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時が経てど変わらぬモノ
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事態が収まった後、サフィラはエーベネに半強制的に部屋に連れ戻された。
蝶の姿で人を連れるのは、魔力を使ってでも骨が折れた。
『あのねサフィラ。別に貴女の趣味を否定するわけではないの。けどね、貴女はルージュ最高峰の女なのよ? その辺分かって行動してるのかしら?』
あくまでもルージュとしての自覚をもって行動しろ。これはもう、召喚された時から何度も何度も言った事だ。
「ごめんなさい。つい理性を投げ捨ててしまったわ」
『気を付けなさいよ。まったく……』
「けど、マール可愛かった」
「あれは完全に受けよ受け。バリネコよ」
深くため息をつき、机に付す。
腐女子にとって、あの光景を見て興奮するなというのは随分酷な話。あれを見ただけで、気分最高潮だ。白飯三杯はいける、玄米でも可だ。
エーベネは、本日何度目かのため息を漏らす。
『サフィラ。貴女はそろそろ結婚してもいい年頃よ。私が何を言いたいのか、分かるかしら?』
言いたいことは痛いほど理解できる。
サフィラはルージュの一人娘。そろそろ婿を取らないと、ルージュの血が絶える。サフィラとてそこに危機感を感じていないわけではない。だが、BLが好きだ。
「結婚ねぇ、素敵な事ね。だけどボーイズラブの方が素敵よ」
『歪みないわねぇ……。私はね、貴女の遺伝子を残してほしいのよ』
「そう? それなら心配しなくていいわ。私、別に男に興味が無い訳じゃないの」
少しだけ照れくさそうに、ふふっと笑う。
主のこの表情、初めて見た。エーベネは『そう』と短く返事し、これはチャンスかもしれないとサフィラが思いを寄せているかもしれない男を思い巡らせた。
専属と言ってもいい程にルージュの女に仕えることが多いエーベネ。
美の使い魔として、美の家系であるルージュがここで途絶えられたら非常に困るのだ。どのくらい困るかと言うと、蝶の羽が無い時くらい困る。蝶に羽がなかったら、ただの変な虫ではないか。
ならば専門外ではあるが、恋のキューピットにでもなってやろうではないか。燃えるエーベネに気付いたのか、サフィラが苦笑いを浮かべた。
〇
マール達を寮まで見送ると、エテルノとアサナトは海の方でこれからどうするのか話し合っていた。
「で、僕等どうする?」
おそらく、同じ苗字の奴は生きていないだろう。自分たちは結婚すらもしなかったし、他の兄弟は皆女だ。いるのなら頼りにしてもよかったのだが。
「やっぱパデラたちのところ行くか?」
アサナトが提案した。
いい案ではあるが、それは最終手段だろう。こちらも大人としてのプライドがある。
「だけどなぁ。大人が子どもの世話になる訳にもいかんだろ」
「確かに」
それにはアサナトも納得のようだ。
そもそも自分たちの存在を出していいのかという話しがある。
「というか、俺等伝説で死んでんだろ? 姿出して大丈夫なん?」
「いくら姿が書かれてないとはいえ大丈夫なわけないが、出さないとどうにもならん」
「だよなぁ」
二人が少し考えて出た答えは、シンプルだった。
「アサナト。とりあえず、役所行くぞ」
「だな」
困った時の役所。エテルノもアサナトも昔にそう教わった。
転移魔法でそこまで飛び、中に入ってみる。驚くことに場所も外見も全く変わっていなかった。中が少し新しくなったかなくらいだ。
窓口に座っていた女役員に声を掛けると、右手側にあるパネルを示した。
「魔力照合お願いします」
これも変わっていない。やり易くて助かる。
エテルノから先にパネルに手を合わせ、魔力を出す。照合完了と文字が出たその後に、アサナトも同じことをする。
「はい、ありがとうございます。えっと、エテルノ・マール様と、アサナト・パデラ様ですね。承りました、本日はどのようなご用件で……」
「……ん? エテルノ、アサナト……」
案の定つっかかったようだ。そりゃそうだ。伝説を確認してみたところ、姿は記されてなくとも、名前ははっきりと書かれていた。
「あ、あの、驚かないでくださいね。僕等死んでないんですよ」
あまり騒がれると困るから、静かに告げる。だが、向こうからしたら驚くななんて無理な話。目の前に織田信長がいたら驚くだろ、そう言う事だ。
「えー! ちょ、ヴァイスさん! 大変です! 伝説が!」
女役員は大声を上げ、思わず立ち上がった。衝撃のあまり言葉をうまく紡げずに、口をぱくぱくさせている。
「なんだうるさいぞ。伝説がどうしたって……」
騒ぎ声を聞いて、不機嫌そうな上司がやってきた。そいつも示された魔力を見て、声こそあげなかったが目を見開く。そして、パネルとエテルノ達を交互に見て、マジかと声を漏らした。
席を変わり、冷静に本人確認と質問を始めた。
「えっと、確認しますね。使い魔の名前は?」
「俺はピピル。爬虫類系のやつ」
「アレルっていう、大蛇の使い魔」
「では、得意魔法は?」
「風」
「炎だぜ」
「お二人の職業は」
「遊戯戦闘魔法使い」
「俺もー」
「連勝記録は覚えてますかね?」
「それは覚えてない……ただ、負けた事はないですよ」
「ちょっとまて、俺一回お前に勝てたぞ」
「そうだっけか? 時間切れで引き分けはしょっちゅうだったけどな」
「そうだよ!」
いくつか投げられた質問を難なく答えた。本人なのだから、答えらえない訳がない。記憶にないものもあるが。
魔力照合で出たのだから間違いないが、改めて確信したようで、信じられないと震える。
……そんな事はあったが、役所での手続きは直ぐに終えた。とりあえず、寝床は見つけられて一安心。これからどうするかは後に考えよう。
時刻は夜九時ほど。すぐ隣で爆睡するアサナトに腕を回し、暖かい魔力を感じながらエテルノも眠りについた。
蝶の姿で人を連れるのは、魔力を使ってでも骨が折れた。
『あのねサフィラ。別に貴女の趣味を否定するわけではないの。けどね、貴女はルージュ最高峰の女なのよ? その辺分かって行動してるのかしら?』
あくまでもルージュとしての自覚をもって行動しろ。これはもう、召喚された時から何度も何度も言った事だ。
「ごめんなさい。つい理性を投げ捨ててしまったわ」
『気を付けなさいよ。まったく……』
「けど、マール可愛かった」
「あれは完全に受けよ受け。バリネコよ」
深くため息をつき、机に付す。
腐女子にとって、あの光景を見て興奮するなというのは随分酷な話。あれを見ただけで、気分最高潮だ。白飯三杯はいける、玄米でも可だ。
エーベネは、本日何度目かのため息を漏らす。
『サフィラ。貴女はそろそろ結婚してもいい年頃よ。私が何を言いたいのか、分かるかしら?』
言いたいことは痛いほど理解できる。
サフィラはルージュの一人娘。そろそろ婿を取らないと、ルージュの血が絶える。サフィラとてそこに危機感を感じていないわけではない。だが、BLが好きだ。
「結婚ねぇ、素敵な事ね。だけどボーイズラブの方が素敵よ」
『歪みないわねぇ……。私はね、貴女の遺伝子を残してほしいのよ』
「そう? それなら心配しなくていいわ。私、別に男に興味が無い訳じゃないの」
少しだけ照れくさそうに、ふふっと笑う。
主のこの表情、初めて見た。エーベネは『そう』と短く返事し、これはチャンスかもしれないとサフィラが思いを寄せているかもしれない男を思い巡らせた。
専属と言ってもいい程にルージュの女に仕えることが多いエーベネ。
美の使い魔として、美の家系であるルージュがここで途絶えられたら非常に困るのだ。どのくらい困るかと言うと、蝶の羽が無い時くらい困る。蝶に羽がなかったら、ただの変な虫ではないか。
ならば専門外ではあるが、恋のキューピットにでもなってやろうではないか。燃えるエーベネに気付いたのか、サフィラが苦笑いを浮かべた。
〇
マール達を寮まで見送ると、エテルノとアサナトは海の方でこれからどうするのか話し合っていた。
「で、僕等どうする?」
おそらく、同じ苗字の奴は生きていないだろう。自分たちは結婚すらもしなかったし、他の兄弟は皆女だ。いるのなら頼りにしてもよかったのだが。
「やっぱパデラたちのところ行くか?」
アサナトが提案した。
いい案ではあるが、それは最終手段だろう。こちらも大人としてのプライドがある。
「だけどなぁ。大人が子どもの世話になる訳にもいかんだろ」
「確かに」
それにはアサナトも納得のようだ。
そもそも自分たちの存在を出していいのかという話しがある。
「というか、俺等伝説で死んでんだろ? 姿出して大丈夫なん?」
「いくら姿が書かれてないとはいえ大丈夫なわけないが、出さないとどうにもならん」
「だよなぁ」
二人が少し考えて出た答えは、シンプルだった。
「アサナト。とりあえず、役所行くぞ」
「だな」
困った時の役所。エテルノもアサナトも昔にそう教わった。
転移魔法でそこまで飛び、中に入ってみる。驚くことに場所も外見も全く変わっていなかった。中が少し新しくなったかなくらいだ。
窓口に座っていた女役員に声を掛けると、右手側にあるパネルを示した。
「魔力照合お願いします」
これも変わっていない。やり易くて助かる。
エテルノから先にパネルに手を合わせ、魔力を出す。照合完了と文字が出たその後に、アサナトも同じことをする。
「はい、ありがとうございます。えっと、エテルノ・マール様と、アサナト・パデラ様ですね。承りました、本日はどのようなご用件で……」
「……ん? エテルノ、アサナト……」
案の定つっかかったようだ。そりゃそうだ。伝説を確認してみたところ、姿は記されてなくとも、名前ははっきりと書かれていた。
「あ、あの、驚かないでくださいね。僕等死んでないんですよ」
あまり騒がれると困るから、静かに告げる。だが、向こうからしたら驚くななんて無理な話。目の前に織田信長がいたら驚くだろ、そう言う事だ。
「えー! ちょ、ヴァイスさん! 大変です! 伝説が!」
女役員は大声を上げ、思わず立ち上がった。衝撃のあまり言葉をうまく紡げずに、口をぱくぱくさせている。
「なんだうるさいぞ。伝説がどうしたって……」
騒ぎ声を聞いて、不機嫌そうな上司がやってきた。そいつも示された魔力を見て、声こそあげなかったが目を見開く。そして、パネルとエテルノ達を交互に見て、マジかと声を漏らした。
席を変わり、冷静に本人確認と質問を始めた。
「えっと、確認しますね。使い魔の名前は?」
「俺はピピル。爬虫類系のやつ」
「アレルっていう、大蛇の使い魔」
「では、得意魔法は?」
「風」
「炎だぜ」
「お二人の職業は」
「遊戯戦闘魔法使い」
「俺もー」
「連勝記録は覚えてますかね?」
「それは覚えてない……ただ、負けた事はないですよ」
「ちょっとまて、俺一回お前に勝てたぞ」
「そうだっけか? 時間切れで引き分けはしょっちゅうだったけどな」
「そうだよ!」
いくつか投げられた質問を難なく答えた。本人なのだから、答えらえない訳がない。記憶にないものもあるが。
魔力照合で出たのだから間違いないが、改めて確信したようで、信じられないと震える。
……そんな事はあったが、役所での手続きは直ぐに終えた。とりあえず、寝床は見つけられて一安心。これからどうするかは後に考えよう。
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