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第四章 遠征編
援軍
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地平線に見えた砂煙は、みるみるうちに間近に迫ってきた。
「――後背より……敵襲――!」
見張りの声に、アルヴィラ砦を囲んだ国王軍が、一瞬浮足立った。
「いや――待て、あれは……」
もうひとりの見張りが、双眼鏡を覗き込んだまま言った。
「貸せ」
シハーブが双眼鏡を奪い取る。
「……あいつ……!」
戦況が思わしくないことに変わりはない。が、頬が緩むのをどうしても止められなかった。
「……生きていたか……!」
たなびく銀の髪。この砂漠の国の王が、援軍を引き連れて戻ってきた。
「陛下だ!」
兵たちの顔にみるみる士気が戻る。
「国王陛下!」
「陛下が戻られた!」
「国王陛下、万歳!」
陣営は一気に活気づいた。マルスが消えた仔細を知っていた者は一握りだったが、その中には涙を滲ませる者もいた。
「陛下!万歳!」
エディはマルスの横にアトゥイーの姿をみとめて、安堵と喜びでいっぱいになった。
「アトゥイー!」
「エディ」
アトゥイーはエディのそばまでやってきて、馬を降りた。
「無事だったんだね!心配していたんだ」
「……ありがとう。なんとかね」
「……アトゥイー?」
エディは、アトゥイーの顔を覗き込む。
「なんかあったの?」
「ん?……ううん、なんでもない」
色々あったけど、とは敢えて言わなかった。きっと心優しい友人を心配させるだけだ。
「すごいね。まさか援軍を連れてくるなんて、さすが陛下だ。あの紅いマントはジャヤトリア騎兵団か」
屋敷にいたジャヤトリア兵百二十名あまりに、近隣に配置されていた兵も招集して、総勢二百五十名の援軍が駆け付けた。
「よくぞご無事で」
シハーブは片膝をついてマルスを出迎えた。
「なんだ、このざまは。国軍二千を以てして、反乱軍のひとつも落とせぬどころか劣勢とは」
「面目ありません」
「いささか平和な時代が長すぎたな。シハーブ、さっさと勘を取り戻せ。あまり眠たいことをやっておるようなら、国境警備兵にでも飛ばすぞ」
「それは勘弁願いたい。ところで砂漠の赤い悪魔と恐れられるジャヤトリア騎兵団を、あの辺境伯からよくぞこの数借り受けましたね」
ジャヤトリア辺境伯が一筋縄ではいかない性質であることは、内政に関わる者の中では周知の事実だった。
「ああ、辺境伯は放逐した」
「え」
思いがけない回答に、シハーブは固まった。
「無礼があったのでな。ジャヤトリアは国王直轄地とした。だからこの兵らは私の兵だ」
マルスはさらりと言った。
「見ていよ。戦とはこうするのだ」
好戦的な笑みを浮かべてマントを翻し、マルスは馬に鞭を入れた。
「……赤ん坊の頃からの付き合いだが――奴の行動が読めたことは一度もないな」
シハーブの呟きに軽口で返す青年はそこにいない。真っ直ぐに砦へと駆けていく背中を追って、シハーブも馬を駆けさせた。
マルスはジャヤトリア騎兵団でぐるりと市街を囲ませ、一斉に市街になだれ込んだ。あらゆる路地を紅い疾風が駆けていく。ジャヤトリア騎兵団は、全速力で駆ける馬上から速く正確に矢を射ることができた。物陰に潜んだ射手が矢をつがえる動きに反応して射る。市街の奥深くに入り込むことなく、外側からじりじりと内に追い詰めていった。
ジャヤトリア騎兵団が開いた道を、シハーブの指示で国軍の歩兵たちが埋めていく。白兵戦に長けた傭兵隊が先導して、潜んでいた敵を掃討する。日が落ちる直前、ようやく国軍は砦の城壁の真下を取り囲むに至った。
「――後背より……敵襲――!」
見張りの声に、アルヴィラ砦を囲んだ国王軍が、一瞬浮足立った。
「いや――待て、あれは……」
もうひとりの見張りが、双眼鏡を覗き込んだまま言った。
「貸せ」
シハーブが双眼鏡を奪い取る。
「……あいつ……!」
戦況が思わしくないことに変わりはない。が、頬が緩むのをどうしても止められなかった。
「……生きていたか……!」
たなびく銀の髪。この砂漠の国の王が、援軍を引き連れて戻ってきた。
「陛下だ!」
兵たちの顔にみるみる士気が戻る。
「国王陛下!」
「陛下が戻られた!」
「国王陛下、万歳!」
陣営は一気に活気づいた。マルスが消えた仔細を知っていた者は一握りだったが、その中には涙を滲ませる者もいた。
「陛下!万歳!」
エディはマルスの横にアトゥイーの姿をみとめて、安堵と喜びでいっぱいになった。
「アトゥイー!」
「エディ」
アトゥイーはエディのそばまでやってきて、馬を降りた。
「無事だったんだね!心配していたんだ」
「……ありがとう。なんとかね」
「……アトゥイー?」
エディは、アトゥイーの顔を覗き込む。
「なんかあったの?」
「ん?……ううん、なんでもない」
色々あったけど、とは敢えて言わなかった。きっと心優しい友人を心配させるだけだ。
「すごいね。まさか援軍を連れてくるなんて、さすが陛下だ。あの紅いマントはジャヤトリア騎兵団か」
屋敷にいたジャヤトリア兵百二十名あまりに、近隣に配置されていた兵も招集して、総勢二百五十名の援軍が駆け付けた。
「よくぞご無事で」
シハーブは片膝をついてマルスを出迎えた。
「なんだ、このざまは。国軍二千を以てして、反乱軍のひとつも落とせぬどころか劣勢とは」
「面目ありません」
「いささか平和な時代が長すぎたな。シハーブ、さっさと勘を取り戻せ。あまり眠たいことをやっておるようなら、国境警備兵にでも飛ばすぞ」
「それは勘弁願いたい。ところで砂漠の赤い悪魔と恐れられるジャヤトリア騎兵団を、あの辺境伯からよくぞこの数借り受けましたね」
ジャヤトリア辺境伯が一筋縄ではいかない性質であることは、内政に関わる者の中では周知の事実だった。
「ああ、辺境伯は放逐した」
「え」
思いがけない回答に、シハーブは固まった。
「無礼があったのでな。ジャヤトリアは国王直轄地とした。だからこの兵らは私の兵だ」
マルスはさらりと言った。
「見ていよ。戦とはこうするのだ」
好戦的な笑みを浮かべてマントを翻し、マルスは馬に鞭を入れた。
「……赤ん坊の頃からの付き合いだが――奴の行動が読めたことは一度もないな」
シハーブの呟きに軽口で返す青年はそこにいない。真っ直ぐに砦へと駆けていく背中を追って、シハーブも馬を駆けさせた。
マルスはジャヤトリア騎兵団でぐるりと市街を囲ませ、一斉に市街になだれ込んだ。あらゆる路地を紅い疾風が駆けていく。ジャヤトリア騎兵団は、全速力で駆ける馬上から速く正確に矢を射ることができた。物陰に潜んだ射手が矢をつがえる動きに反応して射る。市街の奥深くに入り込むことなく、外側からじりじりと内に追い詰めていった。
ジャヤトリア騎兵団が開いた道を、シハーブの指示で国軍の歩兵たちが埋めていく。白兵戦に長けた傭兵隊が先導して、潜んでいた敵を掃討する。日が落ちる直前、ようやく国軍は砦の城壁の真下を取り囲むに至った。
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