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伝説の裏
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マールは、一人で寮に戻っていた。
生徒寮の中に入り、受付の人に戻った事を伝え、いつものように部屋に向かおうとした時。受付がマールを呼び止めた。
「マールくんに来客が来ていますよ。部屋の前で待っているように伝えたので、おそらくそこにいると思います」
「あぁ、はい。わかりました」
来客か。自分に会いに来るような物好きなんていたか? そんな事を考えながら、階段を上る。マールの部屋の313は、廊下の奥の方だ。
そう言えば、部屋の前にいると言っていた。誰だろうか。確認してみると、見覚えのある大人が二人いた。
「……」
あぁ、面倒なのが来た。そこにいたのは金髪の男と銀髪の女。その容姿は、三年前の記憶にあるものと大差ない。
その二人は夫婦で、まさしくマールの両親だ。
話すのも面倒。無視して中に入ろうとしたが、女の方に腕を掴まれた。
ここに来るにあたって、マールの清々しいほどのスルーは予想通りだ。ちんたら前置きなんてやってられない。
「マール。お母さん達ね、面白い物持ってきたの」
母親の言葉を聞くと、嫌そうにしていた表情が変わり、興味を示した。
面白い物といえば興味が無いものでも反応する。これはマールがまだ幼い時に学んだ事だ。三つ子の魂百までというが、本当らしい。
「面白い物……?」
マールは好奇心で疼く心を抑えようとするが、どうしても気になってしまっていた。
「何?」
「伝説の裏。聞きたい?」
父親がそう言って、鞄から本を取り出しちらりと見せてきた。
その時のマールの反応が本当にリールと同じで、なんだか微笑ましく思った父親は笑みをもらす。それがなんか嫌で、マールは目を逸らした。
「話したら帰れよ」
誤魔化すようにぶっきらぼうに答え、部屋に戻る。扉は閉じられたが、これは入ってもいいという事だろう。
二人は顔を合わせて頷き、嬉しそうに笑った。
中に入ると、使い魔二匹がベッドの上でおしゃべりをしている。主が帰ってきたことに気付くと、そこから飛び降りて出迎えてくれた。
『お帰りなさい、主』
『おかえりー、あれパデラは?』
ピピルは自分の主がいない事に気付き首を傾げる。
「パデラはなんか先生に呼ばれて話してる」
『そっかー』
遊んでもらおうと思ったのになぁーと呟き、再びベッドの上に乗る。ちょうど、中に知らない人が入ってきた。その二人がマールの両親だという事は顔を見て分かった。
『もしかして、主のご両親か? 我はディータ、お宅の息子さんの使い魔だ』
ディータが二人に近寄り、挨拶をする。
「ディータくんか。息子がお世話になっているね」
「俺はリクザ。今度は使い魔も連れてくるな」
リクザがしゃがみこんでその頭を撫でる。ディータは気持ちよさそうに目を細めた。
「可愛い使い魔だね~。私はマヤよ」
なんだかチヤホヤされているディータ。いいなー俺も撫でてほしいという目で見ていたピピルだったが、ふとマールの表情が目についた。
どう見ても、親が会いに来てくれた子供の表情ではない。
『マール、おかーさんとおとーさん嫌いなの?』
訊くと、真顔のまま答えられた。
「親として見たくない」
『わぁ……嫌いの最上級』
親子関係の云々はあまり深く追求してはいけない。ピピルはそれ以上なにも訊かなかった。
「さっさと話して帰れよ」
マールは椅子に座り、さっさと話せと要求する。
マヤがそうだったねとわざとらしく微笑み、魔力で二人分の椅子を取り出した。
腰を掛けると、リクザが持ってきた本を机の上に置く。
「最強の魔法使いについての、世に広まっていない伝説だ」
それは、暗竜様のお告げの数年前のお話だ。
〇
時を遡る事約五万年。最強の魔法使いエテルノ・マールは、自室で何かに集中していた。それは、無属性魔法の一種「眺眼」でこの世界のあらゆる所を見渡していたのだ。
森やその奥に佇む暗竜様の城。自分が通っていた旧暗竜魔法術学園も。この魔法さえあれば、ここから少し遠いところの左翼州や右翼州にも出かけた気になれる。所謂、一人疑似旅行だ。
外に出るのは面倒な話。テーマパークや商業施設が沢山ある右翼州にも、転移魔法があれば簡単に行けるが、そんな事で魔力を大幅に使うのも気が進まない。それなら魔力の消費が少ない眺眼で、行った気になれるだけで充分なのだ。そんな怠け者みたいな思考であちこち見渡していた時。エテルノはあるものを見つけた。
なんとなく海に潜った視界に映る……これは、土地か? 真ん中に背骨のように連なる山脈、細長くて面白い形をした土地が、海の奥底に沈んでいたのだ。
深海に世界があったのか。しかし、人の気配はない。異様に高い建物らしきものも倒壊したまま残っているのを見ると、すでに滅びた世界と言ったほうがいいだろう。
それだとしても、こんな事聞いたことない。暗竜様も深海に世界があったなんて一言もおっしゃっていなかったし、伝説にも載っていない。それに、魔法があれど、人が水中で生きる事は流石に無理がある。
これはなんなのだろうか。好奇心を抑えきれずにもっと調べようとしたが、友人が買い物から帰ってきたので止めざる負えなかった。
少しだけ日が経ち、エテルノは海沿いにいた。
この下に世界があるというのに気付いてから、もう一つ疑問が浮かび上がってきた。それは、この海の先だ。
胴部州、左翼州、右翼州の行き来は基本的に橋で歩いて渡るか、転移魔法でそこまで一気に移動するかの二つだ。そう、世界は三つの州に分裂している。これが世界の全てだというのがこの世の常識で、誰も海の外があるなど予想しない。そもそも、ここから出たいとも思わないから、この先を知りたがらないのだ。
水上は歩けない事はないが、先が見えない限りそれは危険だ。いくら最強の魔力も底がある。ここぞ眺眼の出番だ。
これはただの好奇心。エテルノは魔力を集め、海の先を見通す。
無限のように海が続く。
海ばかり見るのは流石に飽きてきた。まあ、何かある訳ないよな。ここが世界の全てだ。そう諦めかけた時だった。
「……?」
魔力はまだ八割以上残っている。それなのに、力を使い果たしたときのような脱力感が体を襲った。
これは、何かある。
魔力を集め、何もない空間に打ち込む。微かにガラスが割れるような音が聞こえ、体の段が消えた。
結界が張ってあったのか……。目の前に視線をやると、そこに広がっていたのは、広大な地だった。
生徒寮の中に入り、受付の人に戻った事を伝え、いつものように部屋に向かおうとした時。受付がマールを呼び止めた。
「マールくんに来客が来ていますよ。部屋の前で待っているように伝えたので、おそらくそこにいると思います」
「あぁ、はい。わかりました」
来客か。自分に会いに来るような物好きなんていたか? そんな事を考えながら、階段を上る。マールの部屋の313は、廊下の奥の方だ。
そう言えば、部屋の前にいると言っていた。誰だろうか。確認してみると、見覚えのある大人が二人いた。
「……」
あぁ、面倒なのが来た。そこにいたのは金髪の男と銀髪の女。その容姿は、三年前の記憶にあるものと大差ない。
その二人は夫婦で、まさしくマールの両親だ。
話すのも面倒。無視して中に入ろうとしたが、女の方に腕を掴まれた。
ここに来るにあたって、マールの清々しいほどのスルーは予想通りだ。ちんたら前置きなんてやってられない。
「マール。お母さん達ね、面白い物持ってきたの」
母親の言葉を聞くと、嫌そうにしていた表情が変わり、興味を示した。
面白い物といえば興味が無いものでも反応する。これはマールがまだ幼い時に学んだ事だ。三つ子の魂百までというが、本当らしい。
「面白い物……?」
マールは好奇心で疼く心を抑えようとするが、どうしても気になってしまっていた。
「何?」
「伝説の裏。聞きたい?」
父親がそう言って、鞄から本を取り出しちらりと見せてきた。
その時のマールの反応が本当にリールと同じで、なんだか微笑ましく思った父親は笑みをもらす。それがなんか嫌で、マールは目を逸らした。
「話したら帰れよ」
誤魔化すようにぶっきらぼうに答え、部屋に戻る。扉は閉じられたが、これは入ってもいいという事だろう。
二人は顔を合わせて頷き、嬉しそうに笑った。
中に入ると、使い魔二匹がベッドの上でおしゃべりをしている。主が帰ってきたことに気付くと、そこから飛び降りて出迎えてくれた。
『お帰りなさい、主』
『おかえりー、あれパデラは?』
ピピルは自分の主がいない事に気付き首を傾げる。
「パデラはなんか先生に呼ばれて話してる」
『そっかー』
遊んでもらおうと思ったのになぁーと呟き、再びベッドの上に乗る。ちょうど、中に知らない人が入ってきた。その二人がマールの両親だという事は顔を見て分かった。
『もしかして、主のご両親か? 我はディータ、お宅の息子さんの使い魔だ』
ディータが二人に近寄り、挨拶をする。
「ディータくんか。息子がお世話になっているね」
「俺はリクザ。今度は使い魔も連れてくるな」
リクザがしゃがみこんでその頭を撫でる。ディータは気持ちよさそうに目を細めた。
「可愛い使い魔だね~。私はマヤよ」
なんだかチヤホヤされているディータ。いいなー俺も撫でてほしいという目で見ていたピピルだったが、ふとマールの表情が目についた。
どう見ても、親が会いに来てくれた子供の表情ではない。
『マール、おかーさんとおとーさん嫌いなの?』
訊くと、真顔のまま答えられた。
「親として見たくない」
『わぁ……嫌いの最上級』
親子関係の云々はあまり深く追求してはいけない。ピピルはそれ以上なにも訊かなかった。
「さっさと話して帰れよ」
マールは椅子に座り、さっさと話せと要求する。
マヤがそうだったねとわざとらしく微笑み、魔力で二人分の椅子を取り出した。
腰を掛けると、リクザが持ってきた本を机の上に置く。
「最強の魔法使いについての、世に広まっていない伝説だ」
それは、暗竜様のお告げの数年前のお話だ。
〇
時を遡る事約五万年。最強の魔法使いエテルノ・マールは、自室で何かに集中していた。それは、無属性魔法の一種「眺眼」でこの世界のあらゆる所を見渡していたのだ。
森やその奥に佇む暗竜様の城。自分が通っていた旧暗竜魔法術学園も。この魔法さえあれば、ここから少し遠いところの左翼州や右翼州にも出かけた気になれる。所謂、一人疑似旅行だ。
外に出るのは面倒な話。テーマパークや商業施設が沢山ある右翼州にも、転移魔法があれば簡単に行けるが、そんな事で魔力を大幅に使うのも気が進まない。それなら魔力の消費が少ない眺眼で、行った気になれるだけで充分なのだ。そんな怠け者みたいな思考であちこち見渡していた時。エテルノはあるものを見つけた。
なんとなく海に潜った視界に映る……これは、土地か? 真ん中に背骨のように連なる山脈、細長くて面白い形をした土地が、海の奥底に沈んでいたのだ。
深海に世界があったのか。しかし、人の気配はない。異様に高い建物らしきものも倒壊したまま残っているのを見ると、すでに滅びた世界と言ったほうがいいだろう。
それだとしても、こんな事聞いたことない。暗竜様も深海に世界があったなんて一言もおっしゃっていなかったし、伝説にも載っていない。それに、魔法があれど、人が水中で生きる事は流石に無理がある。
これはなんなのだろうか。好奇心を抑えきれずにもっと調べようとしたが、友人が買い物から帰ってきたので止めざる負えなかった。
少しだけ日が経ち、エテルノは海沿いにいた。
この下に世界があるというのに気付いてから、もう一つ疑問が浮かび上がってきた。それは、この海の先だ。
胴部州、左翼州、右翼州の行き来は基本的に橋で歩いて渡るか、転移魔法でそこまで一気に移動するかの二つだ。そう、世界は三つの州に分裂している。これが世界の全てだというのがこの世の常識で、誰も海の外があるなど予想しない。そもそも、ここから出たいとも思わないから、この先を知りたがらないのだ。
水上は歩けない事はないが、先が見えない限りそれは危険だ。いくら最強の魔力も底がある。ここぞ眺眼の出番だ。
これはただの好奇心。エテルノは魔力を集め、海の先を見通す。
無限のように海が続く。
海ばかり見るのは流石に飽きてきた。まあ、何かある訳ないよな。ここが世界の全てだ。そう諦めかけた時だった。
「……?」
魔力はまだ八割以上残っている。それなのに、力を使い果たしたときのような脱力感が体を襲った。
これは、何かある。
魔力を集め、何もない空間に打ち込む。微かにガラスが割れるような音が聞こえ、体の段が消えた。
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