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ツッコみ不在の恐怖
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森から出て、学校に戻るまでの帰り道。
風呂で回復したはずなのだが、マールはさっそく疲れていた。理由は簡単、出た先にリールがいた。
マールの姿を見るなり「兄さん兄さん」と……小さい時からリールのなにが嫌いだったかって、この無駄にいい愛想が一周回ってうざいのだ。
加えて、今のリールは嫌がると分かってしつこく絡みにいく。
「にーさん、なんちゅー顔してんの。可愛い弟がわざわざ会いに来たってのにさ。もう少し喜ぼうよ」
「お前のどこに喜ぶ要素があるんだよ……」
「酷いなぁ。パデラさん、どう思いますこれ?」
わざとらしく傷つき、パデラに尋ねる。
「ははっ、ひどい兄貴だぜ」
パデラもパデラで、面白そうだからかリールに乗った。
もう、とにかくうるさい。うるさいと言うか、鬱陶しい。ぶっ飛ばしてやろうとも思ったが、今日はもう戦う気になれない。
そして何が恐ろしいって、エテルノとアサナトには一切触れない事だろう。普通は驚くだろ? 兄とその友達に似た大人がいるのだから。しかしリールはそれを見事にスルーした。
「兄さん、たまにはデレないとだよぉ~。ツンデレってのは、稀に出るデレが全てなんだから。ねぇパデラさん」
「俺よくわかんない」
リールとパデラがマールの腕を掴み、挟んで話す。距離が近いが、文句を言っても離れない。パデラはバカだから仕方ないとはいえ、リールは別。こいつ、明らかに反応を見て愉しんでやがる。
親もそうだったが、知らない間に性格が変わった。確かにリールは普通に可愛かったはずだ。こんな小生意気というか、鬱陶しいというか、人をからかって愉快そうに笑う奴ではなかったはずだ。一体自分が知らない三年間に何があったのか……。
「兄さん、何考えてるの?」
「お前がどうして可愛くなくなったか」
答えると、真顔で言われた。僕は今でも可愛いと。
「可愛くなくなったのは兄さんでしょ?」
それを聞いたパデラが、マールを挟んだ状態でリールに話しかける。
「大丈夫だぜリール。可愛いとはおもうぞ。だってこいつ、朝、俺に」
ほっぺを突きながら話すその言葉の先は、嫌な予感しかしなかった。
それは絶対言わせてはいけない。特にリールには。おそらく、五年、いや一生ネタにされる。
「言うなバカ」
「えー、なんですか? 気になります!」
止めてみるが、リールがものすごい勢いで食いついた。
「あのな、朝な」
「パデラ」
尚喋ろうとするものだから、威嚇して黙らせた。
「ははっ、このまま話したら三日は口きいてくれなさそうだぜ」
するとどうしても訊きたいのか、リールが「良いじゃん兄さん! 減るもんじゃないんだから、ね?」と。そんな可愛い顔しても絶対教えない。教える訳ない。
そんな中、エテルノとアサナトは、後ろから保護者のような眼で見守っている。
「あいつ等仲いいな~」
「なー。いいことだ」
『俺もディータとあんくらい仲良くなりたい! だから上乗せて~、疲れちゃったぁ』
『それ楽したいだけだろ。お前重いからやだ』
断ったが、ピピルは勝手に上に乗りあがった。
『ちょ、マジで、重いから』
苦しそうに声を絞り出し、ピピルを尻尾で叩く。
「なぁ、俺も乗っていい?」
『ダメだ!』
悪魔かお前。ディータはやっとの思いでピピルを振り落とすと、ふうっと息を吐き、前を見る。
『お、あれは。サフィラではないか』
『あ、ホントだ』
そこにはサフィラがこちらに向かって歩いてきていた。
そろそろ帰ってきても可笑しくない頃だと思い、様子を見にきたのだ。そう、教師として。
しかし、腕を掴んでマールを挟むパデラとリールを見て、教師としての自分はあっという間に去っていった。一瞬だけ沸いた後ろにいる生徒に異様に似ている大人への疑問も消し飛んだ。
なにそのハーレム漫画にありそうな構図。それを男同士でやるとは……。なんとまぁ素晴らしい。こやつは腐女子を分かっている。
一人の男に集るべきは美女や萌え女ではない、男である。攻めか受けかはキャラによるが、そう、男である。
サフィラの興奮はすでに限界値を超え、それを察したマールは慌てて弁解する。
「あ、違うんですよ先生。これは、こいつ等が勝手に……」
「やっぱり……やっぱり貴方は立派なネコなのですね!」
サフィラにとってこの三角は理想でしかない。無邪気なイヌ系のタチと、攻めにしか懐かないツンデレのネコそして加えて、受けのブラコンぎみの弟ときたものだ。もうマール総受けで3Pやっちゃえとういうのが本音。
「わー、面白い先生だね」
「なー、ところでネコってなんだ? ニャーの猫か?」
「はぁ~、無邪気! いつかヤンデレてくれたら私としては大好物っ! マール、貴方は受けです、受け以外認めません! ツンデレは受けなのです!」
恍惚と語る姿は、マールにとって恐怖だった。
恐い、逃げたい。だが横にいるパデラとリールが放してくれない。
パデラは状況が分かっていないから放さないのだが、リールは確実に面白がっている。その証拠に、にやにやと愉しそうに……。
「ほら、やっぱ兄さんツンデレじゃん」
「今そういう問題じゃない!」
「なぁ、ネコってなんなんだよマール」
なんだか一気に騒ぎ始めたこの場。
「あの先生おもろいな~、けどマールの貞操の危機を感じるぜ。気を付けろよ、お前がそういう趣味じゃないなら」
アサナトがマールに声を掛ける。
「んな趣味ないわ!」
珍しく大声で否定するマールが気になり、状況が読めないパデラは隣にきたエテルノに訊いた。
「なぁマジでどういう事? 全然分からんのだけど」
「うん。とりあえずは、知らなくていいと思うぞ」
意味が分からずきょろきょろするパデラの後ろで、ピピルは『俺はしーらないっ』と事が収まるまで一人で遊び初める。
それでも尚、収まらない興奮を吐き出すサフィラ。早口でもう何を言っているのかすら聞き取れない。
『な、なぁ帰らないか?』
恐る恐るディータが言うが、もう誰も聞いちゃいない。
それぞれが混乱し、もう何が何だか分からない。広い草原に、ギャーギャーワーワーとまとまっていない声が走る。これがカオスか。そう一人頷き、ディータは少し離れた所で空綺麗だなーと現実逃避を始めた。
それが止められたのは、なんと夕方の四時になってからだった。それはもう、大変だった。サフィラは興奮しっぱなしだわ、マールは混乱しているわで、全て治めるのに物凄く時間がかかった。
出来ればもう二度としたくない。見たくもない。巻き込まれたくない。ゲトリーバーはそう語ったそうな。
風呂で回復したはずなのだが、マールはさっそく疲れていた。理由は簡単、出た先にリールがいた。
マールの姿を見るなり「兄さん兄さん」と……小さい時からリールのなにが嫌いだったかって、この無駄にいい愛想が一周回ってうざいのだ。
加えて、今のリールは嫌がると分かってしつこく絡みにいく。
「にーさん、なんちゅー顔してんの。可愛い弟がわざわざ会いに来たってのにさ。もう少し喜ぼうよ」
「お前のどこに喜ぶ要素があるんだよ……」
「酷いなぁ。パデラさん、どう思いますこれ?」
わざとらしく傷つき、パデラに尋ねる。
「ははっ、ひどい兄貴だぜ」
パデラもパデラで、面白そうだからかリールに乗った。
もう、とにかくうるさい。うるさいと言うか、鬱陶しい。ぶっ飛ばしてやろうとも思ったが、今日はもう戦う気になれない。
そして何が恐ろしいって、エテルノとアサナトには一切触れない事だろう。普通は驚くだろ? 兄とその友達に似た大人がいるのだから。しかしリールはそれを見事にスルーした。
「兄さん、たまにはデレないとだよぉ~。ツンデレってのは、稀に出るデレが全てなんだから。ねぇパデラさん」
「俺よくわかんない」
リールとパデラがマールの腕を掴み、挟んで話す。距離が近いが、文句を言っても離れない。パデラはバカだから仕方ないとはいえ、リールは別。こいつ、明らかに反応を見て愉しんでやがる。
親もそうだったが、知らない間に性格が変わった。確かにリールは普通に可愛かったはずだ。こんな小生意気というか、鬱陶しいというか、人をからかって愉快そうに笑う奴ではなかったはずだ。一体自分が知らない三年間に何があったのか……。
「兄さん、何考えてるの?」
「お前がどうして可愛くなくなったか」
答えると、真顔で言われた。僕は今でも可愛いと。
「可愛くなくなったのは兄さんでしょ?」
それを聞いたパデラが、マールを挟んだ状態でリールに話しかける。
「大丈夫だぜリール。可愛いとはおもうぞ。だってこいつ、朝、俺に」
ほっぺを突きながら話すその言葉の先は、嫌な予感しかしなかった。
それは絶対言わせてはいけない。特にリールには。おそらく、五年、いや一生ネタにされる。
「言うなバカ」
「えー、なんですか? 気になります!」
止めてみるが、リールがものすごい勢いで食いついた。
「あのな、朝な」
「パデラ」
尚喋ろうとするものだから、威嚇して黙らせた。
「ははっ、このまま話したら三日は口きいてくれなさそうだぜ」
するとどうしても訊きたいのか、リールが「良いじゃん兄さん! 減るもんじゃないんだから、ね?」と。そんな可愛い顔しても絶対教えない。教える訳ない。
そんな中、エテルノとアサナトは、後ろから保護者のような眼で見守っている。
「あいつ等仲いいな~」
「なー。いいことだ」
『俺もディータとあんくらい仲良くなりたい! だから上乗せて~、疲れちゃったぁ』
『それ楽したいだけだろ。お前重いからやだ』
断ったが、ピピルは勝手に上に乗りあがった。
『ちょ、マジで、重いから』
苦しそうに声を絞り出し、ピピルを尻尾で叩く。
「なぁ、俺も乗っていい?」
『ダメだ!』
悪魔かお前。ディータはやっとの思いでピピルを振り落とすと、ふうっと息を吐き、前を見る。
『お、あれは。サフィラではないか』
『あ、ホントだ』
そこにはサフィラがこちらに向かって歩いてきていた。
そろそろ帰ってきても可笑しくない頃だと思い、様子を見にきたのだ。そう、教師として。
しかし、腕を掴んでマールを挟むパデラとリールを見て、教師としての自分はあっという間に去っていった。一瞬だけ沸いた後ろにいる生徒に異様に似ている大人への疑問も消し飛んだ。
なにそのハーレム漫画にありそうな構図。それを男同士でやるとは……。なんとまぁ素晴らしい。こやつは腐女子を分かっている。
一人の男に集るべきは美女や萌え女ではない、男である。攻めか受けかはキャラによるが、そう、男である。
サフィラの興奮はすでに限界値を超え、それを察したマールは慌てて弁解する。
「あ、違うんですよ先生。これは、こいつ等が勝手に……」
「やっぱり……やっぱり貴方は立派なネコなのですね!」
サフィラにとってこの三角は理想でしかない。無邪気なイヌ系のタチと、攻めにしか懐かないツンデレのネコそして加えて、受けのブラコンぎみの弟ときたものだ。もうマール総受けで3Pやっちゃえとういうのが本音。
「わー、面白い先生だね」
「なー、ところでネコってなんだ? ニャーの猫か?」
「はぁ~、無邪気! いつかヤンデレてくれたら私としては大好物っ! マール、貴方は受けです、受け以外認めません! ツンデレは受けなのです!」
恍惚と語る姿は、マールにとって恐怖だった。
恐い、逃げたい。だが横にいるパデラとリールが放してくれない。
パデラは状況が分かっていないから放さないのだが、リールは確実に面白がっている。その証拠に、にやにやと愉しそうに……。
「ほら、やっぱ兄さんツンデレじゃん」
「今そういう問題じゃない!」
「なぁ、ネコってなんなんだよマール」
なんだか一気に騒ぎ始めたこの場。
「あの先生おもろいな~、けどマールの貞操の危機を感じるぜ。気を付けろよ、お前がそういう趣味じゃないなら」
アサナトがマールに声を掛ける。
「んな趣味ないわ!」
珍しく大声で否定するマールが気になり、状況が読めないパデラは隣にきたエテルノに訊いた。
「なぁマジでどういう事? 全然分からんのだけど」
「うん。とりあえずは、知らなくていいと思うぞ」
意味が分からずきょろきょろするパデラの後ろで、ピピルは『俺はしーらないっ』と事が収まるまで一人で遊び初める。
それでも尚、収まらない興奮を吐き出すサフィラ。早口でもう何を言っているのかすら聞き取れない。
『な、なぁ帰らないか?』
恐る恐るディータが言うが、もう誰も聞いちゃいない。
それぞれが混乱し、もう何が何だか分からない。広い草原に、ギャーギャーワーワーとまとまっていない声が走る。これがカオスか。そう一人頷き、ディータは少し離れた所で空綺麗だなーと現実逃避を始めた。
それが止められたのは、なんと夕方の四時になってからだった。それはもう、大変だった。サフィラは興奮しっぱなしだわ、マールは混乱しているわで、全て治めるのに物凄く時間がかかった。
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