上 下
22 / 39
5歳

若きソラタの悩み。

しおりを挟む
 水がつめたくて、気持ちいい。
 僕になったママも、びしょぬれで遊んでる。
 僕は、けいたろうと、夢ちゃんと、ママに、水をかけた。
 ばっしゃばっしゃかけた。
 みんなも、ママも、楽しそうに川の中を駆け回っている。
 僕も負けずに、ママを追いかけて川の中を走った。

「ああびっくりした。子どもたちの着替えは覚悟してたけど、まさかヒカルさんまで濡れてるとはね」
 けいたろうのママが、すっぽんぽんのけいたろうをタオルでゴシゴシふきながら言った。
「ごめんねぇー、つい夢中になっちゃって」
 ママはそう言って、こっそり僕のほうを向くと、ぺろっと舌を出した。
 僕らのからだは、もう元に戻っていた。やっぱりすっぽんぽんで、タオルでふいてもらっている。
「でも、気持ちよかった!久しぶりにはしゃいじゃった。ここ、水きれいね。深さも足首くらいまでしかないのね。濡れたっていっても膝くらいまでだし、お天気もいいしすぐ乾くわよ」
「元々、水遊びできるじゃぶじゃぶ池なのよー。夏になると、もう、子どもたちで芋洗い状態よ」
 夢ちゃんのママが、夢ちゃんの濡れちゃったみつあみを結い直しながら、言った。
「さ、着替えたらそろそろおやつにしましょ」

 おやつは、来る途中のスーパーで買ってもらった。みんな自分の好きなものを選んだから、バラバラだ。
 ママたちも、なんか食べてる。スナックとか、クッキーとか。
「今日はねぇ、パパがお迎えに来てくれるんだよ」
 夢ちゃんが、ながーい、ひもグミをかじりながら言った。
「けいたろうも、お迎え来てくれるよ。それからパパとゴハン食べに行くんだ」
 けいたろうは、タバコみたいなお菓子をなめながら言った。
 僕はモロッコヨーグルをヘラですくうのに忙しい。これ、底のぷくっとしたところにたまってるのを、全部取らないともったいない。
「ソラタくんは、パパ来ないの?」
 夢ちゃんに聞かれて、僕は顔を上げた。
「僕ねぇ、パパいないからさ」
「え、どうして?」
「パパいないの?なんで?おしごと?」
「そうじゃなくて、いつもいないの。うちにはパパいないからさ」
 僕は言った。うちにはパパがいない。
「ふうん。じゃ、おばあちゃんは?夢んち、おばあちゃんもいるんだよ」
「おばあちゃんもいない。ママと僕だけ」
「僕のおばあちゃんは、ぎふにいるよ」
 けいたろうが言った。僕は知ってる。冬休みに遊びに行ったって言ってた。おみやげももらった。
「ぎふ?」
 夢ちゃんが聞く。
「ぎふけん」
「ぎーふーけーんー?」
 夢ちゃんが繰り返す。
「あはははは!なんかおもしろい!」
 夢ちゃんが笑う。

 帰りは、おっきな車で迎えに来た夢ちゃんのパパが、僕らも一緒に乗っけてくれた。
 車には夢ちゃんのお姉ちゃんも乗っていた。お姉ちゃんはパパと映画を観に行ってたんだって。
 僕とママはおうちの近くで降ろしてもらった。もうすっかり夕方だ。
「はあー、つかれた。晩ごはん、どうしよっかなー」
「ママ、僕カレーがいい。レトルトのやつ」
「えー?そんなんでいいのー?カレー作ってもいいよ?」
「レトルトがいい。コーンが入ってるやつ。ママのより甘いから」
「甘いのか、あれ……」
「ママのカレーも嫌いじゃないけど、レトルトのほうが好き。ナスとかトマトとか入ってないし」
「だって、栄養……まあでも、いっか!今日は!私も疲れたし!レトルト!今日はレトルト!そのかわり、サラダも食べようね」
「わーい!」
 レトルトカレーはすぐにできた。
 カレーを食べながら、ママが言った。ママのは激辛カレーにタバスコ入り。色もまっかっかだ。
「ねえ、ソラタ」
「なあに?」
「んー……やっぱ、なんでもない」
 カレーはすぐに食べ終わった。
 サラダはレタスときゅうりとトマト。僕はドレッシングより、塩だけがいい。すっぱいんだもん。
「ねえ、ママ」
「なあに?」
「うーん……」
「どしたの?言いたいこと、忘れちゃった?」
「……ママ、あのねぇ、今日、楽しかったねぇ!ママ、びしょ濡れだったね!」
「そうだね。今日はママ、ソラタと入れ替わってよかったな」
「えー?どうして?」
「だって、入れ替わらなかったら、絶対水遊びなんてしなかったもん。ソラタになって水遊び、すっごく楽しかったー!」
「僕も、ママとけいたろうたちと、みんなで遊べたの、おもしろかった!明日は、みんなのママも一緒に遊ぼう!」
「え、明日?」
「うん!またあの公園で、こんどはみんなで水遊びしよう!」
「明日も行くのー?いやー、連続はどうかなぁ……まあ、また行こうって誘ってみるね」
 ママも食べ終わった。

 僕はその夜、幼稚園のクラスのみんなと、みんなのママやパパも一緒に、あの公園で水遊びする夢を見たんだ。
 ねぇママ、僕ね、ママといっしょで良かった。
 僕に、パパが、いなくてもね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...