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143話 戦士の背中
しおりを挟む俺とレイニーはイギリス風の国、ドリにきた。
ドリに配属されていた部隊が俺たちを丁寧に案内してくれた。
俺は王様なので当然と言えば当然ではあるが、兵士たちの眼差しは何とも期待に満ちていた。『王様なのに前線に出てくる最強の戦士』――と、大間違いな噂が聞こえてくる。
やがて四天王・四番目を見下ろすことのできる高所へたどり着く。
ゴツゴツした岩肌、そして色にも見覚えがある。ティラノがフラワールと戦っていた場所に近いな。
「ピンチになってからじゃ遅いもんな」
「カドマツ様はそうですね……【スキル水:シャボン玉」
シャボン玉というよりは空に浮かぶ水の球体が現れた。
俺は【スキル:ボート】で木のボートを出して球体の上に乗りこむ。
これで四天王の攻撃が簡単には届かなくなった。
なにせ地下の穴からから地上へアリのようにうじゃうじゃ湧きでているのだ。
敵は人間に近い形をしていてカビのような青色。
そして顔は魚、それもスーパーで半額になっている売れ残りの死んだ魚。
「ちょっとキモイなあいつら」
「さ、やりますか【スキル:水 アクアソード】」
水の剣、本当にカッコいい。
大量の敵であれば本来なら大量の水で流すほうが早いが、既に何人も戦場で戦っている現状では大技はかえって怪我人を増やすのだろう。
俺をよく知らない兵士が、期待の目を向けてくる。
『カドマツ様は……どのように戦うのでしょうか?』
「戦いません!!」
『え?』
「俺の仕事はレイニーが……」
チラッとレイニーのほうを見る、やべぇッ!!
レイニーが両手を合わせている。何度も見た大技を使う前の仕草だ。
「【スキル:水――」
「レイニー駄目だッ!! 大技つかったら他の人を巻き込んじゃうでしょ!?」
「そうでした」
やめてくれたレイニー。
「……俺の役目はレイニーが人を殺さないように見張ることなので」
『カドマツ様は猛獣使いなのですね』
「そうです」
嘘は言ってない。兵士たちも敵があっという間に減っていき、うおお! とあちこちで歓声があがる。レイニーは俺のところへ戻ってきた。
「これだけ削れば、このペースならなんとかなると思われます」
「……そっか」
カミノに帰り、城の地下室で布を敷いて二人で寝ることに。
見張りは何故か元に戻った――ウルフ。
もふもふの毛皮が戻っていた。
「何で?」
「……相手のスキルを強制的に発動させる【スキル:使わせ】の持ち主がいてな」
あまりに存在感が薄かったので忘れていたらしい。
ギルドで相談したらすぐに解決したことだったらしく相変わらずの人付き合いは不器用なところはまさにウルフ。
人間の姿も嫌いじゃなかったがやっぱりウルフはモフモフのほうが落ち着く。
「それで犬の姿に戻ったのですね」
「ほら、お前たちは身体を休めないとだろ?」
「お布団」
「そうだよ(断言)」
レイニーはウルフを布団にして寝始め、すっかり爆睡。
俺も眠気が限界で毛布1枚を床にしいて眠りについた。
やれやれと見守っていたウルフも気が付けば寝息をたて、熟睡である。
そんな地下へ複数人がゆっくりと降りて行く。
二人を起こさないように部屋の扉は音をたてずに開かれた。
ティラノとサカネは、呆れた顔をしている。
「見張りの意味ないやんけ」
「もう、いつまでも手のかかる奴らなんだから――」
ティラノは寒そうなカドマツにそっと毛布をかぶせた。
起こさないように慎重に、震える手と目の前がかすむ中で。
一緒にきたシャックは黙って入り口を見張るが手を引かれていた。
「おにぃちゃん」
「どうしたのさ?」
「今夜は皆で一緒にあそこで寝ようよ!」
「……仕方ないな、エレナの頼みだし」
「そうね、エレナちゃんの頼みだものね」
「ってゆーか、こんだけ大勢いたら見張りいらんねん」
レイニーはいつもなら寝たあとにフラフラと歩くが今日は熟睡。
普段は弱い者を守るためにどこか緊張して敵の気配を探っていた。
まるで旅の途中、皆がいるから大丈夫とすっかり油断して寝ている。
『……』
そして、何も知らない火事場泥棒がドアを開けようとしていた。
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