上 下
62 / 65

glass:61

しおりを挟む
3月に入った。
あと1ヶ月もしないうちに1年生も終わる。
通学路を歩くと開花する一歩手前の桜の木がちらほら目に入る。

「春だな・・・。」
独り言をつぶやくと背後から声がする。
「コーちゃんはいつの間にか詩人になったんだね!」
「神沢、そこに居たなら俺が変な独り言を言う前に声をかけてくれ。」
「いや、声をかけようと思ったところでコーちゃんが詩人になったんだからね・・・。」

神沢と2人で教室に入る。
「あ、車道君!神沢君!おはよう!」
「おう・・・おはよう・・・。」
森下はバレンタインでの出来事なんて無かったかのように今まで通り接してくれる。
まあ、いつも通り接してほしいということなんだろう・・・。
なんてことを考えながら自分の席に座る。
「・・・怪しいっすね。」
柴田が俺の机の正面から顔を半分だけ出して俺に話しかける。
「森下さんと何かあった感じっすかね?」
図星だ。
「別になんもねーよ。」
「図星って顔に書いてあるっすよ?」
なんて正直者の顔なんだ・・・。
「いや、本当になんもねーから気にすんなよ。」
「ちょっと待つっす!何かあろうが無かろうが気にはするっすよ!」
「いや、なんでだよ。」
「当たり前じゃないっすか!柴田的には幸せそうな車道君が1番好きなわけっすから!」
「な、なんだよ急に!」
柴田がニコッと笑う。
こいつはこういうことを恥ずかしげもなく言うよな・・・俺もこんだけ素直に感情を表現できるようになりたいものだ。
あ、顔は素直なのか・・・図星って書いてあるくらいだもんな・・・。

放課後、俺と柴田と桜山は図書委員の当番で図書室にいた。
どうやら今日が図書室の今年度の最終日らしい。
最後の担当が俺達というわけだ。
なので最初の方は急いで本を返しに来る人で忙しかったが、少ししたらいつものように人がほとんど来なくなった。

「相変わらず暇だな・・・。」
「そうね・・・私は落ち着いて本が読めるからこれくらい暇な方がありがたいけど・・・。」
「そんな本ばっか読んでたらいつの間にかおばあちゃんになるっすよ?」
「そんなわけないでしょ!小学生みたいな絡み方しないでくれる?」
「だって暇なんっすもん!」
俺の隣でこの2人も相変わらずなやりとりをしている。

「でも最後日ならせっかくだから掃除でもしましょうか!」
「掃除か・・・まあ、なんだかんだ1年お世話になったからなー・・・やるか。」
「面倒なこと提案するっすねー・・・」
「あら、やりたくなければやらなくて結構よ?」
「なんすかその性悪お嬢様のテンプレみたいな台詞は・・・やるっすよ!さっきのは冗談っすよ!」

そんなこんなで俺達は図書室を掃除することにした。
広い図書室だから3人バラバラの場所で担当を振り分けて掃除をすることにした。
自分の持ち場の掃除をしばらく進めていると柴田が俺のところにやってきた。
「やっほーっす!」
「やっほーっす!じゃねーよ。お前の担当ここじゃねーだろ・・・。」
「私の担当はもうほとんど終わってあと少しっすよ!手際は良い方なんっすよ!」
「お前は自慢しにきたのかよ・・・。」
「違うっすよ!告白しにきたんっすよ!」
「・・・は?今、なんて・・・」
「車道君が好きです。私と付き合ってください。」

・・・え?
しおりを挟む

処理中です...