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135話 闇の先で見たもの
しおりを挟む俺は闇のスキル使いマキナ。
色々あって今はカミノの地下で国王のカドマツと寝ている。
いやそういう意味ではなく、隣でぐーすかと寝息をたててしまって――
「まいったな」
これは少し前のグレイスノウ、マキナがいた洞窟で起きた話。
【スキル:闇】は【眠った相手の闇】が見えてしまうのだが言えなかった。
だって言う前に気絶していたから、俺が離れることも考えたが家主が離れてしまうと地理などが必要になった時に困るし連絡手段がなかった。
見えたのは日本にまだいた頃の記憶。
『神様のお役に立つためには勉強しなきゃなのよ、何でできないの』
「ごめんなさい」
『育ててやっているんだからそれぐらいして当然よね』
まぁ、酷い親もいたもんだと見てて思った。俺は異世界転生者だがこれといって世界に怨みはもっていない。神様というか女神様についてはマジで怨んでいる。
俺が闇のスキル使いなのは質問のつもりで「これ、どんなスキルですか?」と聞くつもりだったのに最初のこれと言った瞬間にスキルが決まった。
だから神様なんてろくなもんじゃない。
『何時になったらまともになれるの!?』
「ごめんなさい」
『お前がしっかり叱らないからじゃないか?』
『アタシのせいだっていうの!?』
両親が罵詈雑言でも、ごめんなさい、しか言わない過去のカドマツ。
長らく忘れていたのだがこれはブラック病だ。この世界ではそう呼ばれる症状であることは確かだった。簡単に言えば悪いことに慣れたせいで危機管理が脳から欠けてしまう精神病。
~回想~
俺は異世界転生者して仲間を作れずにいたが、パーティーに誘ってくれた男がいた。
「闇のスキルですか、それでも大丈夫ですよ!」
「本当にいいのか?」
「同じ異世界転生者だから助け合わなきゃ」
「俺は【スキル:フレンド】が使えるすごーい人!!」
「フレンド?」
「そ、俺のおかげで全国のギルドで通信可能!!」
「すごい」
俺は最も弱小と呼ばれていた3人組のパーティーに加わった。
リーダーはどんなに闇のスキルで暴れても見放さない、この約束をして俺を受け入れた。
3年ほどまともに討伐隊として活躍していたがスキルは使えば使うほど少しだが伸びる。
己が望まぬ方向に進化してしまうとは思いもよらなかった。
【スキル:闇 過去葬儀】というスキルを俺が使用できるようになってしまった。
いつも明るいリーダーの過去、日本の小学校でのことだった。
教員が忘れて行ったライターをゴミ箱に捨てたのだ。
オイルがないと思い、ゴミとしてゴミ箱へ。
でも、それは何日も捨てられることなく、やがて暑さで爆発と火災を巻き起こして死者まで出した大事件に発展してしまった。
だが犯人として特定されなかったのだ。
この出来事はギルドの、大勢がいる空間で起きた。
リーダーは子供を火事で大勢焼け死にさせた犯人として噂は広まった。
知らない男がリーダーに石をなげつけたりしたこともあり、俺はリーダーに謝りつづけた。
今のパーティーで魔王討伐すればイメージも変わると無茶な討伐に挑んだ。
リーダーは逃げ出すべき魔王を前に笑っていたのだ。
「大丈夫だって、何とかなるよ」
それは最後の声で、リーダーは魔王の放つ魔物軍団に食い殺された。
2人目は魔王の足に蹴られてコアを砕かれた。
3人目は生き残ったがもうパーティーとは呼べない。
「俺、グレイスノウの洞穴で暮らす――お別れだ」
~回想終了~
「なんでここにマキナくんが……?」
「え」
寝ようとしていたら、その生き残った女性がいたのだ。
「パンジー!?」
数百年は会わなかったかつての仲間、とても懐かしい。
「でも……良かった、無事だったんだね」
「どうしてここに?」
「カミノ城で異世界転生者を集めてユイ・フラワールさんを討伐する話をしていて」
「でも、地下に用事はないんじゃ?」
「カドマツさんが地下に忘れものしたって言うから取りにきたの」
カドマツがいた所を見れば枕があった。会議で枕を使うことはない、はず。
それより世界中で問題がおきているのに平然としている感じが怖かった。
パンジーが今、フリーで活動している異世界転生者であることぐらいは知っているがカドマツとはどういう関係なのだろうか。
「カドマツに何か脅されていたり、とか」
「無いよ!?」
「……そうか」
「カドマツさんは異世界転生者の後輩で、恩人だから」
「恩人?」
「私はジーンズで大怪我したけど、カドマツさんが無茶して私のこと治療してくれたの」
最初に見た時は過去を見る能力者かと思った。
だけど、誰かのために必死になれる、そういう奴。
イチドペンギンとの戦闘、檻のなかから見たカドマツはカッコよかった。
「カドマツのこと好きなのか?」
「えぇ!?」
「いや、国王だし……そういうエピソードがあったならそうなのかと、あ」
まずい、地下だから時間の感覚が無かった。
もう1日たってたのか。
「マキナくん?」
「ケヒ」
「……今、怒るところあったかな?」
身体がとめられない、パンジーを襲ってしまう。
俺のパンチをとめたのはカドマツだった。
顔面に直撃して血の気が引いた。
「か、カドマツ!?」
驚いて元に戻れたが、国王を殴ってしまった。というか殺したと思った。
「マキナいるのにパンジーさんが地下に行ったって聞いてさ、あ、こいつはマキナね」
何も喰らっていない様子のカドマツ、手ごたえはあったのに。
でも、なにより無事でほっとした。
「え~と、カドマツさん、私たち昔は同じパーティーだったので知っています」
「そうなの!?まぁでも、なら俺が殴られただけで済んで良かった」
「お前――」
レイニーがゆっくりと近づいてきた。
「間に合って良かったですよ」
「え?」
「カドマツ様、行きますよ」
床はいつのまにかびしょ濡れ、誰より弱いはずのカドマツには傷がついていなかった。
水が目に見えないぐらいの速さで盾になったことにようやく理解が追いついた。
「俺が殴ったのは、水だったのか」
「マキナくん」
「……近づかないでくれ」
「今なら怒っても大丈夫なんでしょ……だから1日だけ、一緒にいられないかな?」
「でも、会議があるんじゃ?」
「私は弱いから大した戦力にならなくて――会議にいても、意味ないの」
数百年ぶりに出会うのだが、まだ弱いという。
リーダーを失ってもなお力が弱いままなのが不思議だった。
でも、それより数百年ぶりにあえたパーティーの生き残りに会えたこと。
女性にふれるなんてこと、本当はしてはいけないのだろうがパンジーを抱きしめてしまった。
「え!?」
「無事で、よかった……ッ!!」
「え~とね」
パンジーは俺の頭を撫でて。無事だったのは逃げてきたからだと言う。
魔王の討伐隊には参加せずに、討伐隊に参加しても後ろの方で少し力を添えるだけ。
不甲斐ない自分が苦しいのにスキルは伸びなくて大変だったと告白された。
「そんな……ことあるのか!?」
「だからもう、引退するんだ」
「引退!?」
「戦いから離れて無人島で暮らすの、一緒にきてくれないかな!」
俺はなにを言われたか理解できなくてしばらく固まっていた。
理解が追いついて驚いた俺は飛び上がって天井を破壊してしまった。
木だったらしく突き抜けて1階の会議室に文字通り顔が出た。
大勢いて俺を見て目が点になっていたのだが、それよりもパンジーだ。
急いで地下に戻ってパンジーの肩を掴む。
「ダメなんだ、俺だって一緒にいたい、でも――」
「一緒にいれなかったら、もっと辛いもん」
「え」
「強くもなれないのに、寂しい思いなんかもうしたくないよ」
「……パンジー」
枕を忘れて取りにもどったカドマツは無言で扉をしめていた。
一緒にきたレイニーが首をかしげる。
「どうされました?」
「キスしてた」
「枕に?」
「それ寝てるだけじゃ……」
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