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第十章 王都編
遠い日のこと
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確かによく似てきた、と碧眼の男は思った。
二、三年見ないうちに、少女のあどけなさが消え、艶やかな色気を纏わせている。感情の乏しさは思慮深さに変わり、おどおどと怯えていた瞳には意志の強い光を宿している。
その眼が、似ている。あの女に。
「裏切り者」
そう、吐き捨てるように言った女。
「触らないで。穢らわしい」
怒りに燃えた目に、涙をいっぱいに溜めて。
「……信じてたのに」
族長の子同士、幼い頃はとりわけ仲が良かった。いずれ年頃になったら結婚するのだろうと、部族の誰もが思っていた。
亀裂が入ったのは、遊牧民討伐が始まった時だ。
砂漠一の部族だったシャハル族は、遊牧民の誇りと権利を懸けて徹底抗戦の構えだった。一方、分派のシャレム族は王家の縁戚でもあった。王家の姑息な懐柔策にまんまと乗ったのだろうとシャハルになじられ、シャレムはシャハルと決裂した。
「裏切り者」
それは、かつて碧眼の男がシャハル族をジャヤトリア辺境伯に売って、まんまと伯に好条件で召し抱えられた行為に向けられた言葉だった。
辺境伯の領内で再会したカナンは、赤子を抱えて困窮していた。誇り高い女が奴隷に堕ちるのは哀れだと思った。辺境伯に取り入って、自分と再婚しないかと持ちかけた。
カナンは怒りと軽蔑に満ちた目で拒絶した。
碧眼の男からしてみれば、カナンのためを思っての提案だった。過ぎたことを論じてもシャハルが戻るわけではないのだ。それよりも未来を見るのが合理的だ。それが、なぜわからない。
男は苛立った。頭に血が上って、正直その時のことはよく覚えていない。
気がついたらカナンを組み敷いて犯していた。
カナンは声も上げずに男を睨み続けていた。
その憎しみに満ちた瞳が、たまらなく男を昂ぶらせた。
あれから一晩とて、あの女を忘れたことなどない。
二、三年見ないうちに、少女のあどけなさが消え、艶やかな色気を纏わせている。感情の乏しさは思慮深さに変わり、おどおどと怯えていた瞳には意志の強い光を宿している。
その眼が、似ている。あの女に。
「裏切り者」
そう、吐き捨てるように言った女。
「触らないで。穢らわしい」
怒りに燃えた目に、涙をいっぱいに溜めて。
「……信じてたのに」
族長の子同士、幼い頃はとりわけ仲が良かった。いずれ年頃になったら結婚するのだろうと、部族の誰もが思っていた。
亀裂が入ったのは、遊牧民討伐が始まった時だ。
砂漠一の部族だったシャハル族は、遊牧民の誇りと権利を懸けて徹底抗戦の構えだった。一方、分派のシャレム族は王家の縁戚でもあった。王家の姑息な懐柔策にまんまと乗ったのだろうとシャハルになじられ、シャレムはシャハルと決裂した。
「裏切り者」
それは、かつて碧眼の男がシャハル族をジャヤトリア辺境伯に売って、まんまと伯に好条件で召し抱えられた行為に向けられた言葉だった。
辺境伯の領内で再会したカナンは、赤子を抱えて困窮していた。誇り高い女が奴隷に堕ちるのは哀れだと思った。辺境伯に取り入って、自分と再婚しないかと持ちかけた。
カナンは怒りと軽蔑に満ちた目で拒絶した。
碧眼の男からしてみれば、カナンのためを思っての提案だった。過ぎたことを論じてもシャハルが戻るわけではないのだ。それよりも未来を見るのが合理的だ。それが、なぜわからない。
男は苛立った。頭に血が上って、正直その時のことはよく覚えていない。
気がついたらカナンを組み敷いて犯していた。
カナンは声も上げずに男を睨み続けていた。
その憎しみに満ちた瞳が、たまらなく男を昂ぶらせた。
あれから一晩とて、あの女を忘れたことなどない。
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