暗竜伝説魔法論

紅創花優雷

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おやすみの前の

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『その時、我等は消滅したんじゃがの。暗竜がここを創ってくれたおかげで、今こうして動く事が出来る。ま、もう我等は神でも何でもない死にぞこない。神となった暗竜とはもう話す事も出来ないが……』
『あぁ、ちなみに。今、主等が話してる言葉は我等で言う日本語じゃ。おかげで話が通じるわ』
『英語なんて喋られたら、我ちんぷんかんぷんだ』
 アマテラスはそう言うが、英語が何かは分からなかったから、それをは流した。
 アマテラスは、一通り話終わったところで、興味深く聴いていた子どもたちに目をやる。話し始めた時から、夢を見る少年のように目を輝かせていた。そんな四人は今、映画を見終わた後のような気分だ。
「やっぱ暗竜様かっけぇな~」
「なー」
「すっげぇな、流石暗竜様。世界一つ滅ぼせる魔力を持ってるなんてな。というか、こんなの調べてたんか、エテルノ」
「ここまでは知らなかったけど、沈んでる世界が二ホンというクニだってのは知ってた」
「ちょうどあの女神が着ている奴も、二ホンの代表的な着物ってやつだって」
 そこまで調べられたのも中々凄いと思うが。アマテラスはそう心の中で呟く。
 しかし、教え子がこんなにも民に好かれているとは……神として、抜かされてしまった悔しさも無い訳ではないが、それ以上に誇らしかった。
 立派になって。そんな親みたいな気持ちで溢れていた。
『主等、もう少し話そうぞ。暗竜の活躍、聴かせてくれぬか?』
 そう頼むと、子ども達は快く引き受けてくれた。
 まあ、話される内容は大抵が結論「格好いい」か「凄い」かの二択だったが。それだけでも神への信頼は十分伝わってきた。それはもう、痛いほどに。
 話している内に、日はもうすぐ沈みそうになっていた。
『ところで、寝どころはどうするつもりだ? 流石に子どもを野に寝かせるわけにもいかん』
 心配してくれているのだろう。それは分かっているのだが、エテルノはどうしても解せなかった。二十は過ぎてるし。十分大人だし。しかしそれを口に出すのは子どもらしいから、その事については何も言わないでおいた。
「まあ、なんとかしますよ」
『そうか。まあ、無理そうだったらここで寝てもいいからな。我が許可する』
「ありがとうございます、アマテラスさん」
 頭を下げ、ここから去る。
「お前、子ども扱いされてたなぁ~」
 途中アサナトがからかうように頬を突いてきたが、あの「子ども」にはこいつも含まれている。
「いや、あれお前も含まれてたからな」
「マジで!」
 驚いたように声を上げるが、逆に何で含まれていないと思ったのか。
 エテルノは呆れ半分で苦笑した。そして、ふと何かを思い出したように立ち止まる。
「マール、暗竜様のところに行ってこれ以上何を訊く?」
「決まってるだろ、なんで暗竜様は神になりたかったかだ」
 子孫の回答を聞くと、エテルノはふっと笑った。それは、同じ質問をされたとしたら、自分が答えるであろうモノと全く一緒で、なんだか面白くなったのだ。
 一度気になってしまったモノは、好奇心が満たされるまで止められない。自分もこいつも、同じ事らしい。
「じゃあ、杖出せ」
 手を差し出し、そう要求する。
 なんで今杖なのだろうか。マールは不思議に思いつつも、魔力でしまっていた杖を取り出し、エテルノに見せた。
「これ?」
「うん。それ」
 ちょっと失礼する、と言って杖の水晶に触れる。そして中に自身の魔力を注いだ。
 何をしたのか。マールは水晶を眺める。それを見て、エテルノが訊いた。
「契約だ。まだ習ってないか?」
「やってないと思う……」
「そうか」
 知らなくても無理はない。これは自分たちの時は四学年の時に習ったことだ。
「四大契約というものがあってな、今やったのはそのうちの『協力契約』というやつだ」
 そんなもんあったのか。そう言いたげな顔をしたのは、アサナトだった。
 エテルノが何で知らないんだよという目で見ると、慌てて「あー、思い出した! そんなのやったな」といい出す。
「あれだよ、えーっと、家族契約! 結婚とか養子なんちゃらの時に使うやつ!」
 おそらく今必死に思い出したのだろう。なんだか面白い。
「じゃあ、使い魔召喚の正式名称は」
「え、えっと……主従契約だ主従契約!」
「それの人間同士版は?」
「忠誠契約!」
 なんとか四つとも正解できたアサナト。ふうっと息を吐き、何とかなったぜと呟く。
「と言う訳だ。分かったか?」
 どうやら今のが四大契約の説明だったらしい。
 しかし、良くわかった。パデラが「すっげぇ分かった」と答える。
「よし。お前、アサナトよりも少しだけ頭いいぞ」
 笑顔で撫でられ、褒めてくれたのだが、これは喜んでいいのだろうか。
「なぁマール。これは喜んでいいやつかな?」
「あんま喜べないと思う」
 マールは首を横に振る。
「なぁ、俺に失礼だと思わんそれ? 否定しないけどさ」
 アサナトの苦情は無視した。
「魔力がほぼ同じだからか、物凄くやり易い。多分、バカのお前でもできると思うから、やってやれ」
「そのくらい俺でも出来るぞー!」
 頬を膨らませ、エテルノの肩をバシンと叩く。
 その反応が何か面白くて、エテルノは小馬鹿にするように笑う。そしてわざと長く小難しく話した。
「どうだか。主従契約は召喚だから魔力を全力で出せばいいが、協力契約は按排が難しいんだぞ。弱すぎても契約自体が微弱になるし、逆に強すぎると相手の体に負担をかけることになってだな下手したら」
 パデラもそうだが、アサナトは難しい話が苦手だ。よく考えたらそんなに難しい話でなくとも、漢字や数字や記号、言葉さえ並んでいればそれは難しい事だ。
 そして、頭いい奴が喋る長文もまた内容に関わらず難しい話という認識。アサナトにとってエテルノは頭のいい奴だ。
「あー! お前はいちいち細かいんだよ! パデラ、杖貸せ」
 勢いで魔力を集め、出されたパデラの水晶に注ぐ。
「ちょ、バカ!」
 アサナトの反応が面白くてからかってしまうのは昔っからの話。だが今回は止めておけばよかった。エテルノが急いで魔力の供給を止めようとしたが、遅かった。
 魔力と魔力が過剰反応を起こし、大きな爆風を巻き起こす。しかし、直ぐにエテルノが吸収し大事には至らなかった。
「すまない、つい面白くて……。あのな、人間同士の契約の場合。特に協力契約は、あまり注ぐ魔力を強くし過ぎると、魔力同士が拒否反応起こすんだ」
 そんなこと初耳……いや、授業で先生がしつこく言っていた。もう随分昔のことで、すっかり忘れていた
「そうなんだ……。パデラ、大丈夫だったか?」
「おうよ、大丈夫」
 アサナトに心配そうに声を掛けられると、パデラは何事もなかったように笑った。実際驚いて尻もちを付いたくらいだ。
 そして、爆発に気付いてか使い魔二匹が乗り込んできた。ここに入りたがらなかったディータも心配して主に駆け寄る。
『今すっげぇドッカンなってたけど大丈夫なん⁉』
『主! 魔力が爆発してたが、大丈夫だったか?』
「あぁ、大丈夫だ。見ての通り何もない」
 マールがそう答えると、安心したようにため息を突く。
 安否を確認するとすぐ、ピピルが体を起こし左右に揺れながら話し出す。
『なぁなぁ、夜どうするん? なんなら、俺が小屋建てよっか?』
「それはいくら使い魔でも無理だろー」
 パデラはそれを冗談だと受け取り、笑う。しかし、どうやら本気みたいで。
『出来る! な、アサナト』
 そう、胸を張る。
「そうだな、あれだろ! どっかーんって家建つやつ! 久しぶりに見せてよ」
「なにそれ! どっかーんで家建つの? 気になるー!」
 興奮したようにアサナトとパデラは、走ってピピルについていく。
 どっかーんで家が建つ……言いたいことは分かるが表現が幼い。
 走りさる二人の後に歩きながら、マールはエテルノに話しかけた。
「ほんと、あいつ等似てるよね」
「な。血を感じる」
「結構離れてるのに、変な話だけどね」
「マジカルな何かだと思ってればいい。魔力があるかぎり全部それで通せる」
「あぁー、確かに」
 エテルノの答えに納得し、頷くマール。二人の会話を聞いていたディータが一言漏らした。
『我からしたら、お前等も随分似ているが……』
 外に行くと、先についていたパデラとアサナトとピピルがいて、その視線の先には一泊するのには十分であろう小屋があった。
「すっげぇなピピル! ほんとにどっかーんで家建つんだな」
「ほんとだよな~、俺も最初見た時驚いたぜ。キュードッカーンで出来るんだもん」
『だろだろ~? シューってして、ドカンすれば出来るんだぜ!』
 なんか、会話の偏差値が低い。
 それが面白くて笑うと、マール達に気付いた二人と一匹が同じような笑顔を見せて振り返った。



 マールは疲れているのか、直ぐに寝た。まだ夕方ってのに。
 そしてアサナトとエテルノは、杖の水晶の中。長い間封印されていたからか「僕等この中でいいや」と言ってなんの躊躇いもなく入っていったのだ。
 使い魔二匹と戯れていると、誰からか連絡が来た。魔力が情報の塊となって相手の所に物理的に飛んでくるのだ。感じた魔力からするに、これはリールだろう。
 開いて内容を確認すると、その内容のなんと面白い事やら……。こりゃマールの反応が気になる。
「明日マールに見せよ」
 パデラはそのメッセージを直ぐに取り出せるようにしまった。



 水晶の中の世界は何もないが、何かを生成することか容易く出来る。なぜなら魔力の塊だから。封印されていた時も、これのおかげである程度日常生活を送る事ができた。
 封印生活も、そのおかげで快適な方だった。ただ、あのうるさい奴が常に隣にいるのに慣れてしまったせいで、なんだか物悲しく感じていた。

 夜中の十時頃、エテルノはベッドですやすやと眠っていた。
 アサナトは中に侵入すると、心地よさそうなエテルノを見てその隣に潜り込んだ。起きるかなーと頬を突いてみる。しかし反応はない。ここは思いっきり背中を押してみよう。
「んっ……」
 しようとしたが、気付かれてしまったようだ。
 すぐ横でニコニコしているアサナトを見て、ため息を突いた。
「お前……ホントに何もかわってないのな」
「不眠症なお前が悪いんだぜ」
「治ったって言ってるだろ」
「俺のおかげでな」
 どや顔で決めてくるモノだから、否定したくなるが、残念ながらそれは出来ない。事実だから。
「あぁ、そうだな。認めたくはないが、それが太陽の光の性質だ」
「その仕組み良くわかんねぇよなー」
「ま、それ言ったら全部そうだぞ?」
「それもそうだな」
 楽しそうに笑い、アサナトはエテルノの頬を突いたりして遊んでいる。
 それがやけに暖かくて、あぁ久しぶりだなこの感じと懐かしく思いながら、対抗して冷たい魔力を集めた手でアサナトの手を握る。それはもう、つぶす勢いで。
 痛いと騒ぐものだからやめたが。
「痛かった」
「ごめんね」
「わぁー、くそほど棒読み」
 こんな調子で話していると、いつの間にエテルノが眠りについてしまった。ありゃーと思い、時間を確認するともうてっぺんを超えている。
 こりゃ俺も寝ないとなとアサナトも意識を落とした。
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