異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価

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51話 問いかけ

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「シャックには妹がいる。名前はエレナ。で、レイニーはいい加減服を着ろ」

服を弾き飛ばした俺がどの口で言うのかって感じだが、まだ裸のままだったレイニーに服を渡した。
ようやく全員が状況を理解したようだが、俺の場違い感といったら。
一万円札しか入ってない筈の財布に1円玉が何かの間違いで入ってしまったかのよう。
ここに残されたらホンイツに尻を狙われるし、何よりハクアの再来が怖い。
ちょっと言いにくいのだがレイニーがいないと〈カミノ国民〉に襲われるかもしれないし――

「というわけで俺もレイニーについて行く」
「カドマツをジーンズのギルドに預けることも考えたが魔王のせいで被害がかなり出たからな……今は復興に怪我人の治療など手一杯だろう」

詳しい被害状況は聞いていなかったが、ヨモギ・ティー王女やギルドにいた人々が心配になってきた。兵士長のドラレコやキャットにバルーン。大火傷を負ったパンジーとアネモネ。二人はまだ回復しきれていないのでは?

「幸いにもお前がジーンズの人々をこの国に一時避難させる案を強引に通したおかげで、今回の魔王復活による死者はほとんどいなかったがな」

あの時は俺が強引に通したというか、王女様にウルフが交渉して決断したことだった。
俺はそこまで大したことをした気はしていなかったが。

「いやーそれほどでもあるっていうかー?」
「新人くんチョロ過ぎて呆れた」
「皆でさっきのダンジョンを調べるのはいいけど、その間カミノどうするわけ?」

基本的に魔物である国民が死ぬことはないので(強さの話)、留守は兵士であるグラドに任せるという。
彼の正体はS級の魔物『首無し鎧』だから万が一カミノが襲撃されたとしても何とかなる。
レイニーがグラドを呼び出して、しばらく出かける旨を伝えた。
今回は万が一の可能性も相当ある。例えば――レイニーでさえ勝てない敵に出会う、洗脳とか毒とか。【スキル:水】効かないとか。帰ってきて魔物を見て誰かが攻撃したらグラドだった、なんて一番の最悪。グラドに頭を下げて頼み事をした。
魔物の姿を見せてほしいと。

「ボスが冥途の土産に真の力を見せてやろうってするじゃないですか」
「俺の姿なんか見ても何も面白くないぞ」
「ゴキブリみたいな気持ち悪い系のデザインなら見るのやめます」

グラドが『ミラージュ』と呪文を唱えると、兵士のときとは異なる鎧姿になる。頭は無く、胴体部に顔があった。

「俺の姿は恐ろしいか?」
「『首なし鎧』って聞いてたから首がないのは分かってたけど、胴体に顔があるの気持ち悪い」
「本当に正直な奴だな」
「まぁ友達がブサイクってこともあるよな」
「デリカシーという言葉を知れ人間」

部屋に残っていたホンイツにレイニーが落ち着いたからもうニカナに帰って大丈夫だと伝えた。
レイニーは落ち着いているわけじゃないと逆に説明された。
数百年も生きた人間は、常に頭がイカレていると。

「レイニーは僕にと言ったらしいね」
「お前の汚い姿は思い出させないでほしい」
「死ねない身体にしたのだからお前も生かしてやる、ということだよ」

 そういえばレイニーは、自分の身に何かあったら一大事だから魔王討伐には参加しないと言っていた気がする。王子様の自己評価すごいなと思った。あれはいつのことだったっけ。もうずいぶん昔のように感じられる。
たくさん辛い思いをして、強くなり過ぎた異世界転生者はスキルの威力も確かにあがる。
だがスキルだけじゃない。身体能力も同じように強くなっていく。
膨大な体力のせいで病死はおろか焼け死ぬことも、溺れ死ぬこともかなわなくなってしまう。
そしてレイニーは、その領域に達してしまった。
レイニーはになってしまったのだ。
だから何年も城の中に引きこもって、魔王討伐にには参加していなかったのだろうか。死にたがっていたようにも見えたけど。でもノアが遺した言葉があったから死ぬわけにもいかなくて。でも、本当は怖かったのかもしれない。
どんなに苦しくとも死ねない身体になって、生き続けることが。
そんなレイニーにも、力を手する前のへの優しい思いがあるとするならば。レイニーはどうすると思う、と妙に威厳のある落ち着いた声で問いかけられた。

「殺すかもしんねぇな」
「君はどうする?」
「無理」
「嫌ってことかい?」
「レイニーがやりたいことを、俺の力でとめられるわけねぇよな」

俺のスキルが通用する相手ならまだ手を考えただろう。
だが相手はレイニーだ。魔王を一撃で倒したほどの凄まじい力を持っている。
俺の目の前で人を殺すレイニーなんか見たくないし、できれば想像もしたくない。グロイし夢に出そうなので勘弁してほしいと思う。
だけど異世界転生者が死ねなくなる前に――という優しさだって、分からなくはなかった。
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