夢のあの人

にくだんご

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妄想なら

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着いたのは長野の大きな旅館だった。
「お待ちしておりました。さっ、お荷物お持ちします。」
「あ、私何も。」
「トランクに積んであるよ。」
「え?」
運転手さんがキャリーバックを持ってきた。
「2年前に買って、真寿が使ったもの、持ってきた。服はちゃんとクリーニング出したし、化粧品もまとめてきたから、準備万端。」
妄想じゃ無いのかもしれない。そんな期待をしてしまう。でも自分が信じられない。自分の見ているもの、起きている事がここ1か月全部夢なのでは無いのかと思ってしまっている。

部屋に入ると広い庭の見える大きな窓の前に卓上一杯に並ぶ和食があった。今よそったばかりなのか、湯気が立っている。
「よし、食べよう!」
彼はさっさと座る。私も向かいに座った。
「い、いただきます。」
旨味たっぷりのご飯に涙が出た。彼が隣に座る。涙をハンカチで拭き取り、私の箸を取った
「はい、あーん。」
「え?」
「俺がしてあげたら、俺がいるって実感できるかなって。」
「あはは、妄想だったら、随分痛い人ですけどね。」
「誰もいないんだから、いいんじゃない?」
「あ、そうだ。今日俺、真寿といるから、ツイートしてないよ。それは証拠にならない?」
「でも、よくサボるじゃ無いですかあ。」
「くそお。毎日しとくんだったな、、。」
「あははっ。」
笑うと、涙腺が緩んでしまった。それを見て彼は箸を置き、抱き寄せる。
「大丈夫。いるから、俺はここにいるからね。」
「う、、ぐっ。私がこんな幸せな筈ないんです。」
「真寿を幸せにする為にきたんだよ。俺は。幸せじゃないわけないでしょ。」

妄想なら、ずっとこの中にいたいと思ってしまった。戦うと言った私の覚悟は簡単に揺らいでいる。
「私、、また逃げてる。」
「逃げてない。俺が、一緒に戦うだけだよ。」
「え?」
「俺がついてる。大丈夫。全部話して。真寿が見たもの、起きた事全部。」

1から整理した。全部が私主観の話なので、彼からしたらさっぱりになってしまうような話だったが。
まず、最初のタイムリープはお風呂で立ちくらみで倒れた時だ。湯船に落ちたと思ったら小学生の彼がいた。
「それは、俺の記憶とも一致する。頭を洗ってたら、真寿が突然湯船にドボンって。」
そして小学生澄村さんにイかされてしまい、現代に戻った。その時は打ちどころが悪かったと言うことで入院した。1週間後、お風呂でブクブクしていると、顔を上げたら合宿中の高校生澄村さんがいた。そして合宿中にもかかわらず彼は初体験を私とし、私はまたいかされてしまい、現代に戻る。その時は湯船のヘリに寄っかかり寝ていた。
そして2週間後、お風呂のドアを開けたら、そこに年上澄村さんがいた。
「飛ぶタイミングで、お父さんを見てるとしたら?」
「どういうことですか?」
「二重人格が発動するのと同時に君は僕のとこに飛んで、助けを求めていたんじゃない?二重人格は逃避のために生まれたものだからお父さんがお風呂に現れる事がスイッチなんじゃないかな。」
なるほど、たしかに何かを見るタイミングだ。立ちくらみ前も父を見たのかもしれない。顔をあげたりドアを開けたり、その先に父がいたのかもしれない。
「タイムリープする前に、お父さんにショックな事をされたんじゃない?」
一息置いて、彼は私を抱きしめながら言った。
「ニュースで見たんだけど、君はお父さんなんていませんと、警察に言ったんでしょう?」
そう。犯されていたと言う事実を知るまで、父がいた事を綺麗に忘れていたのだ。
「お父さんの存在ごと、君はもう1人の君に預けていたんだよ。」
「あの、ニュースで見たって、どこまで報道されてるんですか。」
抱きしめられていたが、彼の体が強張るのがわかった。
「もう1人の私は、父を受け入れていたんですね。」
「ニュースなんて、何が本当かわからないよ。きっとお父さんが刑を軽くして欲しくて言ったんだよ。」
必死にフォローされているのがわかった。気持ち悪い。自分が気持ち悪い。何故、どうして私はあんな男を受け入れたのだ。私のどこかで、そう言う汚いところがあるとしか思えない。
「ごめ、、なさい。」
そう言って抱きしめられていた手を離した。
「お風呂、入ってきます。」

湯船に浸かりながら、頭がいっぱいいっぱいになっている事がわかった。思考が回らない。彼の前で彼の歌を流すのはどうなのか。聞きたい。浄化したい。彼に、浄化してほしい。この汚い体も、心も。自分は汚い女だ。この期に及んで、人に助けを求めている。そんな風に考えていると、鏡に忘れていた、父の姿が映った。



澄村は考えていた。確かに彼女は小学生の自分の元にも高校生の自分の元にも来ていた。来て、愛し合って彼女は帰って行く。強い逃避の気持ちが時間を飛んで自分のところに来てるとしたら、彼女が、父に抵抗する気力が残っていなくても仕方がないのではないか?
彼女を犯した男への怒りを必死に抑えながら、彼女を救う方法を考える。その時、風呂場から絶叫が聞こえた。



夢を見ていた。澄村さんと、水族館で見た魚。私は、クラゲが好きだった。流されるように、意思を持っていないように見えて、その存在感は確かに綺麗で、どっしりと構えているように見える。振り返ると海の中にいた。クラゲがいる、彼もいる。ゆっくりと抱き寄せられる。
「大丈夫。もう、大丈夫。」



風呂に駆けつけると、彼女が鏡を割っていた。体に刺さったガラスから出血してるのにも関わらず、彼女は必死に何かに抵抗していた。澄村はそれを見て確信した。そして駆け寄り、彼女を抱き寄せると囁いた。
「大丈夫。もう、大丈夫。」
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