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カモック・ヒトリー編

121話 カモック・ヒトリーEPLAST

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明日は聖女とカモックの結婚式である
国中が色鮮やかな旗をかざるなどして祝福ムードだ
世界中を救った英雄『カモック』が僧侶(プリースト)を嫁にするのだから


だが本人の顔は光に出来た影のように暗かった

「俺は世界を救ったりなどしていない!!」
「いいえお兄様は止めましたよ……」
「カモックの事だましていたそいつが悪いんだろ!?」

元からの親友であるロスタと弟が励ますも響かない
初めて国の外で出来た立場が同等の親友
自分だけがそう思っていたのだと気づかされた

「こんな俺だが……それでも選んでくれるのか?」
「パレット様が行方不明な今、また聖女が狙われるかもしれませんから」
「……」

カモックはユメカと目が合わない
それどころか顔すら見たくないそぶりを見せた

「それにパレット様はカモック様と本当は友達に成りたかったのかも」
「ふむ?話を聞く限り一方的に裏切ったようにも聞こえますが」
「パレット様は私や親友に自分を止めて欲しかったのではないかと」
「……助けてくれって言ってたりしたのかよ?」
「本当に嫌ってたら落ちていたのはカモック様だったので」
「え?」

カモックは静かに拳を握った
本人もその事は分かっている
だからこそ複雑な心境で怨みきる事が出来ないのだろう

「カモック様を最後はお助けに成ったんです」
「……それは確かに本当に嫌われてはいなかったのでしょうね」
「なら止める事が出来たって事でいいじゃんか!!」

シバエの王子は強く唇を噛んで血が流れた


「それ治しますね」
「いい……分かってるんだそんな事は」
「え?」
「裏切られたんじゃない……俺が最後まで信じてやれば、あるいは」
「何いってんだよ?最後は止められたし逃亡生活案外満喫してるかもよ?」


部屋からカモックが出て行った


「……兄が聖女の嫁を迎える態度として酷い事をお詫びします」
「仕方ないですよ」
「俺からも言っておくよ」
「私も明日に備えて休みますね」



そう言って、カモックの寝室を訪ねた
椅子に座ってぐったりしている


「失礼します」
「……具合が悪いから明日にしてくれないか?」
「明日はやって来ませんから」

しばらく考えた後に目を見開いて

「……何いってるんだ!?」
「カモック様は隠し事をしてますよね」
「え」

ユメカはカモックの左頬にキスした。

「あなたを許します」
「ユメカ?」
「お休みなさい、全ては私が見ていた夢ですから」

部屋から出ると


「お姉さま」
「スミニ君?」
「……明日この世界はありますか?」

頭がいいとは思っていたがたどり着くとは思わなかった

「無いと言えばどうします?」
「……嬉しそうではありませんね」
「本当はパレット様もカモック様を『本当に』親愛していたのだろうと思いまして」

世界樹で彼が助けた時は多分【シナリオ通りでは無い】
大げさに吹っ飛んだリンを避けて戦う為に端っこに寄らざるをえなかったから
咄嗟の事で本当の心が顔を出してしまったのなら


「この世界は無かった事になるかもしれません」
「……」
「お姉さまが歩んで来た道は確かに残りますから、どうかお元気で」
「スミニ君はどこまで予想してるの?」
「おそらくタイムリープの魔法が発動しているのではないかと」
「すごいね」


除夜の鐘が鳴り響く
いくつもの音と共に城が崩れさる
窓が消え人が消え景色が消えて


「これは!?」
「さよなら、また会えたらいいね」

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