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涼と私、そしてユリが知り合ったのは、大学に入学した4月のこと。ふらりと入ったバンドサークルで、私はユリに出会った。涼はそのオマケみたいなもんだった。
ピアノが弾けるぐらいしか取り柄のない私は、深い考えもなくバンドサークルの扉を叩いた。そこにいたのがユリだった。
ユリはいつも、雑誌に載っているような可愛らしいワンピースを身につけている。常にパンツしか履かない私は、そんな彼女を羨ましくも妬ましくも思っていた。だって私には似合わないから。
彼女がマイクを握り、ふわふわとカールした髪を揺らしながら歌うと、その場にいる人間は皆彼女に釘付けになる。そこらのアイドルなんかより、よっぽど可愛くて歌も上手いからだ。
私の『マル』というあだ名もユリがつけた。私のボブの髪型が、飼ってる犬のマルチーズに似ているかららしい。なんだか失礼な気もするが、彼女に敵うところなど一つもない私は、黙ってそれを受け入れた。なんだかんだで、私も可愛いユリが好きだったから。
人気者のユリは、常に男子に取り囲まれていた。おかげで女子の友人は少ないらしく、唯一の知り合いである私と必然的に仲良くなった。
「ほんとはもっと女の子と仲良くなりたいんだけどね」
ユリはそう言いながら、いつも私の服の袖を握っていた。女の私でもグッとくるものがあるのだから、彼女がモテるのも頷ける。
ユリ自身は男子に対して苦手意識があるらしい。取り巻きの男子に話しかけられる度に、目線で私に助けを求めていた。そんなユリが唯一、普通に話せるのが涼だった。
涼は入試の時からの知り合いらしい。電車を乗り間違え、真っ青になっているユリを助けたのをきっかけに仲良くなったという。ドラムが叩ける涼も流れでバンドサークルに入った。
そうして私は、大学生活の大半をユリと涼の3人で過ごすことになった。友人というより、手のかかる弟と妹を連れている感じに近い。
涼はどうして大学に合格できたのかわからないレベルで勉強ができなかったし、ユリは男子から逃げていつも私の影に隠れていた。おかげで私は涼の課題を手伝ったり、ユリの代わりに男子からの伝言を受け取ったり、自分のことをやる暇はほとんどなかった。
「しっかりしてよ、君ら」
2人に何度そう言ったことか。その度に2人は顔を見合わせて「ごめんね」と照れ臭そうに言うのだ。
側から見ていれば、付き合うだけ馬鹿らしいと感じるのかもしれない。でも、弟も妹もいない私には「人の世話を焼く」ということが新鮮で、少し楽しかったのだ。
そんな風に、私たちは三角形を保っていくのだと思っていた。涼からあのメッセージが来る、あの日までは。
ピアノが弾けるぐらいしか取り柄のない私は、深い考えもなくバンドサークルの扉を叩いた。そこにいたのがユリだった。
ユリはいつも、雑誌に載っているような可愛らしいワンピースを身につけている。常にパンツしか履かない私は、そんな彼女を羨ましくも妬ましくも思っていた。だって私には似合わないから。
彼女がマイクを握り、ふわふわとカールした髪を揺らしながら歌うと、その場にいる人間は皆彼女に釘付けになる。そこらのアイドルなんかより、よっぽど可愛くて歌も上手いからだ。
私の『マル』というあだ名もユリがつけた。私のボブの髪型が、飼ってる犬のマルチーズに似ているかららしい。なんだか失礼な気もするが、彼女に敵うところなど一つもない私は、黙ってそれを受け入れた。なんだかんだで、私も可愛いユリが好きだったから。
人気者のユリは、常に男子に取り囲まれていた。おかげで女子の友人は少ないらしく、唯一の知り合いである私と必然的に仲良くなった。
「ほんとはもっと女の子と仲良くなりたいんだけどね」
ユリはそう言いながら、いつも私の服の袖を握っていた。女の私でもグッとくるものがあるのだから、彼女がモテるのも頷ける。
ユリ自身は男子に対して苦手意識があるらしい。取り巻きの男子に話しかけられる度に、目線で私に助けを求めていた。そんなユリが唯一、普通に話せるのが涼だった。
涼は入試の時からの知り合いらしい。電車を乗り間違え、真っ青になっているユリを助けたのをきっかけに仲良くなったという。ドラムが叩ける涼も流れでバンドサークルに入った。
そうして私は、大学生活の大半をユリと涼の3人で過ごすことになった。友人というより、手のかかる弟と妹を連れている感じに近い。
涼はどうして大学に合格できたのかわからないレベルで勉強ができなかったし、ユリは男子から逃げていつも私の影に隠れていた。おかげで私は涼の課題を手伝ったり、ユリの代わりに男子からの伝言を受け取ったり、自分のことをやる暇はほとんどなかった。
「しっかりしてよ、君ら」
2人に何度そう言ったことか。その度に2人は顔を見合わせて「ごめんね」と照れ臭そうに言うのだ。
側から見ていれば、付き合うだけ馬鹿らしいと感じるのかもしれない。でも、弟も妹もいない私には「人の世話を焼く」ということが新鮮で、少し楽しかったのだ。
そんな風に、私たちは三角形を保っていくのだと思っていた。涼からあのメッセージが来る、あの日までは。
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