暗竜伝説魔法論

紅創花優雷

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神になれた純黒の竜。

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『それでしばらく宇宙を漂っている時にこの星を見つけたんだ。そして、その中に日本があった』
『ここから先は、アマテラスから聞いただろう。余は、アマテラスから様々な事を教わった。そして時が満ちた頃、その国を滅ぼしたのだ』
 この子達が聞きたがっていた事は全て話した。この数万年間、誰にも教えてこなかった一番の秘密。これを知られてしまったら、民が離れて行ってしまうのではないか。その不安は絶えなかった。
 今は自分でも胸を張って「良い神」であると言える。だが、実際は自身の望みの為に一つの国を滅ぼした、邪神である。
 この罪を民が赦してくれるかどうか。拒絶されても可笑しくない。内心怯えながら反応を窺う。
「いやー、やっぱ暗竜様すっげぇや、カッケェー」
「なー。聞けて良かった」
 パデラとマールは暗竜様の気持ちなど知らずに、気になっていた事が聴けて満足そうにしている。真実を知った今、怖がることも拒むこともなく。
『俺もクニ一つ滅ぼせるくらいの魔力ほしーな』
『お前にそれほどの魔力を持たせるのは、赤子に刃物を渡すようなものだな』
 いつもの調子で会話をする。
 仮にも国を滅ぼした邪神だというのに、その隣でこんなにもほのぼのとしていられているのはなぜなのだろうか。そんな事を思っていると、エテルノが口を開いた。
「暗竜様。貴方は僕達がそれを知る事によって貴方の存在を拒むようになることを恐れていたのでしょうが、そんな事はありません」
「生まれた時から暗竜様の事を慕っていたのです。今更気持ちは変えらませんよ」
 その台詞が嘘でない事はあきらかだった。マールもパデラもアサナトからも、あの頃のような嫌悪は一片も感じられない。
 どうやら、全て杞憂だったようだ。
『そうか……』
 嬉しかった。自分は、はるか昔に描いた理想になる事が出来たのだ。
「もっと早く気付いてくれれば僕達もあんな目に合わずに済んだんですけどね」
 エテルノは腕を組み、わざと嫌味ったらしく話す。
『そ、それはすまなかったって。だって、いきなり訊いてくるから、驚いて……』
 その話を聞いて、パデラはふとつっかかる点を感じた。
「ん、なぁエテルノ、アサナト。気になったんだけどさ、お前等なんで生きてんの?」
 忘れてはいけない。伝説でこの二人は死んでいる。エテルノは暗竜様に殺されたのであろう。アサナトに至っては何も書いていなかったが、少なからず死んだことは確か。
 逆になぜ今まで気にならなかったのか。二人があまりにも自分達に似ていたから、その驚きの方が大きく、そんな事考えなかったのだろう。
「え? 俺等いつ殺されたの?」
「まあ、そりゃ死んだと思われるだろ」
『あぁ、すまない。それは余が適当に話合わせた時に言った嘘だ』
「ちょ、勝手に殺さないでくださいよー! 一応生きてはいましたって」
『あの時はそうするしかなかったんだ。民に言えるわけないだろ、魔法の誤作動なんて』
 話を聞くところによると、本当にただの誤作動だったようで。
 昔、エテルノが、マールが気になっていた事と同じ事を暗竜様に尋ねた。するとどうだろうか。油断していた暗竜様は、物凄く動揺した。
 え、なんで知ってるの? きちんと隠していたのに、なんでバレてるの? え? え? なんで? そう混乱していると魔力の制御が効かなくなり、無意識に魔法を発動させてしまった。
『それが封印魔法でな。しかも、術者が意図的に解除出来る奴ではなく、条件を満たすものしか出来ないヤツだったんだ』
「あぁ。『対象者と同じか、類似した魔力を持つものが封印場所に魔力を注ぐ』これが条件でな」
「あの条件鬼畜だよなー。流石の俺も終わったって思ったもん」
『そうなんだ。流石の余もどうにも出来ないから、エテルノは長としてやってきた時に手合わせして、殺してしまった事にした。アサナトは偶然巻き込んでしまったから、かなりあやふやにしてしまったが……』
 全て納得がいった。しかし、伝説の最強魔法使いが死んでなかったとなると、随分世間が騒ぎそうだ。
 マールがそんな事を思っていると、ピピルが湯から潜って暗竜様の前に現れ一言。
『暗竜様、意外とドジ?』
 首を傾げて尋ねられた質問。否定は出来なかった。
『こらピピル。思った事を直ぐ口にするでない。我も思ったけど』
『思ったのかよ』
 じゃあ俺の事言えねーじゃんとピピルがディータの上に乗る。
『やめ、溺れる!』
『お前水魔法得意だろ? ダイジョブダイジョブ』
『それとこれは別問題だ!』
 と、二匹がわちゃわちゃし始めた。
 その時、暗竜様が話を切り替えた。
『そんな事より、お前等腹減ってないか?』
 これはあからさまに先程の話を誤魔化している。だが触れないでおいて、返事をした。
「はい、すきました」
「めっちゃ腹減ってる」
 マールとパデラは直ぐに答えた。
 思えば昨日の夜も、今日も朝も何も食べていない。アマテラスのところでお菓子を食べたくらいだ。白米を食べたい。
『だよな』
 暗竜様は二人の答えを聞いて嬉々とした。
『腹が減ったら帰るまで大変だろう。余が振舞おう』
「え、暗竜様、料理出来るの?」
 パデラが思っている事は大体わかる。ディータ達もそうだが、竜の手は料理をできるような構造ではない。魔法を使うのか? その疑問の答えは直ぐに出てきた。
 暗竜様は風呂から上がると、魔力を放出し姿を隠す。
 再び見えた暗竜様は、竜ではなかった。
「ふぅ……どうだ? これもアマテラスに教わったものでな」
「なるほど、人型ですか」
 おそらく、使い魔の人型の起源だろう。
 これまた出来のいい変身。流石暗竜様だ、とエテルノが感心してその顔を見詰める。
 黒髪は人の魔力が覚醒する前のモノだが、暗竜様のそれは比べ物にならない程綺麗で、吸い込まれそうな質のいい黒だった。目の色は変わらず赤だが、人の形で見ると印象も随分違う。自分が女なら惚れていただろう。
「出たら隣の部屋に来い。作って待ってるぞ」
 そう言って出て行く暗竜様。
『人型カッケェ……』
 それを見て、声を漏らしたのはピピルだった。
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