♡ウインクして♡』と書かれたファンサうちわを右手に、『愛してる♡侑♡』と書かれたうちわを左手に握りしめる。桃瀬くんはあちら側へ行ってしまったけれど、君の意思はしっかりと俺の左手に受け継がれている。
なあ、見ていてくれよ、桃瀬侑くん。『愛してる♡』というきみの声を、俺は俺の愛と一緒に将生くんへと届けてみせるぜ。
カウントダウンに声を張り上げ、主役の登場を見守る。何度経験しても、この一体感はたまらない。
大型モニターに映し出された数字が0を刻み。
ド派手な代表曲のイントロが、大気を、臓腑を揺らした。
ギャァ!何て悲鳴がそこらじゅうであがったかと思えば、会場の熱気は最高潮である。
ああ、将生くん。橙矢将生。俺の光。
ド派手なイントロと共に登場した俺の推しは、一際輝いていた。
キラキラと輝くマリンブルーの瞳に、整えられた鳶色の髪。真っ白にはためく衣装は、王子様担当の橙矢将生くんだった。

「う、うおーー!将生ーー!」

うちわ見て!ウインク!ウインクして!!あとこれは俺の同胞M瀬くんからの愛!
両手でうちわを思い切り振りたい気持ちを抑え、喉が枯れるまで叫ぶ。約束したからな、1番デカい声で将生くんコールするって。
目に眩しい青色が瞬く。数百もの厚い人波を縫って、視線がかちあう。

「う、うそ!将生くんこっち見てる?!」

右隣の女の子が、興奮気味に歓声をあげる。
はーやだやだ、桃瀬担とMCMのリュック背負ってる女は自意識過剰でいけねぇや。
将生くんは俺のことを見てるんだ!絶対そう!
勢いのまま、馬鹿みてぇにファンサうちわを胸の前で振れば、将生くんがはにかむように笑う。パチリとつむられた右目。同時にキラキラと星が散る。

「…………っ、ぎ」

それは紛れもなく、俺の声が届いた証だった。

「ま、まざぎぃぃぃぃ!!」

雄叫びを上げる俺に、左隣の女の子がギョッとした目を向けてくる。まったく、赤峰担とマックのアイシャドウ使ってる女は軟弱でいけねぇや。
なんだかもう、感極まってしまう。この何千人がひしめく空間に、まるで、俺と将生くんだけになってしまったような。そんな甘い錯覚を覚えながら、脳内に反芻するのはいつかの誓いだった。

───『自分以外になってる時は、真っ直ぐきみの目が見れる気がするんだ』
───『そーくん、おれ、頑張る。胸を張って、みんなの前に立てるようになる』

そう言って、アイツは芸能界へと飛び込んだのだ。あれから随分と遠いところに行ってしまったけれど。
夢、叶ったな。お前、最高にカッコいいよ。目頭が熱くなる。俺が見たかった光景が、今、確かに目の前にあった。

「届いたぞ!yuくん!」

喜びのまま桃瀬くん──否、同胞yuくんへと勝利宣言を飛ばす。ステージ上の同胞が、不敵に笑って拳を突き出した。


***

『将生くんは万病に効く。こんなにも気持ち良いお通じ久しぶりだもの』

便器に腰掛けたまま、コンサートの余韻を噛み締める。ついでに余熱を、ケツと推し活アカウントからひり出す。感想ツイに爆速で届くリアクション。
もしかしなくてもyuくんじゃなかろうか。yuくんだった。何してんだよ、絶対他にやる事あるだろ。しかも快腸ツイートにだけは頑として反応しねぇ。

「ん、」

と思えば、俺のウンコツイートに反応が付く。こちらは通知が来ないので、相互ではない方だろう。
ケツを拭き、水を流す。変なフォロワーもいるもんだ、なんて考えながら扉を開けて。

「そーくん」

俺は扉を閉めた。
万病に効く薬が橙矢くんだとすれば、副作用は幻覚的なサムシングだろうか。その幻覚が推しの姿なら、歓迎すべき幻覚かもしれないが時と場合にもよる。
なんでトイレ。なんでクソしたあと。こんな汚れたウンコマンが、例え幻覚でも将生くんに顔を合わせて良いわけがないだろうが。
もう一度便器に座り直せば、ドンドンドンとドアが揺れた。

「そーくん!」
「ここは一般用のトイレです!!それともなに、俺が!?俺が間違えてた!?警備員さん!俺です!ここに侵入者がいます!ヤベェファンです!ひっ捕えてください!あとできれば病院にも──」
「落ち着いておかしいのは俺だから!」
「わかってんなら帰れや!そもそもお前なんでここが──」
「顔だけでも見せてよぉ!」

本格的にベソをかきはじめた声音に、米神を揉み解す。頭痛い。でもこれはあれだ。中学時代、「芸能人だから距離取るんなら、俺芸能人とか辞める!」「ついでに人生も辞める!」と壁に穴を開けたあの時と同じだ。放っておけばまた穴が開く。トイレのドアに。

「…………………マジですぐ控え室帰れよ」
「そーくん…!」

3センチドアを開ければ、すかさず橙矢の爪先が差し込まれる。悪徳民営放送のやり口じゃねぇか。うちにテレビはありません。
そんな呪文も虚しく、開かれ、個室に差し込んできた光に目を細める。トートバッグを抱きしめる俺を、そのバカはさらに抱きしめた。マジでバカ。

「本当に何してんの?」
「…………」
「ねえ、マジでこれ見られたら俺殺されるから」
「お、俺も後追うから安心して……」
「オイバカ将生くんを殺すな!お前1人の身体じゃねえんだぞ!」

アホみてぇなやりとりをしながら、俺はトイレの入り口へと視線を巡らせる。ヤロウの母数が少なく、さらにコンサート終了からある程度時間が経っているからこそ、幸い誰とも鉢合わせてはいない。ただ、それが本当に幸運でしかない事を知っているからこそ、俺は気が気ではない。

「…………おい、」

それを知ってか知らずか、橙矢は、俺の視界を覆うように身動ぐ。おい、わかっててやってるのか。お前の背後ガラ空きだぞ。

「…………俺が1番って言って」
「は?」

耳朶を撫でる、生温い吐息。脈絡の無い懇願に、思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまう。
もう一度、「なんだって?」と尋ねれば、暫しの沈黙の末、橙矢は湿っぽい手付きで俺の襟足を摘んだ。

「………おれね、そーくんと出会ってなかったら、今頃生きてなかったと思う」
「笑えないぞ」
「冗談じゃないよ。そーくんがいたから、今のおれがあるんだよ。そーくんがあの時、おれの顔好きだって言ってくれたから。こんなものを才能として掬い上げてくれたから」
「……………」
「特別なんだ。そーくんは特別。おれの特別なの。でも、俺だけは嫌だ。俺がそーくんにとって特別じゃないと、そーくんは俺を置いていくでしょ?」
「……将生くんはファンの1人を特別扱いしたりしない」
「そーくんにだけは、ファンの誰も文句なんて言わない。だってそーくんがいたから、今の俺はアイドルなんだから」

堂々巡りである。
参ったな。完全にメンヘラスイッチが入ってやがる。
何度かコンサートには足を運んだが、こんなのは初めてである。
目線を彷徨わせれば、背に回された腕に力が入る。存外厚い胸板から伝わるのは、驚くほどにゆっくりな鼓動。鳶色の髪が頬をくすぐって、フローラルな柔軟剤みたいな匂いが鼻腔を掠める。
夢の中にいるようなシチュエーションなのに、五感全てが幼馴染の体温を拾う。

「…………」

やおら伸ばされた手が、俺のトートバッグからうちわを抜き取る。『愛してる♡侑♡』と。それはM瀬くんに託された愛だった。澱んだ碧眼が、感情を移さないまま虚に瞬く。整えられた指先がうちわの表面を、つ、と滑った。

「…………ああ、」
「お願い、お願いだよ。そーくん、言って、俺だけだって──俺が1番だって、」
────嘘でも良いから。

悲痛な声に、思わず口元が歪む。「ばかやろう」と転がり出た声は、自分でもびっくりするくらい真剣で、低い声音だった。

「何勘違いしてるのかは知らねえけど、これは知り合いのだよ、知り合いの。言っただろ、将生くんファンの友達できたって。あいつチケット落選したの。だからファンクラブ入っとけって言ったのに」
「侑って」
「これは推しの名前じゃなくて署名。お前の知ってる侑くんとは違う侑くんのな。タケシ、タロウ、イチロウ、ユウ。ほら、めちゃくちゃよくいる名前だろうが」
「………………」

何かを訴えるように、うちわの表面に爪が立てられる。全く、青野担とクソネガティブ野郎は疑い深くていけねぇや。
半ばヤケクソで柔らかい猫毛をワシャワシャと掻き回せば、高い鼻が肩口に埋められるような感触。一張羅がヨレヨレになるので程々にしてほしい。

「────『嘘でも良いから』とか言うなよ」
「…………」
「俺の愛を疑ってるのか、将生くんは」
「…………」
「一生推し続けるって言っただろ。脱糞しようと、メンヘラ野郎だろうと。……なあ、橙矢」

返事はない。代わりに、しゃくりあげるような声が肩口から聞こえてくる。これをプリンス将生くんと認めるわけにはいかないが、紛れもなく俺の可愛い幼馴染である。捨て置くことなどできるわけがない。

「橙矢くんしか勝たん!」

空々しい俺の声が、空疎に響いた。なんか言えよ。



***


「橙矢くんの演技ヤバいって。胸が締め付けられるって」
「侑、映画見てくれたんだ。ありがとう」
「うん。鳥肌たったよ。どうやって役作りしたの?」
「『キスしてみた』」
「ん?」
「『失恋してみた』」
「橙矢くん?」
「『顔すら知らない人間に、お友達のポジション奪われてみた』………」
「橙矢くん」
「『自分の預かり知らぬうちに大好きな人がどんどん変わって他人色に塗り替えられていた』」
「橙矢くん!」
「きみを殺して俺も死ぬ……」
「………もしかして違う映画の話してる……?」
「………………」
「橙……な、泣いてる……うそ…」
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