夢のあの人

にくだんご

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理由

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布団に寝ているのは初めてだった。
自分で移動したのだろうか。それとも母が運んでくれたのか。

丸一日以上寝てたことになるので、私はそろそろとリビングに降りた。そこには警察と、泣きながら話す母がいた。
「お母さん?」
そう言うと、警察が私の手を取り椅子まで誘導する。母は泣いて何も言わない。
「真寿さん、あなたの身に何が起きたか、覚えていますか?」
冷や汗が出た。タイムリープの事か。そんなはずは無い。それともやっぱりあれは夢で、私は彼のストーカーでもしてしまっていたのだろうか。
「なん、の、事だか分からないです。」
私の身に起きた?私がやらかしたわけじゃ無いのだろうか。
「真寿さん、一度検査を受けてもらいます。ご同行願えますか?」
「え、ちょっ。」
何が何だか分からなかった。
「お母さん!?」
母は見向きもしなかった。ボソボソと口が動いている。
「お前のせいだ」
そう見えた。

精神鑑定というものを受けた。やはり私はストーカーでもしてしまったのだろうか。
「真寿さん。よく聞いて下さい。」
初老の医者が私の目を見て話し出した。私は怖くて目が見れない。捕まるのだろうか。
「あなたはここ1か月、記憶が飛ぶことがありませんでしたか?」
確信した。やっぱりあれは私の妄想で、自分の都合の良いように解釈してしまっていたんだ。精神に異常があると刑が軽くなるんだっけか。ただ、タイムリープしてましたなんて恥ずかしくて言えない。しかもそれが勘違いだったなんて。
「あり、ました。ただ何をしていたかははっきり覚えてません。」
「はい。そうでしょうね。」
「え?」
「あなたには今人格が二つあるようです。」
…え?あれ?いや、でも覚えてる。私がしたことの妄想は、私自身以外が活動する時間なんてあっただろうか。それとも、私は妄想のような夢を見ていて、倒れたと思った時現代で私はストーカーをしていた?
こんがらがっていた。
「その人格は、ある条件下だけ現れます。あなたにはショックかも知れませんが。」
医者がより真剣な目になる。私も息を呑んだ。
「あなたのお父さんがあなたに手を出した時です。」
ドクンッと心臓が大きく鳴った。冷や汗が一気に吹き出す。
「いや、あの、私お父さん、、いないんですが。」
「あなたのもう一つの人格が全部を請け負っていました。あなたのお父さんはあなたの入浴時に入ってきては、手を出していました。お母さんがいない時間を見計らって。今回も、弟くんが通報しました。」
淡々と話す医者の声は遠くで聞こえるようだった。じわじわと現実を思い出す。私がタイムスリップ、いや、夢を見だす瞬間確かに父を一瞬見たかも知れない。
「今回もって事は。」
「弟君、裕翔君は何度も近所の警察署に来ていたようです。僕のお父さんが、お姉ちゃんをいじめる、と。どうやらあなたはお父さんと血が繋がっていないみたいですね。お父さんはあなたに近づく為結婚し、機会を窺っていたのでしょう。お母さんがここ最近夜に仕事に行くようになり、お父さんは犯行に及んだ。あなたはそれを受け入れられず、別人格に受け渡してしまったのです。」
頭がついて行かなかった。私が幸せな夢を見ている間、私の体は母の愛する人に犯されていた?
「うっ!」
背後にいた看護師がすぐにエチケット袋を出し、そこに吐いてしまった。
「あなたにはショックかも知れませんが、あなたの体内からお父さんの精子も見つかっています。お父さんは現行犯逮捕されました。」
こいつもう一発吐かせる気なのかと思ったが、胃酸が上ってくるだけだった。同時に涙も、止まらなくなってしまった。
「君、ベッドに連れて行くように。」
「はい。」
看護師に連れられ布団に横になった。
「あの、すいません。」
「はい?」
「聞きそびれちゃったんですけど、別人格の私はもう現れないんでしょうか。」
「それは、分からないそうです。ただ、別人格が現れる時は、逃避の意志が強い時です。なので、それが消えるかどうかはあなたが恐怖を克服できるかです。」
「はあ、、、。」

結局、夢だったのだ。私が本当に幸せだと、愛おしいと思っていた時間は、私が現実から逃げるための都合のいい妄想だった。
「うっ、、くっ、、、。」
涙が止まらない。夢とのギャップが激しすぎて現実を受け入れられない。昨日まであんなに幸せだったのに。私がいる場所は地獄だった。母の言葉もやっと理解できた。自分の愛する人が私を強姦していたのだ。私のせいと言われても仕方ないのかも知れない。気づかなかった。そんな風に私がターゲットにされていることが。それに、弟は父と母の間にできた子だ。
「うっ。」
また吐いてしまう。父の気がしれない。ニュースで見て、そんな人いるんだあなんて流してしまうような話だと思った。それが自分に起きたのだ。

彼とのことを思い出すのも嫌になっていた。行為中の彼が父にすり替わり、一気に嫌悪感が増す。一晩病室に泊まり、家に返された。
家に着くと、そこには誰もいなかった。



五万円が入っている何も書かれていない封筒が、机に置かれているだけだった。疲れてしまったのか、封筒を握りしめ、涙を流しながらリビングで寝てしまった。

朝、外が騒がしくて起きる。テレビをつけるとそこにはうちが映っていた。
ドンドンドンッ!
「きゃっ!」
「真寿さーん!いますよね!話を聞かせて下さい!!」
「お父さんは、合意の元だったと言っていますが、それは事実ですか?」
「実のお母さんに申し訳なさはなかったのでしょうか?」
「今回1番の被害者はあなたの弟さんですよね!?」

慌ててイヤホンを探す。スマホに繋ぎ、彼の曲を聴きながら泣いた。涙が止まらない。外の騒音は鳴り止まず。罵倒の声が部屋中に響き渡る。ああ、こうやって逃げてきたんだな、と思う。
自分のお父さんが家を出て、母が自暴自棄になった時も、じっと映画を見ていた。新しい父が来て弟ができた時、私は中学生だった。優しいお父さんだったが、お酒を飲むと私を押し倒して服に手を入れたりしてきた。嫌と言えず、母はふざけないでとだけ言って流していた。父がお酒を飲んだ日は弟と2人で寝て、父が来ないで欲しいと願った。
父が母との行為を隣の部屋でした時も、弟の耳を塞ぎながら、私は彼の曲を聴いていた。

私が逃げ続けた結果だ。本当の被害者は弟と言うのは事実だ。何も出来ない弟のために私は何もしてやれなかった。なのに弟は私を救う為に行動してくれていた。

「う、、くっ、、ふうっ、、、」
嗚咽と共に涙が溢れる。後どれだけ泣けばいいのだろう。
片耳のイヤホンが落ちた。いや、取られた?
「あ、ちゃんと俺の曲聞いてる。」
「え、、、?」

彼がいる。また、目の前に。辛い時にいつも来てくれる。いや、私が作り出したのか。
「え、、、?いや、私は。もう、逃げない、、からっ。」
泣きながら縋りたい気持ちを抑えてそう言った。私の意思の弱さが彼を作り出している。恐怖を克服しなければいけない。じゃなきゃ、前に進めない。
「真寿、遅くなってごめんね。」
「うっ。うううぅ。」
抱き寄せられる。窓が空いている。ここは2階なのに。彼の高そうな服の袖と膝が破けていた。
「私、あなたを、、。逃げる道具に使ってぅっ。私、、、はっ、ずっと、、逃げてて。」
「うん。」
「ごめ、、、なさいっ。」
「謝らないで。」
力が強くなる。
「もう一回だけ、逃げよう。俺と。」
「だめ、、。だよお。うっ、、うえっ、。」
「じゃあ、俺が無理矢理連れて行く。」
そう言って、抱き上げられる。お姫様抱っこの形になり、彼はフードを深く被った。私には帽子を被せ、玄関の方へ歩き出す。罵声やドアを叩く音が大きくなる。
怖くて体が震える。彼は私の頭を胸に寄せてドアを開けた。
「出てきたぞ!!」
「すみません、お話いいですか!?」
「あなたは誰ですか!?真寿さんの恋人でしょうか!?」
「今回の事件について、どう思われていますか!?」
「弟さんに一言ないのでしょうか!?」
押し寄せる波に動じずに彼は突き進んでいった。そして裏口に周りタクシーに乗り込む。
「とりあえず一回、長野行って下さい。」
「長野?遠いいねえ。」
「はい、急いで。高速使ってください。」

現代の彼に対峙するのが初めてで声が出ない。いや、これも私が作り出したのだろうか。タクシーには1人で乗っているのか。
「俺は、いるよ。ちゃんと。」
私の考えてることを察して彼は言った。
「でも、どう確認していいか分からないんです。」
「ほんとだよね。二重人格、だっけ?」
肩を抱き寄せられ、おでこにキスをされる。
「今はどっちなの?俺がいるってことは、違う真寿なの?」
「今の私は、私なのかな。」
「あ、わかった。真寿の知らない、俺の情報を真寿に教えてみよう。そしたら、俺が本当にここにいるって分かるでしょ?」
「でも、その提案さえ私に都合のいい提案で、私は本当は知ってるのに忘れてる事を言って、知らなかったって言うのかも。」
「難しすぎる。ちょっと面白いね。」
「だってそもそも考えて、私の大好きな推しさんが私のピンチの時に迎えに来てくれるなんて、おかしいよ!絶対。」
「タイムリープも、妄想だったと?」
「父に、犯されてたの。私がタイムリープしてると思ってた間、私は現実逃避して都合のいい妄想の中であなたとエッチしてたみたい。父との行為は、私の別の人格が請け負ってた。」
「じゃあ、お父さんに会いに行こう。」
「え?」
「夢でも妄想でもいいよ。今晩は俺といよう。明日東京に戻って、お父さんに会おう。付けてくる記者もまけたみたいだし。」
「え?」
「いやあ~。苦労しましたよ。どんな事情があるにしても、タクシー運転手としてお客さんを助けられてよかった。」
「ありがとうございます。本当に助かりました。」
「まっ、料金はしっかり頂きますがね。」
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