23 / 24
間違えたなんて思いたくない。でもこれはきっと私の駄目なところの結果なんだ。
しおりを挟む
ひとしきり泣くと、彼が朝食を食べずに家を出た事を思い出した。閉じ込められても、私は彼の体調を気にしている。彼は今年で54歳である。結婚2年目、私は私の好きな事やしたい事がだんだん分からなくなっていた。
そんな事実に、満更では無いのかもしれないと思い始めてしまった。このまま彼と添い遂げて、彼の幸せを維持する事が、役目なのかもしれない。私には何も無いけれど、彼の歌や存在を力に頑張れる人がいるのだ。沢山の人に沢山の物を与えている彼に、尽くす存在だって必要な筈だ。
分からなくなる。自分の為に何かを選択する事が、誰の為にもならないのだ。教師になりたい。でも、そうしたら児江さんは不幸になる。私が教師を諦めて不幸になる人はいない。心に靄がかかっていく。
気がつくと家事をしていた。何も考えずに流れていく時間。終えるといつものように夕方になる。今日は彼が遅いので簡単に夜食を作る。それを冷蔵庫に入れ、夜支度をする。そして眠りについた。考えれば考えるほど、児江さんといる時しか、自分の価値が無い気がして、嫌になっていた。
物音で目が覚めると彼が隣に座り、頭を撫でていた。
「おかえりなさい、、、。」
「遅くなってごめんね?」
時刻は朝5時だった。
「んーん。お疲れ様です。お夜食が冷蔵庫にありますよ?」
「もう食べたよ。ありがとう。」
ゆっくりと起き上がった。
「少し寝ますか?」
「いや。お風呂に入ろうか。」
足枷で、私は風呂に入れなかったことを忘れていた。
「おいで。」
ふわっと体が持ち上がり、風呂場に連れて行かれる。かちゃかちゃと足首から枷が外れ、そのまま服を脱がされた。
「一緒にはいるんですか?」
「嫌?」
「初めてなので、、。」
「よし脱げたね。浸かってて。」
少し浸かっていると彼も入ってきた。髪が下りている。体を流し、お風呂に浸かると私を抱き寄せた。
「華はずっと綺麗だね。」
彼はうなじにキスをしてそう言う。線の細い体だが、抱きしめられると安心する。
「児江さんといると、弱くなっていく気がします。こんなに大事にされて、私1人じゃ生きていけなくなってしまう。」
「はは。じゃあ、頑張って長生きするよ。」
振り向いて目を見つめる。
「閉じ込めてでも、私が欲しいですか?」
体を向ける。自分からキスをして、首筋を舐めおろし、鎖骨までいく。上目遣いで見ると、彼の顔が赤くなっていた。
「それ、めっちゃグッとくるね。」
「え?」
濡れた手で頭を撫でながら愛おしそうに言う。
「欲しいよ、そりゃ。手にしても足りないくらい欲しい。」
そう言ってキスをする。舌が滑り込んでくる。しかしいつものように激しくはなく、すぐにやめてしまった。
「華からして。」
「え?」
「さっきの表情、興奮した。」
どれのことを言っているかいまいち分からなかった。ゆっくりと体を寄せ、キスをした。
「華。」
「はあい?」
抱き寄せられ、頭に顎を乗せられた。
「華が綺麗すぎて、ずっと抱けなかったんだ。」
あまり意味が掴めなかった。処女だからと言うことだろうか。
「あの日、あの人、何だっけかな。」
「どの人ですか?」
「あー何だっけ。名前覚えてないんだけど、週刊誌の熱愛出たやつ。」
「あ、北海道の。」
「そう。あの一件で、華のこと傷つけて、ほんとに辛かった。ただ、この話をしたく無くて言わなかったんだけど。」
一息ついて彼が言う。
「俺、してないから。あの人と。」
「え?」
今になってこの人が不倫の言い訳をしだすとは思わなかった。ただ、椿も未遂な気がすると言っていただけ本当な気がしてしまう。
「都合良く連絡してきたあの女性と会ったけど、流石にそんな無作為に出来る物でも無くて。置いてすぐホテルを出たよ。ほんとは華と、凄くしたいんだ。でも、華を俺で汚したく無い。そう思うとどうしても反応しなくて。」
「どうして、今それを?」
言い訳では無く、今これを言いたいと思う理由が何処かにあったのだろうか。
「華の子供が欲しい。」
顔が見れず、表情がわからなかった。子供が出来れば、繋ぎ止められるからだろうか、仕事を諦められるからだろうか。
「ほんとに言ってますか?こんな歪んだ愛で、子供が育てられると思いますか?」
自分の声が強張っているのがわかった。綺麗だから抱けない。抱けないから他の人と会った。それを2年後になって未遂でしたと言う。しかも人を閉じ込めておいて子供が欲しいなんて、家畜のようだと思った。
「私だって、1人の女なんです。」
そんな事実に、満更では無いのかもしれないと思い始めてしまった。このまま彼と添い遂げて、彼の幸せを維持する事が、役目なのかもしれない。私には何も無いけれど、彼の歌や存在を力に頑張れる人がいるのだ。沢山の人に沢山の物を与えている彼に、尽くす存在だって必要な筈だ。
分からなくなる。自分の為に何かを選択する事が、誰の為にもならないのだ。教師になりたい。でも、そうしたら児江さんは不幸になる。私が教師を諦めて不幸になる人はいない。心に靄がかかっていく。
気がつくと家事をしていた。何も考えずに流れていく時間。終えるといつものように夕方になる。今日は彼が遅いので簡単に夜食を作る。それを冷蔵庫に入れ、夜支度をする。そして眠りについた。考えれば考えるほど、児江さんといる時しか、自分の価値が無い気がして、嫌になっていた。
物音で目が覚めると彼が隣に座り、頭を撫でていた。
「おかえりなさい、、、。」
「遅くなってごめんね?」
時刻は朝5時だった。
「んーん。お疲れ様です。お夜食が冷蔵庫にありますよ?」
「もう食べたよ。ありがとう。」
ゆっくりと起き上がった。
「少し寝ますか?」
「いや。お風呂に入ろうか。」
足枷で、私は風呂に入れなかったことを忘れていた。
「おいで。」
ふわっと体が持ち上がり、風呂場に連れて行かれる。かちゃかちゃと足首から枷が外れ、そのまま服を脱がされた。
「一緒にはいるんですか?」
「嫌?」
「初めてなので、、。」
「よし脱げたね。浸かってて。」
少し浸かっていると彼も入ってきた。髪が下りている。体を流し、お風呂に浸かると私を抱き寄せた。
「華はずっと綺麗だね。」
彼はうなじにキスをしてそう言う。線の細い体だが、抱きしめられると安心する。
「児江さんといると、弱くなっていく気がします。こんなに大事にされて、私1人じゃ生きていけなくなってしまう。」
「はは。じゃあ、頑張って長生きするよ。」
振り向いて目を見つめる。
「閉じ込めてでも、私が欲しいですか?」
体を向ける。自分からキスをして、首筋を舐めおろし、鎖骨までいく。上目遣いで見ると、彼の顔が赤くなっていた。
「それ、めっちゃグッとくるね。」
「え?」
濡れた手で頭を撫でながら愛おしそうに言う。
「欲しいよ、そりゃ。手にしても足りないくらい欲しい。」
そう言ってキスをする。舌が滑り込んでくる。しかしいつものように激しくはなく、すぐにやめてしまった。
「華からして。」
「え?」
「さっきの表情、興奮した。」
どれのことを言っているかいまいち分からなかった。ゆっくりと体を寄せ、キスをした。
「華。」
「はあい?」
抱き寄せられ、頭に顎を乗せられた。
「華が綺麗すぎて、ずっと抱けなかったんだ。」
あまり意味が掴めなかった。処女だからと言うことだろうか。
「あの日、あの人、何だっけかな。」
「どの人ですか?」
「あー何だっけ。名前覚えてないんだけど、週刊誌の熱愛出たやつ。」
「あ、北海道の。」
「そう。あの一件で、華のこと傷つけて、ほんとに辛かった。ただ、この話をしたく無くて言わなかったんだけど。」
一息ついて彼が言う。
「俺、してないから。あの人と。」
「え?」
今になってこの人が不倫の言い訳をしだすとは思わなかった。ただ、椿も未遂な気がすると言っていただけ本当な気がしてしまう。
「都合良く連絡してきたあの女性と会ったけど、流石にそんな無作為に出来る物でも無くて。置いてすぐホテルを出たよ。ほんとは華と、凄くしたいんだ。でも、華を俺で汚したく無い。そう思うとどうしても反応しなくて。」
「どうして、今それを?」
言い訳では無く、今これを言いたいと思う理由が何処かにあったのだろうか。
「華の子供が欲しい。」
顔が見れず、表情がわからなかった。子供が出来れば、繋ぎ止められるからだろうか、仕事を諦められるからだろうか。
「ほんとに言ってますか?こんな歪んだ愛で、子供が育てられると思いますか?」
自分の声が強張っているのがわかった。綺麗だから抱けない。抱けないから他の人と会った。それを2年後になって未遂でしたと言う。しかも人を閉じ込めておいて子供が欲しいなんて、家畜のようだと思った。
「私だって、1人の女なんです。」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる