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1話 僕はもう死んでいる

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時代は平成の、中期とでもいうのだろうか
まだパソコンでネット配信を見るよりもTVが主流で
好きなドラマを録画して見るのに、カセットテープが必要なくなった頃だ


「お前、気持ち悪いな」


高校生になって男性アイドルを大好きだと話した、その返しがこれだ
幼馴染で親友だと思っていた彼が、他の有象無象に言われた罵倒よりも遙かに悲しかった
子供の頃はまだ良かった、男の戦士とかカッコいいって言えたから

父も母もテレビに映るオネェに気味が悪いと罵倒した
だから誰にも言えなくて胸の内に秘めた
あんな風になっちゃ駄目よ、母は正しいと思って僕に注意する
母を責める気は無い、僕が変なのだと思っていた

だが、その後は皆に合わせようとしてもノリについていけなかった
彼女はもう出来たのか、どんな女が、尻が胸がと性的な話題も
苦笑いするしか無くそれでも努力はしたつもりだった

「あいつホモなんだってよ」

大学生になっても、まだその声が聞こえた
何もかもが嫌になって大学をサボって海を見に行こうと思った
苦しい、息が出来ない、何かに手を伸ばしていた気がした。


―――――――――――――――――――――――――――――――



「……大丈夫ですか?」

気が付くとランタンを右手に持って、着物を来た妖しく美しい男性に声をかけられていた。


ようやく自分が地面に倒れていた事に気が付いて起き上がった
辺りを見渡せば溺れていた記憶はあるのに何故か森の中で自分は倒れていたのだ。

「えっと、僕なら大丈夫」
「どこか痛いとか、苦しかったりしますか?」
「特には……あれ!?」

持ち物が何もない、携帯電話も無い

「持ち物が見当たらないと?」
「そう、みたいです」
「ですがもっと大事な記憶を無くしてしまっているようですね」
「財布とか全部が見当たらないのに?」


「……自分が死んでしまった事、覚えていますか?」

言われて、気が付いたのはさきほどまで自分が溺れていた事
陸地にいるのがおかしい筈だと思うが、そもそも自分は最初から陸地にいたような気もしているしで訳が分からない

「えーと、溺れた記憶なら?もしかしてここ『天国』か『地獄』ですか?」
「まぁ簡単に言えば天国が近いですね、ほら」

ランタンの灯が声をかけた男の足元を照らしたが、両足の先が見えなくて

「うわ!?」
「すみません、恐かったですかね……」
「こっちこそ、その―――」
「私は高浜羅宇(たかはまらう)」
「ラウ?」

変わった名前という反応に、羅宇は時代劇などでしかみない煙管の煙草を取り出した。
真ん中の筒をトントンと指で叩く

「これの事ですよ」
「僕は山下恭平(やましたきょうへい)です、1991年生まれで20歳になったばかりで」
「え」

この反応には覚えがあった、というより自分の顔立ちが幼い

「僕、童顔だからよく間違われるけど20超えてるよ」
「今は20XX年です」
「はい?」

それは突然の未来宣言だった。

「……たまにいるんですよ、あの世に来るまでに現世でとても長い時を彷徨って過ごす人」

自分の事は、溺れた事は確かに覚えているので死んではいるのだろう
このさい死の事よりも現状が気に成った
天国に『森』『夜』『人』があるものだろうか、そして自分はこれからどうすれば?


「僕がしなければならない事って、何かありますか?」

ぼんやりとした記憶で覚えているのは死んだら閻魔様に捌かれるというイメージ

「うーん……とりあえず私の家に来てください」
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