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glass:58

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神沢の退学事件も解決し、気づけば2月の中旬・・・1年生でいられるのも残りわずか・・・
とはいっても実感なんてあるわけもなく、俺はいつも通り教室で特に何かするわけでもなく無駄に時間を費やしているのである。
もうすぐ予鈴が鳴るなー・・・なんてことを思っていると教室のドアが開き沢山の荷物を抱えた神沢が入ってくる。

「よいしょー!」
と言いながら神沢は抱えていた荷物を机の上に置く。
机に置かれた荷物の全てが男子が持つには不釣り合いな感じの包装がされている。
「よっ!コーちゃん!」
「お、おう・・・なにこの荷物・・・」
「全部チョコレート・・・バレンタインにこんなにモテたの実は初めてでさー!テンション上がっちゃったよー!」

そうか・・・今日はバレンタインか・・・
「コーちゃんはなんか興味なさそうな顔をしてるねー!」
「当たり前だろ・・・どう考えても俺には縁のないイベントだぞ?」
「そうかなー・・・俺の予想では3つは貰えると思うんだけどなー・・・」
「・・・お前それ・・・親と妹いれてるだろ・・・」
「入れてないよ!いくら俺でもさすがにそんな下らないボケかまさないから!」
「だとしたら3つも貰えるわけないだろ!やめろよ!変に期待しちゃうだろ!」
「そうだねー・・・もう期待してますって顔に書いてあるもんねー・・・そんなにニヤニヤしてたら貰えるもんも貰えないと思うよ・・・」

・・・しまった。・・・ついニヤついてしまった。
「・・・取り乱した。でも冷静に考えても誰が俺にチョコあげたいなんて思うんだよ・・・。」
「・・・1人は既に準備万端だけど・・・」
そう言うと神沢は俺の視線の逆方向に指を指す。
指の方向へ目を向けるとそこには柴田が何故かジョ○ョ立ちのような格好で立っていた。
「車道君・・・これが私の気持ちっす!」
「・・・どれがだよ。」

柴田からチョコを貰った。おそらく初めて同級生の女子にチョコを貰った。
「神沢・・・これはあれだな・・・意外と嬉しいもんだな・・・。」
「嬉しいって顔に書いてあるもんね・・・。」
「これがあと2回もあるのか・・・ワクワクしてしまうな・・・。」
「ワクワクって顔に書いてあるもんね・・・。」
「俺の顔・・・字がいっぱい書いてあるんだな・・・。」
「コーちゃんがそんなしょうもないボケすると思わなかったよ・・・」
「・・・それはなんかすまん。」

そんなやりとりのせいで期待をして1日を過ごしたが、結局柴田以外の女子からは何も貰えないまま下校時間を迎えた。
「嘘じゃねーかよ!やってくれたな!この野郎!」
と捨てゼリフを神沢に吐き、図書室に入る。
柴田は
「私は誕生日が近いので今日はお母さんにプレゼントを買ってもらいにお出かけするっす!ちなみに車道君からの誕生日プレゼントは車道君自身でいいっすからね!」
と柴田らしい台詞を残して帰ってしまったので今日は桜山と2人で図書委員の仕事をすることになった。

「そういや、2人で図書室にいるのも久しぶりだな・・・。」
「そういえばそうね。最近はずっとあの変なメガネの女がいたものね。」
「・・・お前、本当にあいつと仲悪いな・・・。」
「そうね・・・あの子がメガネザルだとしたら私が犬かしら・・・だとしたらトイプードルとかね。」
「自分のことだけいいように言いすぎだろ!」
「うっさいわね・・・少なくとも私はあんたよりは素敵な人間だし!」
「素敵な人間は人に対してうっさいとか言わねーよ。」
「・・・なんかこういうやりとりも久しぶりね。」
「・・・そういえばそうだな・・・最初に会った頃は悪口の言い合いばっかだったもんな・・・。」
「あんたがメガネがどうこう気持ち悪いこと言い始めたのがきっかけだけどね。」
「・・・それはなんか若気の至りだと思って忘れてくれよ。」
「忘れないわよ?」
「忘れてやれよ・・・昔のことなんて恥ずかしいだろ。」
「別に今もメガネ好きは変わってないでしょ・・・それに1番最初のやりとり忘れちゃったら今までの思い出全部消しちゃうことになっちゃうでしょ?・・・だから忘れないわよ。」
「・・・なんだよ急に・・・そんなこと言われたら言い返せねーだろ・・・。」
「いちいち言い返してこなくていいから。」
そう言って桜山が微笑む。

「・・・じゃあそんな言い返せないあんたに・・・これあげるわ・・・。」
「これ・・・チョコだよな・・・俺に?・・・なんで?」
「べ、別に意味なんて無いわよ!もう付き合いも長いし、腐れ縁としてあげるのよ!あ、ありがたく貰っときなさいよ!」
「ああ・・・じゃあ、ありがとう・・・」

そのあとは2人ともしばらく無言だった。
だけど、その無言も不思議と悪い気はしなかった。
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