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6歳

こどもは大人が守るもの。

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 林の中はだいぶ暗い。
「やめてくださいよ、ほんとに。警察呼びますよ?」
「そんなもん呼ばせねぇよ!」
 さっきのチンピラたちが、若者を囲んで小突き回している。
 やっぱりあの時の高校生だ。
 困ってた私を助けて、買い物袋を持ってくれた、親切な子。
 水族館で迷子になったソラタ(というか私)を心配してくれた、優しい子。
 そして今日は、私たちをかばって殴られてる。
「ぉらあっ!」
「うわっ!」
 タンクトップ男の蹴りが若者の膝のあたりに入って、若者はその場に転がった。
「……あンの野郎」
 私の中で、何かがぷっつんと切れる音がした。

「……てめーら、こっちが下手に出てりゃ調子に乗りやがってぇ!」
 あたしは怒りのあまり、走りながら怒鳴った。
「あ?」
「なんだよ、さっきのオバサンかよ」
「オバサァン、まだ遊んでほしいのぉー?」
 柄シャツ男がクチャクチャとガムを噛みながら、近寄ってきた。
 チャキッと音をさせて、ポケットからナイフを出す。
「自分のトシ考えたほうがいいんじゃない?あんまり元気だと、コドモと一緒に刻んじゃうよ~?」
「やっだぁー!シワ増えるぅ~~」
 ケバ女たちが後ろで騒いでいる。
「ゴチャゴチャうるせえよ!ヨケーなお世話だ!(シワに関しては特に!)」
 私はそのままジャンプすると、ナイフを持った腕に飛び蹴りをした。
 ぽとりとナイフが地面に落ちる。
「このババア!」
 飛びかかってきた柄シャツを、回し蹴りで沈める。
「ぐあっ」
「ババア上等!この、幼稚園児以下のクソガキ共が!」
 後ろの女どもには往復ビンタ、一人3往復✕2。
 そのままタンクトップ男に突進し、みぞおちに一発お見舞いする。
「ごはっ……」
 タンクトップ男は呻いて膝をついた。
 その前に仁王立ちで立って、言い放つ。
「この子たちを守るのが、オトナの役目だぁっ!」
 地面に座り込んでいた若者が、あっけにとられた顔をしている。
「……この子たち・・、って……」
 あたしは地面に落ちてたナイフを拾い上げる。
 そして半裸男の腹にペチペチと当てて言った。
「そんくらいもわかんねーってんなら、幼稚園からやり直して来な?」
「ひっ、はいぃっ!」
「おい、行くぞ」
 彼らは倒れていた仲間たちを助け起こして、逃げるように去っていく。
「ったく、弱ぇーくせに、いきがってんじゃねぇよ」
 そそくさと退場するチンピラたちを見送って、あたしはため息をついた。

 はっ。
 気付けば、追いついてきたソラタが、呆然とこちらを見ていた。
 そう。あのすっ転んだ瞬間に、元の体に戻っていたんだ。
「あ……っらー?私、今なんか、したかしら……?」
 うんうんうん、とうなずく、ソラタと若者。
「ええ、だいぶ」
「ママ、つよーい!」
「あー……いやあの、あれはねぇ……昔とったナントカってやつで……あははー……」
 そう、黙ってたけど、私いっとき結構ヤンチャしてたんだよね……。
 思春期に親に反抗してグレてとか、恥ずかしすぎるでしょ。いまどき。ねえ。
 まさに黒歴史。ネタにすらならん。
 だから一応、隠してたんです、けー、どぉー……
「いやー、お恥ずかしい……」
 私は後ろ頭をかいて苦笑いした。
「いえ、逆に助けられてしまって、ありがとうございました。……なんか僕、余計なことしましたね」
「そんなことないよ!さっきはほんとピンチだったし!」
 実はソラタと入れ替わってて、戦闘不能だったしね、私。
「ごめんね、ソラタ……いや、の代わりに殴られちゃって」
 私は彼の頬にそっと触れた。
 ああ、この顔だ。
 あのとき私を抱き上げてくれた、ぴっちぴちの眩しい顔。
 でもよく見ると、あの時よりもちょっと男っぽくなってる。
「いつも助けてくれて、ほんとにありがとう」
 私は彼に頭を下げた。
「あ、いえ」
 彼もぺこりと頭を下げる。
「……僕はセイっていいます」
「あ、この子はソラタっていいます」
「早瀬ソラタです!」
 ソラタが元気よく挨拶した。
「……あの、おねえさんは?」
 若者は言った。
「え?」
「あの、だから……おねえさんの、名前」
 一瞬、何のことかと、目を3回くらいぱちくりしてしまった。
「あっ、ああ!私の名前!?」
 若者はうなずく。
 えー!
 いやいやいやいや!
 おねえさんて!
「おねえさん、って、やだもう」
 こんな若い男の子にそんなふうに呼ばれたら。
「おねえさんって……」
 やだもう、照れるじゃないか。
 うへへっ、と妙な笑いが漏れる。
「……ヒカル、です」
「ヒカル、さん」
「はい」
「……」
「……」
 なんか妙な空気になりかけたところを、ソラタが打ち破った。
「ねえねえ、僕わたあめ食べたい!あと射的やろうよー!」
 そう言って私の手を引っ張っていく。セイくんは後からついてきた。
 ああ、ソラタ、グッジョブ!
 もう、おねえさん(照)変な汗かいちゃったわよ~。
「セイくんは一人で来たの?」
「約束してた友達から、さっき風邪ひいたって連絡あって……」
 他愛ない会話をしながら、その日セイくんはずっと一緒に見て回った。

「じゃ、僕ここで」
「はい、今日はありがとう。さよなら」
「ばいばーい!またねぇ!」
 送ってくれたのか、単に彼の家も同じ方向なのか、家のだいぶ近くで私たちは別れた。
 家に帰って、半分残ったわたあめを食べながら、ソラタが言った。
「ねぇママ。ママは僕が守ってあげるからね」
「……え?」
「今日、お兄ちゃんピンチのところを、ママが助けたでしょ?僕も、ママがピンチになったら助けてあげるよ」
「あはは!かっこいいなソラタ!頼むわ~!」
 百年早いわ!と言いかけたけど、もしかしてそんなことなくって、ほんとにそのうちソラタに守られる日が来るのかもな。
 そしてそれはそんなに遠くない未来なのかもしれない。
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