死んだら異世界に転生〜する前の境界にある集落で愛される〜

44話 集落という地獄

「さて、と」

まだ起き上がれない入江の胸倉をきぬが掴んだ


「ちょ！？」
「いいざまね、糞が」
「……恭平くんは先に集落へ帰ってね、そのうち行くから」
「こんな状況で放置できませんよ！？」
「大丈夫、ここでは『死ねない』から」

きぬはナイフを取り出してぐさぐさと入江を刺し始めた
唐突すぎて一瞬止めるのが遅れたが

「や、止めて下さい！！落ち着いて？」
「あら？へぇ、あなた私を止められるのね？」

次の瞬間には、入江はもう元に戻っていた

「危ないなぁ、ナイフ相手に向かっていけるとは無謀というか」
「どうして！？傷つきたいって思わないと傷つけないんじゃ！？」
「……お家に帰りなさい、嫌でしょ痴話喧嘩みるの」
「痛く無いんですか！？喧嘩はその、駄目ですっ！」
「坊やは痛い目遭いたくないなら、手をどけなさい」

確かに自分はマゾという訳ではない、が

「でも、入江さんが傷つくのも嫌ですよ！」
「覚悟の上かしら？」
「……はい」
「我が儘なのね、現代的で嫌になっちゃうわ」
「大体どうして入江さんの怪我はずっと怪我治らなかったんですか？」
「あれはそもそも、オジジたち集落の長だけを狙うシステムだからねぇ」

既に煙草を吸い始めている入江

「病み上がりで煙草すっていいんですか？」
「ふー……」
「あなた集落の長は罪人って事知ってる？」
「罪人？ああ入江さんが、何しでかしたのかは聞いてますが」
「集落の長は『消滅できない・転生が出来ない』って決まりがあるの」
「え？」
「……どっちか聞いて無かったのかしらね？」
「両方きいてないよ！？」
「別に構わないでしょ、オジジがしなければ結局同じ事だから」

転生も消滅も出来ない、それってどんなに辛くてもこの世界に閉じ込められて
『地獄』なのでは？
確かにいなくなってほしくは無いけれど


「けれど一つだけ方法があるの、それぞれにね」
「例えば？」
「レイシェルは『石像』が壊れたら行けるよ」
「へ！？」
「オジジの場合は……内緒」
「辛くは無いんですか！？」
「集落の皆優しいからね、みーんなオジジの孫みたいなものだし」


ん？

今、ものすごーく誤魔化された？


「ふふふ、いいわ、その子を連れて帰って頂戴」
「今は許してくれるらしい」

きぬが入江を手放した


「良かった……」
「集落へ帰ろうか？」


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「まだオジジ病み上がりだから、うちで大人しくしてるね」
「分かったけど、入江さんちゃんと安静にしててね」

ふらふらどこかに行きそうで恐いんだよね、この人