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第三章 王宮編
密談
しおりを挟む店の奥、幾重にもカーテンで仕切られた先に更に頑丈な扉があった。
「随分勿体ぶった造りだな」
ハッサが鼻白んで言った。
「まあ、半分はハッタリだがね。いろんな人が利用するから」
カスィムが扉の横に立った男に合図すると、男はわざわざ鍵を開けて扉を開いた。
「――残り半分は?」
ジェイクが尋ねる。
「現実にならないことを願いたい事態に備えて」
そう答えたカスィムの顔からは、笑みが消えていた。
部屋の中には、既に五名ほどの先客がいた。カスィムが順に紹介する。
「彼らはアルサーシャの住人だ。鍛冶屋のサイード、道路工夫のイスマイル、肉屋のオットーと妹のザラ、仕立て屋のファティマ」
「ジェイクだ。商人をしている」
ジェイクが帽子を取って自己紹介する。
「俺はハッサ、砂漠で遊牧とガイドをしてる。こっちの酔っぱらいは……同じ部族のユーリ・アトゥイー」
ユーリはハッサに肩を預けたまま、半分眠りこけそうになっている。
「ユーリ・アトゥイー?」
イスマイルとオットーが顔を見合わせた。
「あのユーリ・アトゥイーか?」
「知ってるのか?」
カスィムが言った。
「知ってるも何も、『砂漠の黒鷹』ユーリ・アトゥイーだろ?」
「砂漠地帯一の戦闘部族ジュハイムのユーリ・アトゥイーといえば、知らない者はいない」
オットーはユーリとハッサをしげしげと見比べ、イスマイルも興奮した様子でまくしたてる。
「会えて光栄だ、アトゥイー」
サイードが手を差し出したので、ハッサがだらんと下がったユーリの手を支えて握らせた。
「あーもう、すいませんねぇ……」
前評判がやたらと高いのも考えものだ、とジェイクは嘆息した。ハッサは肩に担いだユーリの醜態が申し訳なく、ひたすら恐縮する。
「……なんか、想像してたのと違うわ」
黒髪の少女ザラが腕を組んでため息をつくと、ファティマも美しい金髪をかき上げて苦笑した。
「これじゃ、ただのダメ男にしか見えないわねぇ」
「……こいつ、今からでも表に置いてきたほうが良いんじゃないか?」
ハッサがジェイクにひそひそと囁いた。
「今更引っ込めるわけにいくか。それに、今日はこいつに引き会わせるって約束だったんだよ。まさかこんな有様だと思わんだろう?」
それからジェイクは一同を見渡して、話しだした。
「こいつは放っといて、そろそろ本題に入ろう。一昨日、シャルナクの船がイシュラヴァール沖で座礁した。レーより100キロほど南のアズハル湾付近だ。この座礁船が現地の海賊の餌食になり、人質が取られた。シャルナクは海賊がイシュラヴァールの差し金だと主張して、睨み合っているらしい」
一同は一斉にジェイクに注目した。ジェイクは続ける。
「だが、シャルナク側が商船だと主張するその船が実は軍艦だったとアズハルの地方官が言っていて、事実が食い違っている。地元の漁師たちの証言もある――いずれにせよ、しばらくは海岸線が騒がしくなる」
「――つまり、今が動き時だということか」
快活そうな若者のイスマイルが呟き、ジェイクが頷く。
「俺の工場ですぐに用意できる武器は、ざっと千人分。あとは金次第でいくらでも打てる」
サイードが長く伸ばした髭の中で言った。少々気難しい性格なのか、先程からにこりともしない。
「鍛冶屋の在庫がだぶつくと目をつけられるからな。うちの農場の飼料小屋に隠してあるんだよ」
丸顔を上気させて、小太りのオットーが胸を叩いた。
「武器は一旦うちで買い取って、必要な分だけお宅らに流す」
カスィムがジェイクに言った。
「……アルサーシャからは、昨日付けで一個連隊が派兵された。が、収まりそうになければ近く応援が向かうはずだ……僕が言えるのはここまでだ。具体的な話は、僕がいない場所でしてくれたまえ」
「まだだ」
ハッサに担がれて項垂れたままのユーリが、ぼそりと言った。
「乱を起こすなら――最低一万……欲を言えば二万はほしい……」
「今、同志はどれくらいだ?」
サイードの問いに、ジェイクが答える。
「遊牧民を中心に、1200人ほどだ」
「アルサーシャには、3000はいる」
サイードが表情を変えずに言った。ジェイクとハッサが顔を見合わせた。
「――それは、どういう――」
「もちろん、王家に恨みを持つ者たちだ」
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