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雨降り太陽、汝は誰ぞ?
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一滴の水が落ち、地面に波紋を広げる。するとそこから水の柱が立ち、空に向かって伸びていく。そして直ぐに上空で破裂音が聞こえたと思ったら、雨が降ってきた。
晴れているのに傘をさして見ていた生徒達は「ホントに降ってきたー」と、雫に触れた。
今日は五大属性の中の一つ「水」の授業。この雨は、手始めに簡単な魔法のお手本としてマールが発動した術の効果だ。
「はい、ありがとうございますマール。これが水の代表的な技『雨降らし』です」
風邪をひくといけないからこの雨はやませた。気象は魔法で操る事が出来る。小規模から大規模まで。今回は比較的小さな範囲に降らせてもらった。
「見て分かる通り、基本的に戦闘術ではありません。しかし、水が得意な子はこれを最初に発動しておくことで、戦闘を有利に運ぶ事が出来るかもしれません」
「本来は中々雨が降らずに生活に害を及ぼしたときに発動するものです。これがあるから皆さん水に不便がないのですよ、まあ、周りが海だという事もありますが」
サフィラは一通り説明すると、雨で出来た水たまりに手をかざし、ほんの少しだけ魔力を当てる。
すると水はふわりと浮き上がり、サフィラの指示し従い宙を泳ぐ。
「はい。このように、水は五大属性の中でも扱いやすく、少量の魔力でも操る事が出来ます。ですので、魔力で操る練習には持ってこいです」
魔力で物を操る事が出来るようになる、水の授業の目的の一つだ。
マールは軽々と物を浮かせる事が出来るが、これ、案外難しい事なのだ。
サフィラがコツを説明している。
正直、言われなくとも出来るだろこんなの。マールはそう思っていた。なぜなら彼は一歳になるくらいの時に、魔力で自ら哺乳瓶にミルクを入れて飲んでいたのだ。あの時の両親の驚いた顔、少し面白かった。
そんな事思い出していると、ちょうど説明を終えたみたいだ。
「それでは、まずは水を浮かせて形にしてみましょう。攻撃で試してみるのなら、人のいない方にしてくださいね。これさえ出来るようになれば、個体も動かせられるようになれますよ」
隣のパデラが元気にお返事をし、ささっと水で猫を描いた。
近くにいたクラスメイトの男子が、それを見て目を輝かせた。
「パデラくん凄いね」
落ち着いた声に含まれる興奮。どうやらこいつは水が苦手なようだ。
「だろ? ほら、この猫動くぞ」
褒められて嬉しいのか、猫をくるくると操り男子の手の上に乗せる。
「おー」
関心した様子でその猫を眺めていると、そのペアの男子がひょこっと顔を出し、声を掛けてきた。
「俺等もそのくらい出来るようになれたらいいなー」
「ねー、頑張ろ」
二人は「じゃあな」と言って、少し離れた所に移動した。
さて、俺等もやるか。そう言おうとしたが、振り向いて見えたマールはなんだがボーっとしている。なんだか、いたずら心が疼く。
どうせなら嚇してやろう。すうっと息を吸うと、マールの肩を押して大声を上げる。
「わぁっ!」
いきなりの大声だ、そりゃ驚く。加えて、完全に油断していたものだから、肩を押された事に対処できなかった。つまりは転んだ。
パデラも、まさか軽く押しただけで転ぶとは思っていなかった。
「お前……」
痛かったようだ。そりゃそうだろう、結構派手に転げていた。軽く押しただけなのに。これは、ほんとうにソフトタッチだった。
「わりい、まさか転ぶとは思わなかったぜ」
しかし、ちょっと押しただけなのに。
「にしてもお前、体か」
パデラの言葉の途中、マールが「それ以上言ったら滝落とす」と脅してきたから、すっと呑み込んだ。
マールならやりかねない。最初、心が凍っていたとはいえ目に攻撃してきた奴だ。滝の一つや二つ落としてくるだろう。
「なんでもない」
「そうか」
すました顔で水を操り始めた。マールの軽々とした様子を見て、本当に滝落としてきそうだななんて思いながらパデラはその水を横から奪う。
マールは一瞬だけ驚いた顔をしたが、相手がパデラだと気付くと少しだけ笑った。そして、水を鳥の形にしてパデラの手に飛ばせる。
「ん? なにこれ」
可愛いな~と、パデラはその鳥に軽く触れる。するとその手の上で勢いよくはじけた。
「なにこの地味な嫌がらせ!」
腹いせにしては地味すぎるが、地味に心にダメージがくる。
「面白いだろ」
愉快そうに笑いながら、もう一度再生させる。これは、水魔法の一つ「水爆弾」だ。
「ちょっと面白いけど」
また飛んできた鳥を指先で触れる。魔力に反応し、また破裂した。
これから実戦時間に、練習するふりをして水遊びをしていたのは内緒だ。水の魔法練習なんてこんなもんだろう。サフィラのとろけた表情が気になったが、あまり追求しないでおいた。
授業が終わった。寮に戻ろうとすると、パデラがサフィラに呼び止められた。
「パデラ、少しお話があります」
説教という雰囲気ではなさそうだが、とても真剣な声色だ。
一体どうしたのだろうか。マールに視線で訊いてみるが、そちらも分からないようだ。
真面目な話は苦手だ。とは言え、大切なことならば聞いておかないとダメだろう。
「わかったー。マール、先戻っててくれ」
「うん」
マールを先に帰らせ、パデラは教室に残った。
「何? 先生」
早速何のようか尋ねる。
少し間が空いてから、サフィラはパデラを真っ直ぐ見詰め、話し出した。
「パデラ。単刀直入に訊きます。貴方は、自分の正体についてご存知でしょうか?」
質問の意味がわからなくて、パデラは再び「?」を浮かべた。
晴れているのに傘をさして見ていた生徒達は「ホントに降ってきたー」と、雫に触れた。
今日は五大属性の中の一つ「水」の授業。この雨は、手始めに簡単な魔法のお手本としてマールが発動した術の効果だ。
「はい、ありがとうございますマール。これが水の代表的な技『雨降らし』です」
風邪をひくといけないからこの雨はやませた。気象は魔法で操る事が出来る。小規模から大規模まで。今回は比較的小さな範囲に降らせてもらった。
「見て分かる通り、基本的に戦闘術ではありません。しかし、水が得意な子はこれを最初に発動しておくことで、戦闘を有利に運ぶ事が出来るかもしれません」
「本来は中々雨が降らずに生活に害を及ぼしたときに発動するものです。これがあるから皆さん水に不便がないのですよ、まあ、周りが海だという事もありますが」
サフィラは一通り説明すると、雨で出来た水たまりに手をかざし、ほんの少しだけ魔力を当てる。
すると水はふわりと浮き上がり、サフィラの指示し従い宙を泳ぐ。
「はい。このように、水は五大属性の中でも扱いやすく、少量の魔力でも操る事が出来ます。ですので、魔力で操る練習には持ってこいです」
魔力で物を操る事が出来るようになる、水の授業の目的の一つだ。
マールは軽々と物を浮かせる事が出来るが、これ、案外難しい事なのだ。
サフィラがコツを説明している。
正直、言われなくとも出来るだろこんなの。マールはそう思っていた。なぜなら彼は一歳になるくらいの時に、魔力で自ら哺乳瓶にミルクを入れて飲んでいたのだ。あの時の両親の驚いた顔、少し面白かった。
そんな事思い出していると、ちょうど説明を終えたみたいだ。
「それでは、まずは水を浮かせて形にしてみましょう。攻撃で試してみるのなら、人のいない方にしてくださいね。これさえ出来るようになれば、個体も動かせられるようになれますよ」
隣のパデラが元気にお返事をし、ささっと水で猫を描いた。
近くにいたクラスメイトの男子が、それを見て目を輝かせた。
「パデラくん凄いね」
落ち着いた声に含まれる興奮。どうやらこいつは水が苦手なようだ。
「だろ? ほら、この猫動くぞ」
褒められて嬉しいのか、猫をくるくると操り男子の手の上に乗せる。
「おー」
関心した様子でその猫を眺めていると、そのペアの男子がひょこっと顔を出し、声を掛けてきた。
「俺等もそのくらい出来るようになれたらいいなー」
「ねー、頑張ろ」
二人は「じゃあな」と言って、少し離れた所に移動した。
さて、俺等もやるか。そう言おうとしたが、振り向いて見えたマールはなんだがボーっとしている。なんだか、いたずら心が疼く。
どうせなら嚇してやろう。すうっと息を吸うと、マールの肩を押して大声を上げる。
「わぁっ!」
いきなりの大声だ、そりゃ驚く。加えて、完全に油断していたものだから、肩を押された事に対処できなかった。つまりは転んだ。
パデラも、まさか軽く押しただけで転ぶとは思っていなかった。
「お前……」
痛かったようだ。そりゃそうだろう、結構派手に転げていた。軽く押しただけなのに。これは、ほんとうにソフトタッチだった。
「わりい、まさか転ぶとは思わなかったぜ」
しかし、ちょっと押しただけなのに。
「にしてもお前、体か」
パデラの言葉の途中、マールが「それ以上言ったら滝落とす」と脅してきたから、すっと呑み込んだ。
マールならやりかねない。最初、心が凍っていたとはいえ目に攻撃してきた奴だ。滝の一つや二つ落としてくるだろう。
「なんでもない」
「そうか」
すました顔で水を操り始めた。マールの軽々とした様子を見て、本当に滝落としてきそうだななんて思いながらパデラはその水を横から奪う。
マールは一瞬だけ驚いた顔をしたが、相手がパデラだと気付くと少しだけ笑った。そして、水を鳥の形にしてパデラの手に飛ばせる。
「ん? なにこれ」
可愛いな~と、パデラはその鳥に軽く触れる。するとその手の上で勢いよくはじけた。
「なにこの地味な嫌がらせ!」
腹いせにしては地味すぎるが、地味に心にダメージがくる。
「面白いだろ」
愉快そうに笑いながら、もう一度再生させる。これは、水魔法の一つ「水爆弾」だ。
「ちょっと面白いけど」
また飛んできた鳥を指先で触れる。魔力に反応し、また破裂した。
これから実戦時間に、練習するふりをして水遊びをしていたのは内緒だ。水の魔法練習なんてこんなもんだろう。サフィラのとろけた表情が気になったが、あまり追求しないでおいた。
授業が終わった。寮に戻ろうとすると、パデラがサフィラに呼び止められた。
「パデラ、少しお話があります」
説教という雰囲気ではなさそうだが、とても真剣な声色だ。
一体どうしたのだろうか。マールに視線で訊いてみるが、そちらも分からないようだ。
真面目な話は苦手だ。とは言え、大切なことならば聞いておかないとダメだろう。
「わかったー。マール、先戻っててくれ」
「うん」
マールを先に帰らせ、パデラは教室に残った。
「何? 先生」
早速何のようか尋ねる。
少し間が空いてから、サフィラはパデラを真っ直ぐ見詰め、話し出した。
「パデラ。単刀直入に訊きます。貴方は、自分の正体についてご存知でしょうか?」
質問の意味がわからなくて、パデラは再び「?」を浮かべた。
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