暗竜伝説魔法論

紅創花優雷

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前夜の月

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 明日、暗竜様に会いに森に行く。それが楽しみで仕方ない二人。パデラもマールも、暗竜様に憧れ、心から慕う一人の少年だ。

 伝説の裏。それは「海の奥底に眠る世界」と「海の向こうの魔力のない世界と人々」の事を指す。しかし、どちらも未解明のまま終わっているのだ。エテルノは真相を知る前に、いや、その真相は知ったのだろう。ただそれを残すことなく死んでいった。
 この事についても、きっと暗竜様なら何か知っているだろう。それを尋ねたいのだ。
「けど、先生なんか心配そうだったなー。森って危ないの?」
 パデラは夕飯の準備をしながら、先程の話をした。
 森に行きたいと言った時、一瞬だけサフィラが見せたあの心配そうな表情。パデラには何を意味するのかが分からなかった。
「伝説ではエテルノは暗竜様と手合わせして、敵わなくて殺されてしまったって事になってるけど、本当は真相を知ろうとして逆鱗にふれたんじゃないかって。裏では言われているらしい」
 おそらくサフィラが言いたかったのはそう言う事だろう。このまま行かせたら、殺されるのではないかと思ったのだ。
 この裏も伝説自体も、実際はどうか分からない話だ。しかし、同じ事をしようとしている子どもがいたら、大人としてはとめたくもなるだろう。
「なるほどな、それで……」
「ま、その辺りも暗竜様に訊いたら分かる事だ」
「だな。楽しみだな」
 そんな会話をしていると時は過ぎる。夕飯を食べ、その後の時間を適当に過ごしていると夜の八時になった。
 寝る時間だから、マールは布団に入った。
「お前は寝るの早いな」
 まだ眠くないパデラは、マールの体を揺さぶり睡眠妨害をする。
「暗くなったら寝るんだよ……おやすみ」
 しかし無視して眠ろうとするマール。
 ピピルがいたずらっ子のような目でその背中を捉え、思いっきりその上に飛び乗る。
『どぉん!』
『こら、寝ようとしている人にいたずらするモノじゃないぞ』
 ディータはそんなピピルを軽く注意した。
『だって、マール寝とも遊びたいの。あそぼあそぼ』
 しかし、お構いなしにぴょんぴょんと跳ねる。爬虫類系の使い魔はそれなりに体重があるから、普通に痛いし苦しい。
「一時間だけな……」
 マールはそう呟いて渋々起き上がる。
 そうすると、なんとも嬉しそうにはしゃぐピピル。それが少しだけ微笑ましかった。



「はぁぁ、今日もいいカップリングが沢山見れたわ……満足」
 相変わらず、私の主ときたら……。仕事が終わり、いえ、正確に言ったら抜け出してきたのだけれども。……部屋に戻ってきた途端にこれよ。分かっていたわ。今日は長くなるって。もうかれこれ、三時間ほど経ったかしら。
 気品なんて欠片も感じない、このだらしないにやけ顔。ルージュとしてどうかと思うけど、仕方ないわ。これがサフィラという女よ。
 召喚されたばかりの時も、私に言った最初のセリフ何だと思う? 「ボーイズラブって知ってるかしら?」よ。驚いたわ。
「エーベネは、アングリフさんとゲトリーバーさん、どっちが攻めだと思う?」
 そんな白米かパンかみたいなノリで訊かれても、知らないわよ。受けとか攻めとか、何度言われても分かんないわ。
 教師仲間でも妄想できるのね、流石ね。
 サフィラの好みの系統で言うと……そうね。筋肉がある男は大体攻めよ。つまり、この質問の正しい答えは。
『アングリフ』
「分かってるわね。流石私の使い魔」
 分かるに決まっているじゃない、何年貴女の使い魔やっていると思っているのかしら。
「やっぱパデマルよね~。ツンデレは受けに決まってるわ」
 ツンデレは受けね。昔っから言っているわねそれ。
「パデラとか、ああいう明るい子がふとした拍子にヤンデレるのが良いのよねぇ。分かるかしら?」
『分からないわ』
 この主は……。昔っから変わらず、何言っているのか分からないわ。BLねぇ。そう言えば、二つ前の主もそれが好きだったわね。ここまでじゃなかったけど。
 これから先の主で、サフィラを超えられる子は出てくるのかしらね。いろんな意味で。まあ、あと五十は生きるでしょう? 次の主の事を考えるのは、まだ先ね。



 すっかり暗くなってしまった午後十時。城庭の草原で眠る暗竜様の漆黒の鱗が、夜空にとけ、月で神々しく輝いていた。
 風が葉の音が空間中に広がった時、目覚めてしまった暗竜様が、目をひらいた。
『……あぁ、庭で寝むってしまったか』
 そう呟き、空を見上げる。そこには、月が海の上に浮かんでいるのが見られた。
 綺麗だ。その言葉が心に浮かび上がってきた時、ふとどこからか声が聞こえた気がした。
『見ろ暗竜、月が綺麗じゃぞ』
 懐かしい声。驚いた暗竜様がばっと体を起こした。
 辺りを確認してみるが、彼女の影はない。
 そりゃそうだ。月を眺め、誇らしげに語る彼女はとうの昔に……。
 ダメだ。そんな昔の事、思い返してなにになる。暗竜様は翼を広げ、空に飛ぶ。民はすでに寝ているだろうが、ちょっとした散歩だ。
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