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美しく咲き誇った孤島は、静かに眠りにつく。
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そして次の日。
『これが、最期のおはようだな』
動き出した民を眺め、誰に向けるわけでもなく声を放つ。同時に、ガタンと支えが外れたように地面が揺れ始めた。
あぁ、もう始めたのか。静かにその場に正座し、目を瞑る。そうして終わりの時を待つ。
その時、背後から慌てた様子の弟二人がやってきた。
弟の一人、スサノオが大きな声を上げた。
『姉上!』
慌てふためき姉のもとに駆け寄る。話を聞いて駆けつけてきたのだろう。
アマテラスはそんな弟たちを可愛く思い、優しく微笑んだ。
二人が慌てるのも無理もない。本来この神が集まる空間に、どんなに強くとも地震は伝わってこないのだ。
『ツクヨミ、スサノオ。最期に会いに来てくれたのか。ありがたいの』
冷静なアマテラスを見て、自分達も落ち着こうとしたが、その最期という言葉だけは聞き逃せなかったようだ。ツクヨミが、姉の肩を掴み真剣な声で尋ねた。
『最期って、何を言っているのですか姉上』
『言葉そのままじゃよ。大丈夫。民も、我等も、この土地も、皆一緒に消え去る』
『大丈夫だ。我等、一体何年生きた? どうせ来る終わり。それが少しばかり早くなっただけよ』
そんな事を話している間にも、揺れは段々強くなっていく。それは尋常じゃない程にも上り詰めつつあった。
自分も、他の神々も、もう直消え去る。自分の姿も消えかけている。それまでに、アマテラスは伝えたい事があった。
『我等、喧嘩こそしたけど、いい姉弟だったと思っている。今まで、ありがとな。愛しておる』
この終焉も、受け入れるしかない。ツクヨミは涙を浮かべながら、言葉を紡ぐ。
『はい、こちらこそ。愛してます』
姉弟は最期に笑いあい、その姿を消した。
長きに渡る物語の終焉。それは、確かに美しいものだった。
その頃、下界では激しい揺れと共に黒竜が破壊の限りを尽くしていた。その竜は、暗竜様だ。
暗竜様が炎を吐くと、それで人は呆気なく燃えた。悲鳴を上げる隙もなく、熱さに苦しむ暇もなく灰と化する。尻尾を思いっきり振りかざせば、そこに建っていたビルがいとも容易く倒壊した。
『脆い。本当に魔力がないんだな、この星の奴等は』
暗竜様のその言葉は、この人々の前では竜の唸り声にしか聞こえないようだ。それぞれが悲鳴を上げ、逃げ惑う。その中には、赤子を抱えこの子だけはと無意味に懇願する母親がいた。届かない怒りを叫ぶ男、母親を探し泣きわめく小さな子どもや、震える女。何とか逃げようと残った子の手を引く父親の姿があった。
そんな人間を冷たい目で見降ろしながら、全てを殺す。時おり攻撃らしい攻撃が飛んできたが、所詮は魔力を持たないただの弾。竜の鱗の前では歯が立たなかった。
全て、赤子同然だった。
今、この国の周りには結界が張ってある。だから、逃げることも、助けを求めることも出来ない。あまつさえ、この状況すら気づかれる事はないのだ。
すべてが壊れた。もう人の気配はない。
倒壊したビルや、壁に残る銃弾の跡が至る所に見えた。木が倒れた先に小さな靴が転がって、そこには確かに人が生きていた証拠がそこには残っている。
その中に降り立ち、暗竜様は眺眼で残骸達を見渡す。
いい所だった。面白い物がたくさんあり、魔力はないが人々は素晴らしい何かを持っていた。それは自分の心に大きく残っている。
きっと、これはこれでいい散り際だったのだろう。それは、最期まで美しく咲き誇っていた。
暗竜様の周りには様々な魂が漂っていた。先程まで立派に生きていた、日本人の魂だ。
これで自身の民を創る。このままでは魔力を持てないが、少し弄れば済む話。……しかし、それをするのはまた今度だ。
翼を広げ、大空に飛び立つ。そして、誰もいなくなった土地に向けて魔力を放った。
もう一度だけ大きく揺れ、海の底に消えていく。それから、この場に国が亡くなったのは直ぐだった。
真っ新になったここら一帯の海を確認すると、暗竜様は再び翼に魔力を籠める。ほぼ全部を集め、中で活性化させると、海に向けて放射した。
海の上で魔力は形になり、新たに土地を創る。それは翼を広げた竜を模したようなものだった。
『うむ、我ながら上出来』
出来上がったそれを見て、満足げに呟くとそこに降り立つ。
空を見上げると、そこには太陽が何一つ表情を変えずに輝いていた。
『約束は果たす』
『お前の民は、余がまたきっと栄えさせる。お前の名に、太陽に誓って』
周りに張り巡らされた結界。世界が「日本」の消失に気付くのはもう少し経ってからのお話しだ。
『これが、最期のおはようだな』
動き出した民を眺め、誰に向けるわけでもなく声を放つ。同時に、ガタンと支えが外れたように地面が揺れ始めた。
あぁ、もう始めたのか。静かにその場に正座し、目を瞑る。そうして終わりの時を待つ。
その時、背後から慌てた様子の弟二人がやってきた。
弟の一人、スサノオが大きな声を上げた。
『姉上!』
慌てふためき姉のもとに駆け寄る。話を聞いて駆けつけてきたのだろう。
アマテラスはそんな弟たちを可愛く思い、優しく微笑んだ。
二人が慌てるのも無理もない。本来この神が集まる空間に、どんなに強くとも地震は伝わってこないのだ。
『ツクヨミ、スサノオ。最期に会いに来てくれたのか。ありがたいの』
冷静なアマテラスを見て、自分達も落ち着こうとしたが、その最期という言葉だけは聞き逃せなかったようだ。ツクヨミが、姉の肩を掴み真剣な声で尋ねた。
『最期って、何を言っているのですか姉上』
『言葉そのままじゃよ。大丈夫。民も、我等も、この土地も、皆一緒に消え去る』
『大丈夫だ。我等、一体何年生きた? どうせ来る終わり。それが少しばかり早くなっただけよ』
そんな事を話している間にも、揺れは段々強くなっていく。それは尋常じゃない程にも上り詰めつつあった。
自分も、他の神々も、もう直消え去る。自分の姿も消えかけている。それまでに、アマテラスは伝えたい事があった。
『我等、喧嘩こそしたけど、いい姉弟だったと思っている。今まで、ありがとな。愛しておる』
この終焉も、受け入れるしかない。ツクヨミは涙を浮かべながら、言葉を紡ぐ。
『はい、こちらこそ。愛してます』
姉弟は最期に笑いあい、その姿を消した。
長きに渡る物語の終焉。それは、確かに美しいものだった。
その頃、下界では激しい揺れと共に黒竜が破壊の限りを尽くしていた。その竜は、暗竜様だ。
暗竜様が炎を吐くと、それで人は呆気なく燃えた。悲鳴を上げる隙もなく、熱さに苦しむ暇もなく灰と化する。尻尾を思いっきり振りかざせば、そこに建っていたビルがいとも容易く倒壊した。
『脆い。本当に魔力がないんだな、この星の奴等は』
暗竜様のその言葉は、この人々の前では竜の唸り声にしか聞こえないようだ。それぞれが悲鳴を上げ、逃げ惑う。その中には、赤子を抱えこの子だけはと無意味に懇願する母親がいた。届かない怒りを叫ぶ男、母親を探し泣きわめく小さな子どもや、震える女。何とか逃げようと残った子の手を引く父親の姿があった。
そんな人間を冷たい目で見降ろしながら、全てを殺す。時おり攻撃らしい攻撃が飛んできたが、所詮は魔力を持たないただの弾。竜の鱗の前では歯が立たなかった。
全て、赤子同然だった。
今、この国の周りには結界が張ってある。だから、逃げることも、助けを求めることも出来ない。あまつさえ、この状況すら気づかれる事はないのだ。
すべてが壊れた。もう人の気配はない。
倒壊したビルや、壁に残る銃弾の跡が至る所に見えた。木が倒れた先に小さな靴が転がって、そこには確かに人が生きていた証拠がそこには残っている。
その中に降り立ち、暗竜様は眺眼で残骸達を見渡す。
いい所だった。面白い物がたくさんあり、魔力はないが人々は素晴らしい何かを持っていた。それは自分の心に大きく残っている。
きっと、これはこれでいい散り際だったのだろう。それは、最期まで美しく咲き誇っていた。
暗竜様の周りには様々な魂が漂っていた。先程まで立派に生きていた、日本人の魂だ。
これで自身の民を創る。このままでは魔力を持てないが、少し弄れば済む話。……しかし、それをするのはまた今度だ。
翼を広げ、大空に飛び立つ。そして、誰もいなくなった土地に向けて魔力を放った。
もう一度だけ大きく揺れ、海の底に消えていく。それから、この場に国が亡くなったのは直ぐだった。
真っ新になったここら一帯の海を確認すると、暗竜様は再び翼に魔力を籠める。ほぼ全部を集め、中で活性化させると、海に向けて放射した。
海の上で魔力は形になり、新たに土地を創る。それは翼を広げた竜を模したようなものだった。
『うむ、我ながら上出来』
出来上がったそれを見て、満足げに呟くとそこに降り立つ。
空を見上げると、そこには太陽が何一つ表情を変えずに輝いていた。
『約束は果たす』
『お前の民は、余がまたきっと栄えさせる。お前の名に、太陽に誓って』
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