半監禁結婚

貴方と添う事は不幸を約束されてるのかなって思います。だって私より先に逝ってしまうでしょう？

退院から1週間経ち、気付けば冬の匂いが庭を埋め尽くしていた。落ち葉を掃いていると、彼が後ろから抱きしめる。
「あ、おかえりなさい。」
「うん。寒く無い？」
そう言って上着を羽織らせてくれる。顔を向けると、優しく唇を重ねる。ここ毎日、帰ってくるとハグとキス、習慣のように繰り返ししてくれる。
「ごめんなさい。まだ夕飯が出来てなくて。」
彼が袋を取り出した。ネギや豆腐に豚肉。
「今日は俺が鍋作るから、華は休んでてて。」

ソファに座っていると美味しそうな匂いが漂ってくる。温かいご飯を食べ、先にお風呂に入り、寝室で夜支度をして彼を待つ。退院してからはそれの繰り返しだった。彼が寝室に来たら一緒に眠りについて、朝起きると彼は散歩に出ており、私は朝ごはんを用意する。
夜の話はお互いしなくなった。寝る前に彼は必ず、愛していると言う。その言葉を聞くと、その気がないと言われている気がしてしまう。

そんな日々が続き、彼と3年目の夏を迎えた。木漏れ日の石段を登ったあの場所で出逢ってから2年間、私の不調から彼はずっと尽くしてくれ、離婚など言い出せずにきた。椿も彼と話した後、あまり離婚を勧めなくなり、それからと言うもの私も、これが幸せなのでは無いかと思っている。自分が彼を愛しているかは、わからないままだった。

教育学部で学び、中学校の教員になろうと思った。中学生のとき大好きな先生がいた。男の理科の先生で、私が家に帰りたく無い時には理科室で勉強を教えてもらった。
ただ、児江さんに言うのが、少し怖かった。ここ2年間、彼と出かけるか、椿と会うか家族と会うか以外外出していない。なるべく家にいて欲しいとはっきり言われてしまった。教員になるなどと言ったらきっと嫌がるだろう。教育実習前日まで話を持ち越してしまった。

「この間お義母さんに言われたんだけど。」
話すタイミングを伺っていると、児江さんが話し始めた。
「華が先生になりたいって。」
先手を取られるとは思わなかった。何て言われるんだろう。
「あ、その。」
「華は家で俺の帰りを待つって言ってくれてたから、そう伝えたよ。」
「え、、、？」
「初めて家に来た時、覚えてない？」
たしかに、児江さんが帰ってきたくなるように、家の事をしたいと言った。でも、仕事をしないでこのまま、彼を毎日待ち続けるなんて考えてなかった。
「それから華はずっと家を守ってくれて、俺が帰ってきたらいつもいてくれて、俺はもうこの生活がないと無理なんだ。」
「児江さんが、帰るまでには家に帰ります、、。」
ボソボソと言った。児江さんが立ち上がる。少し怖くなった。
「華。好きだよ。」
上を向くと、愛おしそうに、少し悲しそうに撫でられる。
「離れないで。」
そう言ってキスをする。このまままた流されてしまうのだろうか。そんなのはいやだ。何より、彼と結婚したことをこれ以上後悔したくなかった。
「明日から2週間、教育実習なんです。」
撫でていた手が止まる。顔がこわばっていた。
「家には、帰りますから。」
彼の顔を見るのが怖くて、足早にお風呂に入った。寝室に入ると、彼が風呂に向かう。話すのが嫌で先に寝てしまった。

目が覚めると彼はいつものようにいなかった。朝ごはんの準備をして、今朝は彼が帰る前に家を出なくてはいけない。
準備をしようと布団を出ると、違和感を感じた。ジャラッという金属音
「え、、、っ？」
足首に重たい鎖が繋がれていた。