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第七章 愛執編
王の狂気☆
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明け方なのか、それとも夕刻なのか。
分厚いカーテンの向こうはうっすらと明るい。
限界までいかされ続けて、ファーリアは気絶するように眠りに落ちた。
ファーリアを抱き潰したマルスもまた、ファーリアを身体の下に組み敷いて、繋がったまま眠った。
短く浅い眠りが、マルスに悪夢を連れてくる。
真っ黒な服に身を包んだ男が、黒い馬に乗って、ファーリアを連れ去っていく。
「――――っ!」
心臓を引き絞られるような感覚に襲われて、マルスは目覚めた。
「……ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
息苦しい。酸素が薄い気がする。額にはじっとりと汗をかいている。
そして、腕の中にファーリアがいることを確認して、安堵の息を吐く。
その存在を確かめるように、マルスは再びファーリアを犯す。
「……ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……」
荒い呼吸音が室内に満ち、ファーリアは内壁を擦り上げられる感触とともに覚醒させられる。
その繰り返しだった。二人共、ほとんど眠れないままに、濃密過ぎる時間だけが過ぎていった。
「……ん……っあ……んんっ……」
ファーリアが力無く喘ぐ。
長時間濡らされ続けたファーリアの秘所は、水分を分泌しきって乾いてしまっていた。
マルスはファーリアから身体を離して水をがぶがぶと飲むと、寝台に横たわったままのファーリアにも口移しで水を飲ませた。
ファーリアの乾ききった口内を水が潤していく。水は冷たく、少し甘く感じた。もっと飲みたくて口を僅かに開くと、マルスが再び口移しする。マルスは、ファーリアがこぼさずに飲めるように、たっぷりと口に含んだ水を少しずつ注ぎ込んだ。
ファーリアはうっすらと眼を開けた。
薄暗い室内に、幽鬼のように、マルスが立っていた。
長い銀髪は乱れて艶を失い、毛先がそそけだっている。美しい筋肉を包む肌は血色悪くかさついて、濡れた唇には生気がない。氷の色の瞳だけが、昏い光を放ってファーリアを見据えている。
ファーリアはいたたまれなくなった。
こんな姿はマルスに似つかわしくない。マルスは自信に満ち、光輝に溢れていなければ。たとえファーリアへの愛情が冷めたとしても、マルスだけは揺るぎなく人々の頂点にいてくれなければ。
マルスがそのまま背後の闇に溶けてしまいそうな気がして、ファーリアは起き上がった。
寝台の上で半身を起こすだけで、からだじゅうが軋むように痛んだ。それでも構わずに、マルスの方へ手を伸ばす。
指先がマルスの肌に触れる直前、マルスがその手を掴んだ。マルスはそのまま寝台に上がると、ファーリアの両脇に膝をついて覆いかぶさった。
ファーリアは空いた方の手でマルスの頬に触れた。血の気が失せて青白い。優美な眉が切なく歪み、眉間に皺を刻んでいる。
(夜も昼もなく苛まれているのはわたしなのに。あなたのほうが、泣きそうな顔をしている……)
ファーリアは激しい罪悪感に襲われた。
(ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……)
心の中で繰り返す。だが、口に出すのは卑怯な気がして、どうしても言えなかった。許してほしいと懇願するのはあまりに虫が良すぎる。マルスとて、ファーリアが謝ったところで何も慰められはしないだろう。
マルスはファーリアに唇を重ねた。一瞬、反射的に身を硬くしたファーリアに、マルスは少なからず傷ついた。
マルスは唇を僅かに離して言った。
「――誰と寝た?」
ファーリアが小さく息を呑んだ。見開いた瞳には、慚愧の色が浮かんでいる。マルスは心臓を押し潰されるような痛みを覚えた。
(やはりか――)
マルスはぎりりと唇を噛んだ。否定しないことが肯定の証だ。
当初マルスは、ファーリアの口から順を追って説明させるつもりだったのだが、ファーリアは予想以上に強情だった。なのでマルスはようやく、最初から察していたその核心について、自ら口にしたのだ。
果たしてファーリアの反応は、その知りたくもなかった事実を裏付けるものでしかなかった。
マルスは荒々しくファーリアの唇を塞ぐ。髪の毛を掴んで上を向かせ、歯を割り開き舌を絡め取り、隅々まで蹂躙する。
「ん!」
ファーリアの目尻に涙が滲んだ。
「……誰が、そなたを抱いたのだ?」
強引な口づけの合間に、マルスの冷たい声が繰り返す。
「言え、ファーリア」
ファーリアは首を振った。そんなことを言えるわけがない。
「いや……」
か細い声で拒むファーリアの唇に、マルスが喰らいつく。
「ん……っ……」
「言え。誰に、どのように抱かれたのだ」
低く脅すような声が恐ろしい。
「……言えな……っ!」
マルスはファーリアを寝台に叩きつけた。
「言え!そなたの躰の、どこに触れた?」
マルスがファーリアの乳房を両手で鷲掴みにする。その先端を口に含むと、勢いよく音を立てて啜り上げた。
「や……っ!」
「どこを舐めた?そいつは」
そう言って、首の付け根に噛み付く。
「痛っ……」
「どんな声で啼いたのだ?そなたは」
耳元で囁き、耳朶を噛む。そのまま耳の後ろの柔らかい皮膚に舌を這わせる。ぞくりとする快感が、ファーリアの躰を駆け抜けた。
「……っあ……はぁんっ……」
痛みと官能の狭間で、ファーリアは甘い声を漏らした。毎夜毎夜、長い時間を掛けて、ファーリアはマルスの与える快感に敏感に反応する躰にされてしまっている。
「その男は――」
マルスは仰向けに寝たファーリアの腰を高々と持ち上げ、両脚を大きく広げた。
「いやぁあ!」
ファーリアは顔の真ん前で秘所を露わにされて、羞恥に喘いだ。
「どんな体位でそなたを抱いたのだ?」
マルスはファーリアを見据えたまま、その場所をひと舐めした。
「――――!」
ファーリアの躰がびくんと跳ねる。
「――ほう」
マルスの頬が意地悪く歪んだ。ファーリアはたまらずに片腕で顔を覆う。
「黙っていても、躰が答えてくれるようだな」
マルスは再びそこへ舌を這わせた。襞をなぞり、舌先を尖らせて陰核を剥く。
「あ!や、あっ!」
びくびくと跳ねる腰を両腕で抱え込んで、ぷっくりと現れた突起を舌先でつつき、転がし、唇ごしに噛む。
「ああ!あ!ああああっ!やあああ!」
高々と持ち上げられた腰をがっしりと掴まれているため、強すぎる刺激から逃れられない。ファーリアは絶叫し、釣り上げられた魚のように暴れ、何度も躰を痙攣させた。マルスは十分すぎる時間をかけて陰核を虐め抜いた末に、緋色に熟れた膣に舌を挿し入れた。途端に、中からとろりとした蜜が溢れ出てくる。
「やあ――――…………っ」
ほんの入口に舌を挿れられただけで達してしまったファーリアは、両眼をいっぱいに見開いたまま、意識が飛んだ。
「……誰だ……」
虚ろな眼をしてぱたりと寝台に沈んだファーリアに、マルスは呟きを落とす。
その姿は、毎夜愛したファーリアと何も変わっていなかった。
どこか物言いたげな瞳。小さく形の良い唇。細い首。形良く上を向いた乳房。しなやかに引き締まった腹筋。身長の割に長い手脚。
髪を整えてドレスを着せたら、さぞかし垢抜けるだろう。
本当なら今頃、シハーブ家の養女として輿入れさせる準備を進めているはずだった。王宮内に専用の屋敷を建て、そこに住まわせて、何不自由ない生活を送らせるはずだった。絹のドレス、宝石を散りばめた髪飾り、金の首飾り、磨き込まれた家具に銀食器、羽根布団。妃に必要な知識を学べるよう、マルス自ら語学と地理と歴史の教師も選定していた。それなのに。
「私のファーリアを……誰が」
裏切られた。
そしてもっと許せないのは、ファーリアが相手の男を庇っていることだ。
マルスはファーリアの上に突っ伏した。
「一体誰が――私からそなたを奪ったのだ!!」
朦朧とした意識の中で、ファーリアはその千切れるような叫びを聞いた。
(許してなんて、言えない――)
最初から、許されないことだとわかりきっていた。
アルサーシャに戻ることを決めた時、誰も死なずに済む、と言った。その気持ちは嘘ではない。
ユーリのために死ぬつもりなどなかった。
ユーリがダーナを助けると言ったら、必ずそうすると思った。ユーリはそういう男だ。それで捕まって処刑されたら、ファーリアはどうすればいいのだろう。ユーリを想っても、もう二度と逢うことも触れることもできないのだ。そんな毎日は耐えられない。これまでどこにいても、ユーリが世界のどこかで生きていると思えたから前に進んでいけた。その支えを失ったら、きっともう立ち上がれない。
あの時、自分がダーナと引き換えにアルサーシャに帰ることが、ユーリもダーナも自分も生きられる、唯一の方法だと思った。もう誰にも死んでほしくなかった。
「一体、誰が……」
マルスの両手がファーリアの細い首に巻き付いた。
ファーリアはマルスを見上げた。そこには強く美しい王が、氷色の瞳に怒りと哀しみの色を浮かべて見下ろしていた。傷ひとつつけてはいけなかった人に、永遠に消えない傷を刻んでしまったことに、ファーリアは慄いた。
銀色の髪のひと束がファーリアの顔にぱらりと落ちる。
ユーリのために、死ぬつもりなどない。一緒に生きたい。いつだって、生きるために生きてきた。
だけど。
このままマルスに殺されるなら、それでもいいとファーリアは思った。
分厚いカーテンの向こうはうっすらと明るい。
限界までいかされ続けて、ファーリアは気絶するように眠りに落ちた。
ファーリアを抱き潰したマルスもまた、ファーリアを身体の下に組み敷いて、繋がったまま眠った。
短く浅い眠りが、マルスに悪夢を連れてくる。
真っ黒な服に身を包んだ男が、黒い馬に乗って、ファーリアを連れ去っていく。
「――――っ!」
心臓を引き絞られるような感覚に襲われて、マルスは目覚めた。
「……ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
息苦しい。酸素が薄い気がする。額にはじっとりと汗をかいている。
そして、腕の中にファーリアがいることを確認して、安堵の息を吐く。
その存在を確かめるように、マルスは再びファーリアを犯す。
「……ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……ハッ……」
荒い呼吸音が室内に満ち、ファーリアは内壁を擦り上げられる感触とともに覚醒させられる。
その繰り返しだった。二人共、ほとんど眠れないままに、濃密過ぎる時間だけが過ぎていった。
「……ん……っあ……んんっ……」
ファーリアが力無く喘ぐ。
長時間濡らされ続けたファーリアの秘所は、水分を分泌しきって乾いてしまっていた。
マルスはファーリアから身体を離して水をがぶがぶと飲むと、寝台に横たわったままのファーリアにも口移しで水を飲ませた。
ファーリアの乾ききった口内を水が潤していく。水は冷たく、少し甘く感じた。もっと飲みたくて口を僅かに開くと、マルスが再び口移しする。マルスは、ファーリアがこぼさずに飲めるように、たっぷりと口に含んだ水を少しずつ注ぎ込んだ。
ファーリアはうっすらと眼を開けた。
薄暗い室内に、幽鬼のように、マルスが立っていた。
長い銀髪は乱れて艶を失い、毛先がそそけだっている。美しい筋肉を包む肌は血色悪くかさついて、濡れた唇には生気がない。氷の色の瞳だけが、昏い光を放ってファーリアを見据えている。
ファーリアはいたたまれなくなった。
こんな姿はマルスに似つかわしくない。マルスは自信に満ち、光輝に溢れていなければ。たとえファーリアへの愛情が冷めたとしても、マルスだけは揺るぎなく人々の頂点にいてくれなければ。
マルスがそのまま背後の闇に溶けてしまいそうな気がして、ファーリアは起き上がった。
寝台の上で半身を起こすだけで、からだじゅうが軋むように痛んだ。それでも構わずに、マルスの方へ手を伸ばす。
指先がマルスの肌に触れる直前、マルスがその手を掴んだ。マルスはそのまま寝台に上がると、ファーリアの両脇に膝をついて覆いかぶさった。
ファーリアは空いた方の手でマルスの頬に触れた。血の気が失せて青白い。優美な眉が切なく歪み、眉間に皺を刻んでいる。
(夜も昼もなく苛まれているのはわたしなのに。あなたのほうが、泣きそうな顔をしている……)
ファーリアは激しい罪悪感に襲われた。
(ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……)
心の中で繰り返す。だが、口に出すのは卑怯な気がして、どうしても言えなかった。許してほしいと懇願するのはあまりに虫が良すぎる。マルスとて、ファーリアが謝ったところで何も慰められはしないだろう。
マルスはファーリアに唇を重ねた。一瞬、反射的に身を硬くしたファーリアに、マルスは少なからず傷ついた。
マルスは唇を僅かに離して言った。
「――誰と寝た?」
ファーリアが小さく息を呑んだ。見開いた瞳には、慚愧の色が浮かんでいる。マルスは心臓を押し潰されるような痛みを覚えた。
(やはりか――)
マルスはぎりりと唇を噛んだ。否定しないことが肯定の証だ。
当初マルスは、ファーリアの口から順を追って説明させるつもりだったのだが、ファーリアは予想以上に強情だった。なのでマルスはようやく、最初から察していたその核心について、自ら口にしたのだ。
果たしてファーリアの反応は、その知りたくもなかった事実を裏付けるものでしかなかった。
マルスは荒々しくファーリアの唇を塞ぐ。髪の毛を掴んで上を向かせ、歯を割り開き舌を絡め取り、隅々まで蹂躙する。
「ん!」
ファーリアの目尻に涙が滲んだ。
「……誰が、そなたを抱いたのだ?」
強引な口づけの合間に、マルスの冷たい声が繰り返す。
「言え、ファーリア」
ファーリアは首を振った。そんなことを言えるわけがない。
「いや……」
か細い声で拒むファーリアの唇に、マルスが喰らいつく。
「ん……っ……」
「言え。誰に、どのように抱かれたのだ」
低く脅すような声が恐ろしい。
「……言えな……っ!」
マルスはファーリアを寝台に叩きつけた。
「言え!そなたの躰の、どこに触れた?」
マルスがファーリアの乳房を両手で鷲掴みにする。その先端を口に含むと、勢いよく音を立てて啜り上げた。
「や……っ!」
「どこを舐めた?そいつは」
そう言って、首の付け根に噛み付く。
「痛っ……」
「どんな声で啼いたのだ?そなたは」
耳元で囁き、耳朶を噛む。そのまま耳の後ろの柔らかい皮膚に舌を這わせる。ぞくりとする快感が、ファーリアの躰を駆け抜けた。
「……っあ……はぁんっ……」
痛みと官能の狭間で、ファーリアは甘い声を漏らした。毎夜毎夜、長い時間を掛けて、ファーリアはマルスの与える快感に敏感に反応する躰にされてしまっている。
「その男は――」
マルスは仰向けに寝たファーリアの腰を高々と持ち上げ、両脚を大きく広げた。
「いやぁあ!」
ファーリアは顔の真ん前で秘所を露わにされて、羞恥に喘いだ。
「どんな体位でそなたを抱いたのだ?」
マルスはファーリアを見据えたまま、その場所をひと舐めした。
「――――!」
ファーリアの躰がびくんと跳ねる。
「――ほう」
マルスの頬が意地悪く歪んだ。ファーリアはたまらずに片腕で顔を覆う。
「黙っていても、躰が答えてくれるようだな」
マルスは再びそこへ舌を這わせた。襞をなぞり、舌先を尖らせて陰核を剥く。
「あ!や、あっ!」
びくびくと跳ねる腰を両腕で抱え込んで、ぷっくりと現れた突起を舌先でつつき、転がし、唇ごしに噛む。
「ああ!あ!ああああっ!やあああ!」
高々と持ち上げられた腰をがっしりと掴まれているため、強すぎる刺激から逃れられない。ファーリアは絶叫し、釣り上げられた魚のように暴れ、何度も躰を痙攣させた。マルスは十分すぎる時間をかけて陰核を虐め抜いた末に、緋色に熟れた膣に舌を挿し入れた。途端に、中からとろりとした蜜が溢れ出てくる。
「やあ――――…………っ」
ほんの入口に舌を挿れられただけで達してしまったファーリアは、両眼をいっぱいに見開いたまま、意識が飛んだ。
「……誰だ……」
虚ろな眼をしてぱたりと寝台に沈んだファーリアに、マルスは呟きを落とす。
その姿は、毎夜愛したファーリアと何も変わっていなかった。
どこか物言いたげな瞳。小さく形の良い唇。細い首。形良く上を向いた乳房。しなやかに引き締まった腹筋。身長の割に長い手脚。
髪を整えてドレスを着せたら、さぞかし垢抜けるだろう。
本当なら今頃、シハーブ家の養女として輿入れさせる準備を進めているはずだった。王宮内に専用の屋敷を建て、そこに住まわせて、何不自由ない生活を送らせるはずだった。絹のドレス、宝石を散りばめた髪飾り、金の首飾り、磨き込まれた家具に銀食器、羽根布団。妃に必要な知識を学べるよう、マルス自ら語学と地理と歴史の教師も選定していた。それなのに。
「私のファーリアを……誰が」
裏切られた。
そしてもっと許せないのは、ファーリアが相手の男を庇っていることだ。
マルスはファーリアの上に突っ伏した。
「一体誰が――私からそなたを奪ったのだ!!」
朦朧とした意識の中で、ファーリアはその千切れるような叫びを聞いた。
(許してなんて、言えない――)
最初から、許されないことだとわかりきっていた。
アルサーシャに戻ることを決めた時、誰も死なずに済む、と言った。その気持ちは嘘ではない。
ユーリのために死ぬつもりなどなかった。
ユーリがダーナを助けると言ったら、必ずそうすると思った。ユーリはそういう男だ。それで捕まって処刑されたら、ファーリアはどうすればいいのだろう。ユーリを想っても、もう二度と逢うことも触れることもできないのだ。そんな毎日は耐えられない。これまでどこにいても、ユーリが世界のどこかで生きていると思えたから前に進んでいけた。その支えを失ったら、きっともう立ち上がれない。
あの時、自分がダーナと引き換えにアルサーシャに帰ることが、ユーリもダーナも自分も生きられる、唯一の方法だと思った。もう誰にも死んでほしくなかった。
「一体、誰が……」
マルスの両手がファーリアの細い首に巻き付いた。
ファーリアはマルスを見上げた。そこには強く美しい王が、氷色の瞳に怒りと哀しみの色を浮かべて見下ろしていた。傷ひとつつけてはいけなかった人に、永遠に消えない傷を刻んでしまったことに、ファーリアは慄いた。
銀色の髪のひと束がファーリアの顔にぱらりと落ちる。
ユーリのために、死ぬつもりなどない。一緒に生きたい。いつだって、生きるために生きてきた。
だけど。
このままマルスに殺されるなら、それでもいいとファーリアは思った。
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