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第十章 王都編
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ガチャリ、と重い音がして、地下牢の鉄柵が開いた。
「よう、色男。生きてるか?」
カイヤーンが言った。
「なんとかな」
ユーリは落ち着いた声で答えた。助けが来る――ファーリアの言葉を信じていた。
カイヤーンはカナグイサソリでユーリの手を縛めている鎖を溶かした。同じく、足の鎖をカスィムが溶かす。
「カスィムか。……無事だったんだな」
ユーリは少し複雑な気持ちで言った。カスィムはくすりと微笑った。
「君に好かれていないことは自覚してるさ。動かないで。蠍が刺してしまう」
「こいつが脱獄を計画したんだぜ。まさか全員逃しちまうとはな」
「正確には計画を立てたのはうちの下男だけどね。ユーリ・アトゥイーが捕らえられたって聞いて、チャンスだと思ったんだろうね。はるばるアルヴィラまできみの友だちに会いに行ったらしいよ」
「ジェイクか。外がだいぶ騒がしいが、あいつも来ているのか?」
「ああ。一万の兵を、アルサーシャの南五キロ地点に展開している。国王を押さえたら一気に入城する」
「国王を?――まさか、本当に国を奪う気か」
「さあな。俺は興味がねぇ……さあ、外れたぜ」
ガチャリ、と重い音を立てて、鎖が外れた。
「こっちも外れたよ」
カスィムが言った。カイヤーンがユーリに長剣を渡した。
「さっさと行くぞ」
外に出ると、およそ半年ぶりの太陽の光がユーリの眼を刺した。眩しさに眼を細める。
「坊っちゃん!」
小綺麗な使用人の服を着た老人が、カスィムを出迎えて声を上げた。
「やあ、元気だったかい?いつも差し入れをありがとうね」
カスィムは老人を優しく抱いて言った。
「これからどうなさるんで?」
「さあ……とりあえず一旦、我が家へ帰ろうか。うちのワインが恋しくてね」
「街は暴徒で溢れてますよ」
「それは好都合だ。きっと兵隊さんがたは脱獄囚を追う暇もないだろうね」
カスィムは呑気に笑って、老人と共に去っていった。
「さて、と。俺らも行くか」
カイヤーンがユーリに言った。
「ユーリ・アトゥイー?」
呼ばれて二人がそちらを見ると、若い国軍兵士が立っていた。
その兵士は剣も銃も収めたまま、戦う構えを見せずにそこにいた。が、隙がない。
「ああ」
ユーリが答えた。
「こっちです。着いてきてください」
兵士はくるりと踵を返し、王宮の門を入っていった。
何か勘のようなものが働いて、ユーリは迷わずに兵士の後を追った。カイヤーンも乗ってきた馬を牽いて続く。
「あんた、見たことがあるな」
カイヤーンが兵士の顔をしげしげと見た。
「エディアカラ陸軍少佐です」
エディはカイヤーンの赤髪にちらりと眼を走らせて言った。
王宮の中には暴徒が入り込んでいた。警備兵たちが応戦しているが、多勢に無勢で苦戦している。
「こっち」
エディは騒動を避けて、建ち並ぶ建物の隙間をすり抜けたり、迷路のような中庭を通ったりして、王宮を突っ切っていった。途中、通りかかった厩で馬を二頭調達した。
王宮の真裏にあたる西門を超えると、やがて監獄とは反対側の塀が見えてきた。エディは二人を先導して、北西の角にそびえる塔へと向かった。
「――――!」
ちょうど別の方角から塔の前に駆けてきた人物をみとめて、ぎくりとユーリは足を止めた。
相手もこちらに気付いたらしく、歩を緩めた。
塔の入り口の前で、僅か数歩の距離をとって、マルスとユーリは向き合った。
ややあって、マルスが口を開いた。
「……ついて来い」
ユーリはマルスに続いて塔の階段を駆け上がった。
カイヤーンとエディは入り口に残り、入ってこようとする暴徒の牽制に当たった。
「エディアカラだっけか。あんたは行かなくていいのか?」
「……僕には僕の役割がありますから」
「あんた、なかなかいい奴じゃねぇか」
カイヤーンは鼻を鳴らして笑った。
「あなたに言われたくないです」
エディは憮然と言った。
「よう、色男。生きてるか?」
カイヤーンが言った。
「なんとかな」
ユーリは落ち着いた声で答えた。助けが来る――ファーリアの言葉を信じていた。
カイヤーンはカナグイサソリでユーリの手を縛めている鎖を溶かした。同じく、足の鎖をカスィムが溶かす。
「カスィムか。……無事だったんだな」
ユーリは少し複雑な気持ちで言った。カスィムはくすりと微笑った。
「君に好かれていないことは自覚してるさ。動かないで。蠍が刺してしまう」
「こいつが脱獄を計画したんだぜ。まさか全員逃しちまうとはな」
「正確には計画を立てたのはうちの下男だけどね。ユーリ・アトゥイーが捕らえられたって聞いて、チャンスだと思ったんだろうね。はるばるアルヴィラまできみの友だちに会いに行ったらしいよ」
「ジェイクか。外がだいぶ騒がしいが、あいつも来ているのか?」
「ああ。一万の兵を、アルサーシャの南五キロ地点に展開している。国王を押さえたら一気に入城する」
「国王を?――まさか、本当に国を奪う気か」
「さあな。俺は興味がねぇ……さあ、外れたぜ」
ガチャリ、と重い音を立てて、鎖が外れた。
「こっちも外れたよ」
カスィムが言った。カイヤーンがユーリに長剣を渡した。
「さっさと行くぞ」
外に出ると、およそ半年ぶりの太陽の光がユーリの眼を刺した。眩しさに眼を細める。
「坊っちゃん!」
小綺麗な使用人の服を着た老人が、カスィムを出迎えて声を上げた。
「やあ、元気だったかい?いつも差し入れをありがとうね」
カスィムは老人を優しく抱いて言った。
「これからどうなさるんで?」
「さあ……とりあえず一旦、我が家へ帰ろうか。うちのワインが恋しくてね」
「街は暴徒で溢れてますよ」
「それは好都合だ。きっと兵隊さんがたは脱獄囚を追う暇もないだろうね」
カスィムは呑気に笑って、老人と共に去っていった。
「さて、と。俺らも行くか」
カイヤーンがユーリに言った。
「ユーリ・アトゥイー?」
呼ばれて二人がそちらを見ると、若い国軍兵士が立っていた。
その兵士は剣も銃も収めたまま、戦う構えを見せずにそこにいた。が、隙がない。
「ああ」
ユーリが答えた。
「こっちです。着いてきてください」
兵士はくるりと踵を返し、王宮の門を入っていった。
何か勘のようなものが働いて、ユーリは迷わずに兵士の後を追った。カイヤーンも乗ってきた馬を牽いて続く。
「あんた、見たことがあるな」
カイヤーンが兵士の顔をしげしげと見た。
「エディアカラ陸軍少佐です」
エディはカイヤーンの赤髪にちらりと眼を走らせて言った。
王宮の中には暴徒が入り込んでいた。警備兵たちが応戦しているが、多勢に無勢で苦戦している。
「こっち」
エディは騒動を避けて、建ち並ぶ建物の隙間をすり抜けたり、迷路のような中庭を通ったりして、王宮を突っ切っていった。途中、通りかかった厩で馬を二頭調達した。
王宮の真裏にあたる西門を超えると、やがて監獄とは反対側の塀が見えてきた。エディは二人を先導して、北西の角にそびえる塔へと向かった。
「――――!」
ちょうど別の方角から塔の前に駆けてきた人物をみとめて、ぎくりとユーリは足を止めた。
相手もこちらに気付いたらしく、歩を緩めた。
塔の入り口の前で、僅か数歩の距離をとって、マルスとユーリは向き合った。
ややあって、マルスが口を開いた。
「……ついて来い」
ユーリはマルスに続いて塔の階段を駆け上がった。
カイヤーンとエディは入り口に残り、入ってこようとする暴徒の牽制に当たった。
「エディアカラだっけか。あんたは行かなくていいのか?」
「……僕には僕の役割がありますから」
「あんた、なかなかいい奴じゃねぇか」
カイヤーンは鼻を鳴らして笑った。
「あなたに言われたくないです」
エディは憮然と言った。
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