イシュラヴァール放浪記

道化の桃

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第四章 遠征編

帰還

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「あんなに譲歩して宜しかったのですか」
 シハーブが言った。
「星の間」にはシハーブとマルス、そして幹部候補として初めてエディが呼ばれていた。アトゥイーも護衛として控えている。ゆったりした室内着に着替えたマルスは長椅子でしどけなく寛ぎ、シハーブも床に敷いた絨毯の上で脚を崩して、干したナツメをつまんでいる。エディだけがかちんこちんに固まって部屋の隅で直立不動していた。
「スカイの身柄には替えられんだろう。奴はどうしてる?」
「軍医によれば、ひと月は救護院で様子を見たいと。彼らの手当ては良かったようですが、なにぶん傷が深いと」
「まあ、治るのなら問題ない。しばし休戦……か」
 マルスは小姓の盆からグラスを取り、ワインをひと口飲んだ。そして思い出したように言った。
「……毒見役は見つかったのか」
 シハーブは首を振る。
「もう逃げおおせたろうな」
「しかし、毒の混入できる経路は限られています。そして毒見役の奴隷になりすまし――奇襲のタイミングも」
 マルスは頷いた。
「調べろ。――内通者ネズミがいる」
 シハーブは頷いた。
「は。もう動いています」
 マルスは地図が描かれた床を見下ろした。
「――アルナハブをつついてみるか。何か出てくるやもしれん」
「あそこの国王もだいぶ高齢ですな。確か王子がたくさんいましたが」
「長男は堅実、次男は奔放、三、四と凡庸で、五が病弱……が、末の六男が父王に負けず劣らず野心家と聞く。果たして内実はどんなものかな」
「確かに、国境近辺の遊牧民に王族が肩入れしているという情報もありますな」
「あれだけ息巻いておきながら、結局他力を頼るのか。所詮利害で成り立つ世の中、手の平を返されることを想像もできんとは、無邪気な者どもよ」
 マルスはそう言って、ついと立ち上がった。
「さすがに疲れた。私は休むから、あとは好きに食っていけ。――アトゥイー」
「はい」
 アトゥイーはシハーブに一礼して、「星の間」を出ていくマルスの後を追った。エディの顔は、見られなかった。
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