半監禁結婚

使えるものは使ってかないと後悔する事になるよ。自分の1番大事なものはなんなの？

「華、、、！」
「あ、、。椿。」
「大丈夫なの？座ってぼっとして、明日にでも死ぬような顔して。」
「死なんわ。明日退院だよ。」
「ごめんね、すぐ来れなくて。」
「いやいや、テストどうだった？」
「そんなことどうでもいいよ。華の体調が、、、。」
「あ、誤魔化した。」
胸の膨らみは無くなり、きっちり伸びていた背筋は弱々しく細くなっていた。まさか入院する程弱っていたとは思わなかった。
「離婚、どうなったの。てかあいつ！まじクソ！なんなん！？」
そう聞くと華は寂しそうに微笑み、窓の外を見た。
「私がいないと、もうだめみたい。あの人。可哀想になっちゃった。」
「え、、、。いや、そんな理由で華が我慢するの？」
「もうちょっと考える。今は、ごちゃごちゃで分からないの。後悔したくない。」
「華。」
そう言って肩を掴む。泣きたくなるほど、薄くなり骨を掴んでいるような感覚。華は真っ直ぐ私を見た。どこか遠くを見ているような目。
「基準を、人に置いちゃだめだよ。」
「え、、、？」
「華の意思で、結婚したんでしょ。親から解放されたかったからでもない、あの人の為でもない。華が、結婚したいと思ったから、したんでしょ。」
目に涙が溜まっていた。それを見て自分の胸も熱くなる。
「離婚だって。これからの事も、華の意思で決めなきゃだめだよ。やっと、華が自分で選んだ事なんだから、それに苦しめられるなんて絶対にだめ。」
「椿、、。」
華を抱き寄せる、折れてしまいそうな体が震えている。
「ありがとう。」
華は何度もそう言いながら泣いていた。

病室を出ると、そこには細身の男性がいた。身長はさほど高くないが、妙な威圧感がある。
「椿さんでしょうか？」
目が合うとそう言われた。
「あ、はい。もしかして、」
「本庄児江です。」
「ああ。高藤椿です。」
しばらくの沈黙。
「少し、話しませんか。」
本庄にそう言われ、応じた。自販機でコーヒーを二本買い、彼はベンチに腰掛けた。黙って少し距離をとり隣に座る。
「どうぞ、この前の電話はすいません。」
そう言いながらコーヒーを渡される。
「あ、いえ、私も失礼なことを。」
「いえ、正論です。」
少しこっちに体を向けると、真っ直ぐ目を見て言う。
「私は、華とは離婚しません。」
「それは、華が決める事です。」
負けじと目を見返す。
「華は、強いわけではないです。あなたと上手くやっていくほど経験も多くない。」
「僕は、そこを好きになってしまったんです。」
「はあ。」
「華の、儚く、しかしそこで逞しく生きようとする彼女を好きになってしまった。純白すぎるんだ、彼女は。」
キザなセリフにコーヒーを吹き出しそうになる。
「それ、言ってて恥ずかしくないんですか。」
彼の顔が緩む。柔らかい笑顔だった。
「歌手なのでね。」
なるほど、確かに、ほっとけないタイプなんだなと思った。そこが人を惹きつけるのだな。
「汚せない。僕の手で、彼女を汚していいものかと、考えてしまうんだ。」
「30以上年上のおっさんとこんな話するのも嫌なんですけど、それ男の人と女の人の認識の違いじゃないですか？」
不思議そうな顔をする。
「華は、汚い行為なんてこれっぽっちも思ってないと思いますよ。なんか言うじゃないですか、男は視覚で興奮するけど、女は心で興奮するって。」
「いや、初めて聞いたよ。」
「あ、そうすか。」
暫く黙る。せっかく真面目に話したら、なんとなく恥ずかしい思いをさせられた。
「ぷぷっ。」
沈黙に耐えられなくなったのか、笑い出した。
「君、華と付き合ってきただけあって面倒見がいいんだね。こんなジジイと真剣に話してくれて。」
黙っていた。この男を許したわけではない。
「華の事は、1番に考えてる。本気で愛してる。椿さんは不満もあるだろうけど、これは夫婦の問題だ。」
そう言って立ち去っていった。病室に向かったのだろう。華が好きになりそうな男だと思った。話していて、安心感がある。それでいて、きっと華はどこか心をくすぐられるのだろう。多分してないな。あの人。不倫とかそんなしょうもない事できる人じゃない。私の父とは、全然違う。そう思った。