イシュラヴァール放浪記

道化の桃

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イシュラヴァール拾遺

番外編 オアシスの夜 4☆

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 長い接吻はまだ続いていた。
 舌の疵痕に触れないよう細心の注意を払いながら、唇をついばみ、歯茎をなぞる。
 ファーリアの腰がぴくりと浮き上がり、ぴったりと閉じていた膝が僅かに開いた。その隙間をすかさずマルスの膝が割る。
「――!」
 ファーリアは声を出さずに喘いだ。マルスは唇を重ねたまま、片手で浮き上がった細い腰を抱き、もう片方の手で乳房を包み込み、やんわりと揉みしだいた。
「……っは、ハッ、……ハァッ……!」
 マルスがようやく唇を離すと、ファーリアは大きく息を吸った。眉根を寄せてさも困り果てたような顔をしているが、そのくせ、瞳はすっかり官能に潤んでいる。
 それは彼女の両脚の間の、その場所も蕩けていることをも想像させて、マルスは陰茎が硬くなるのを感じた。
「どうした……そろそろ私が欲しくなったか?」
 マルスはファーリアの耳に唇を押し付けて低く囁いた。
「……そん……な……」
 ファーリアはふるふると首を振った。その声が、明らかに上ずっている。マルスはそのままファーリアの耳朶をやわらかく噛んだ。
「ッ!」
 ファーリアの躰がひくひくと震える。
「まだ足りぬかな」
 マルスは口の端で意地悪く笑むと、ひらひらとした裾からのぞく足首に触れた。ファーリアは、またびくんと仰け反った。
「そなたは感じやすいな。なぜ声を上げない?」
「……ッ!ンン――ッ……」
 マルスが触れるたびに、ファーリアは声を殺して悶え、躰をくねらせた。呼吸が速くなり、服の上からでも体温が上昇しているのがわかる。
 マルスはくるぶしを撫でていた手を、長衣の裾の中に滑り込ませると、そのままふくらはぎをなで上げた。
「――――っ!」
 ファーリアは両脚をわななかせたが、拒絶はしなかった。マルスは膝頭を丸くひと撫ですると、更に奥へと侵入した。鹿の脚のように無駄な肉がない太腿の、きめの細かい肌が、しっとりと湿り気を帯びて掌に吸い付いてくる。
「……ッ……ハァ……ッ……ハッ……」
 いつのまにか、ファーリアの表情からは恐怖がすっかり消えて、恍惚が艶めかしい光を放っている。
 マルスが太腿の内側に手を滑らせると、溢れ出たものがぬるりと指先を濡らした。
「陛下ぁ……っ……!」
 ファーリアは反射的に身をよじったが、マルスにしっかりと腰を抱かれていて逃れられない。
「そなたが言わずとも、は」
 マルスはファーリアの割れ目をなぞった。腫れ上がり露出した陰核に指先が触れる。
「あ……っく!」
 ファーリアが唇をきつく噛んだ。
「こんなにとろけているというのに」
 くちゅ、と音を立てて、マルスの指が入り口を弄んだ。
「は……っ、あ、……お許し……ください……っ……」
 ファーリアが喘ぐ合間に懇願する。
「欲しいか?」
 くちゅん、と温かい場所に指先を沈めて、マルスは言った。
「……んっ!」
「私が欲しいか?」
 ひくひくと絞り上げるように蠕動する内部を、焦らすようにゆっくり掻き回す。
「どう……して……陛下……っ……」
 ファーリアは力なく地面を蹴ったが、草が僅かに倒れただけだった。
「言っただろう、私は私の欲望のためにそなたを使ったりせぬと」
 とぷとぷと溢れ出したものが、マルスの手をびっしょりと濡らしている。
「……くぅ…………っ…………」
 ファーリアの腰が浮いて小さく達し、それからぱたりと全身の力が抜けた。
「ハァッ……ハァッ……ハァ……ッ……」
「そなたが私を欲したなら、与えてやる。――たっぷりと」
 マルスはファーリアの中から指を抜き取ると、絡みついた蜜を、ファーリアに見せつけるように舐め上げた。
「だ……め……きたな……」
 もうきちんと喋れないほど、ファーリアは感じていた。
「私は汚いものなど口にせぬ」
 マルスはぐったりと横たわったファーリアを軽々と抱え上げ、室内へ戻った。
 広い寝台の、皺ひとつない敷布の上にファーリアを寝かせ、先程着せたばかりの服を脱がせる。ファーリアには抵抗する力など残っていない。されるがままに脱がされて、あっという間に裸になった。
「やはりこちらのほうがいいな。美しい躰が見えぬのはもったいない」
 形よく張った乳房や、真っすぐに長い手脚を眺め、マルスは満足気に微笑んだ。
「なんだ、恥ずかしいのか」
 うつ伏せてしまったファーリアの、背筋をゆっくりとなぞって腰へ到達し、小さな双丘を撫でる。
 マルスは時間をかけて、ファーリアの躰の隅々まで口付け、愛撫した。こめかみに、首筋に、口付けを降らせながら、ファーリアの躰を仰向けにひっくり返し、両脚を広げて腰を抱え上げた。
「あ!」
 咄嗟に隠そうとした両手首を片手でひとまとめに掴む。もう片方の手で大きく広げた秘所を責め立てた。
「あぁ!……っく!」
 指を今度は三本挿し入れて、ぐちゅぐちゅと蠢かすと、ファーリアは両眼と口をいっぱいに開いて悶えた。
「もう何も考えるな――そなたはただ、感じていればよい――」
 これ以上ないほど甘い声で囁いて、マルスは更に激しく掻き回した。
「いやあぁ……!!」
 その後も二度、三度と逝かされて、ファーリアの躰はどこに触れてもひくひくと反応するほど敏感になっていた。
 熟れきった果実のようなファーリアに、マルスは飽きずに奉仕し続けた。愛らしい乳首を舌先で転がし、細い指先を口に含んで味わう。
「あ……陛下、わたし……もう……っ」
 とろけきった声で、ファーリアが言った。
「なんだ」
「こんなに……こんなふうに……っ……されたのは、はじめて、で」
「当たり前だ。私を誰だと思っている」
 マルスの射抜くような瞳が、ファーリアを捉えた。
「わたし……もう、だめです……」
「やめてほしいのか」
 ファーリアは首を振った。
「……陛下……陛下……」
 ファーリアが両手を伸ばして、マルスの首に抱きついた。
「陛下……どうか……わたしを」
 マルスの首に腕を巻き付け、耳元に唇を寄せて、小さな小さな声で。
「抱いてください――」

 まるで嵐のようだった。
 長い時間をかけて柔らかく溶かされた場所に、硬い楔が打ち込まれる。
 マルスに一気に貫かれて、ファーリアは大きく躰をしならせた。
 散々焦らされていたマルスのそれは硬くそそり勃ち、ファーリアの内壁を刳り、擦り上げた。ファーリアの内部が淫らに脈打って、待ち望んでいたマルスを迎え入れた。
「……ハァ……ッ……!」
 マルスはたまらず、熱い息を吐いた。
 内側いっぱいにマルスに満たされて、ファーリアは声も上げられずに痙攣している。
「……まだだ、ファーリア……」
 いまにも達してしまいそうなファーリアを、マルスが制した。
「……え……?」
「そなたの場所は、ちと深い」
 言うなり、マルスは更に奥へと突き挿れた。
「やあ………っ!!」
 ズグンという重い衝撃と共に、内臓深くまで貫かれて、ファーリアは一瞬、失神しかけた。痺れるような快感が全身を駆け抜ける。
「く……」
 マルスもまた顔を歪めた。そして一旦腰を引くと、再び奥深く突き挿れる。指では絶対に届かない場所は、じんじんとした鈍い痛みと、怖いほどの快感をファーリアにもたらした。
「……ハァんッ!」
「声を……我慢するな……」
 ズグッ、ズグン、と何度も最奥を突き上げながら、マルスが命じた。
「んん!」
「そなたの声が聞きたいのだ」
 ズグッ。
「あ!」
「もっと」
 ズグン。
「やあ!あああ!」
「もっと!もっとだ!」
「あああっ!やあぁあ!あぁあ―――…………」
 殻が、破れる。
 溢れる。閉じ込めていた感情こころが。
「……ファーリア……」
「あぁ……陛下……」
「私のものになれ、ファーリア……」

 マルスはまだ気付いていなかった。
 ファーリアの殻を開いたのと同時に、自らの殻も開けてしまったことに。

   *****

「思いがけず手の内に転がり込んできた獲物だが――さて、どうするか。今殺しておくべきか、それともまだその機は訪れていないのか……それが問題だ」
 毒に侵されたマルスの首筋に剣を当てて、その男は言った。

(そうだ、あれは)
 唐突に、マルスの中で、記憶の断片のすべてが繋がった。
 時系列がこんがらがっていたのだ。
 聞き覚えがある、と思ったのは、ジャヤトリアではない。毒に侵されながら聞いた声に、聞き覚えなどなかったのだ。
 不遜で粗暴な声。それを「聞き覚えがある」と思ったのは。
「俺を覚えていないのか、マルス=ミカ・ナミル」
 王宮に押し寄せる民衆に、追い立てられるように駆け込んだ議場で、憎々しげに放たれた言葉。勝ち誇ったような口元。マルスから玉座を奪った、碧い目の男。
(あれは、アトラスか――!)
 ジャヤトリアがマルスに味方するはずがない。
 最初から、あの男の息がかかっていたのだ。

 ファーリアを初めて抱いた、あの砂漠の夜から、すべての運命は決まっていたのかもしれない。

 打ち砕かれた殻の中に、まだ火は燃えていた。
 奪われた王国を取り戻す。どんな手を使っても。
「アトラス――私を怒らせたことを後悔させてやろう」
 程なくして、マルスの生涯最後の戦いが始まる。





*****
ラストは冒頭のシーン――現在に戻っています。
あと一話、番外編を書いて、完結としたいなと考えています。
続編も併せて、引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。
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