7 / 24
真っ直ぐな人間ほど扱いやすい。その上、何かを託したくなってしまう。
しおりを挟む「彼は、いい男だよ。」
「え?」
「大丈夫。君の家族は、愛情だけは一丁前だ。」
彼は何かを確信した目をしていた。
緊張で寝れなかったせいか、彼の肩で私は寝てしまっていた。そして目が覚めると、ふかふかの大きなベッドだった。彼は隣に座り、細い眼鏡をかけ、本を読んでいた。
「眼鏡、、、。」
「お、起きたかい?」
「ごめんなさい私、寝てしまって。」
「可愛い寝顔だったよ。」
そう言って細く、綺麗な手で頭を包まれる。まだデートも、キスもした事も無い彼の手は私の体に既に馴染んでいた。
時計を見る。17時を回っていた。
「お腹、空いた?」
ご飯は一緒に用意した。カップルみたい、そう思った。食べる時は黙っているタイプのようだ、一言も話さなかった。食器を片付けながら、彼が話を始める。
「明日婚姻届出そう。大学は通信の同じ学部もあるみたいだね。通ってもいいけど、通信に移動もありなんじゃ無いかな。教員になる人が多い学部なんだね。華は、卒業したら就活なんてしなくていいからね。」
「え、、?」
「家で好きな事しなよ。先生だって、お母さんが喜ぶからって目指したんじゃないの?」
そうなのだろうか。結婚が決まって、解放感を得ると同時に、自分の事がわからない不安があった。
「専業主婦になれって言ってるわけじゃなくてさ、家事だって代行に頼んでいいから。自分の好きな事をする時間を作ったほうがいいよ。」
「もう少し、考えます。私、自分のしたい事がわからなくて。」
彼の顔を窺ってしまう。相変わらず無表情だ。
「そうか。欲しい物があったら、なんでも言ってね?」
「ありがとう、ございます。あ、でも私家事したいです。」
「え?」
「こんなにいろいろしていただいて、何か返したくて。せめて本庄さんが帰ってくるのが楽しみになれるように家で待ってたいんです。料理とか、あんまりやって来なかったんですけど、努力します。」
洗った食器を並べる手が止まった。彼は真っ直ぐこっちを見ると、私の頬に手を当てた。キス、、、されちゃうのかな。そう思ったが、彼は頭を撫でて優しい表情で言った
「ありがとう。華がいるだけで早く帰りたいって思うけどね。でも嬉しい。」
「えへへ。」
「あと、本庄じゃなくて児江ね。華は、本庄華なんだから。」
「こ、、児江さん、、。」
顔が赤くなってしまう。
「華、、可愛い。」
そう言って抱き寄せられる。
「ちょっと仕事があるから、華は先お風呂入って寝ててね。」
「あ、、わかりました、、、。」
私が返事をすると彼はおでこにキスをして書斎のような部屋に入ってしまった。
広い家で1人になったような、寂しい気持ちになる。ここで暮らしていく。大学には1年半行っていないので、通信にしてもいいかも知れない。ブブッとスマホが振動する。ラインが来た。
「月一ご飯の時期が来ましたが、宣言が明けないので電話しましょう。」
高校からの友達の椿だ。突然起きた事を言ったら、きっと驚くだろうな。でも、しばらく会う事ができなさそうだ。文面で事情を伝えるのも申し訳ないと思った。話したい事があると送り、庭が見えるベランダに出て、電話をかける。
「もしもし?」
能天気な声、椿には自分を曝け出せる。ふざけあったり、家族事情について言いづらいことも、なんでも真剣に、場合によって笑って聞いてくれる。
「椿。あの、実は。」
「えー何ー!彼氏でもできたの?」
「あー近いっ。近いなあ。」
「えーセフレ?ちょっとあんたハメ外しすぎなんじゃないの。」
「ちがうわい~!」
この感じ、久しぶりだ。話し方も気にせず、面白おかしく話せる。椿は私のこの緩い話し方が好きだと言ってくれる。
「彼氏に近いでセフレ以外ないでしょ。」
「驚くと思うんだけど、、。」
「ぷはっ!めっちゃ溜めるじゃん!」
「結婚、するの。」
「、、、。」
沈黙。
「ふふっ。」
「へあっ?」
同時に声が漏れてしまう。
「あはっ!何それ!?」
「話すと長くなるんだけどね、、」
そう言って石段で出会ったところから順に話した。椿はツッコミを入れながら聞いていた。
「待ってやばいそれ、、。お茶かけられて無表情でいれる人いるん?」
「え、そこ?」
笑いが止まらなかった。自分が深刻に考えていたことも、椿に話すと笑い話になってしまう。だからいつも気持ちが救われるのだ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
シチュボ(女性向け)
身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。
アドリブ、改変、なんでもOKです。
他人を害することだけはお止め下さい。
使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。
Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる