愛玩用クローンが初めて恋を知る話

宝者来価

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承 恋と生活

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寝る前に、彼の顔が浮かんでくるのだ。
キスをされた手をこすりながらドキドキして寝付けない。
今更こんな事で惚れる何て自分でも不思議だった。



翌日、客寄せ用の服を買い来た。
今までは服なんてかざりだと思っていたが、次に彼がお客さんとして来る時にどれを着ていようか
そう思っただけで心がはずんで照れてしまう。


「あれ、お嬢さん今日は随分機嫌がいいね?」

年配の女性店員ですら分かるほどに、彼女は鼻歌を歌いながら服を選んでいた。

「素敵な人に出会ったので……」
「春が来たのかい、アンタいい女だし告白しちゃいなよ」
「出来ればよかったんですけどね」

分かってる、愛玩用の自分と彼では天と地ほど出生に差があることを
それでも好きになってしまったのだ。
せめて店に来てくれるというならば精一杯のお相手をしようと心に決めた

「何か事情があるのかい?」
「ええ、でも少しでも可愛くしたくて」
「あんたいいね!そういう事ならちょっと値段オマケしてあげるよ」
「やった!」


恋をしてから毎日が楽しかった、どの色が似合うのか鏡を見て悩んだり
髪型を変えた方が喜ばれるかと美容院に行くかどうかと彼方此方の美容院の評判をきいたり

「その髪型が一番似合うのに」

別のお客様に言われた為、一旦美容院は保留にした。



クローン勇者は大量に同じ顔をしている
街であの人と同じ顔を見かけると目で追ってしまうのだ。
すぐにドレスを着ていない事に気が付いて別人だと気づく
それでも探さずにはいられ無かった。

身体を売る仲間から見ても様子がおかしいのはモロ分かりで

「あんた、お客さんと恋しちゃったの?」
「お客さんではないです!」
「ならお店で誰を探しているのよ?」
「もしかしたら来てくれるかもしれなくて……ってだけだから」
「あ、勇者様」
「えっ!?」


しかし、そこには勇者(クローン)はいなかった。


「ひっかかったわね」
「仕事に支障がなければ、いいじゃない」
「にしても勇者って皆同じ顔よね……どうやって見分けるつもり?」
「ドレスを着てたから、流石に分かるよ」

すると、その場にいた仲間たちの顔が固まった
全員が困ったような顔をして

「そういえば、あなた最近この世界に来たんだっけ?」
「うん、すぐに商売が始められて本当に助かった!」
「……ドレスなんか着てるなら、王妃様だと思う」
「私が惚れたのは男の人だよ?」
「何でかしらないけど、この国の王妃は勇者様なのよ」
「そんなっ」
「魔王様とラブラブだと思っていたけど、そんな事もするのね」



元々、誰かと付き合うなど出来ない汚れた身体だ
言い聞かせてもショックは大きくて
お客様に泣き顔を見せる訳にもいかないと、水で顔を洗い流した。


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