本好き魔導士の溺愛

夾竹桃

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 暫くの間、私をじっと見つめていたテオバルト様だったが、おもむろに私の拘束具を外した。
それから私の衣服を整えたり、私に飲み物を飲ませてくれたり、ブランケットを掛けてくれたり、狭い馬車内で忙しなく私の世話をしてくれている。
一通り私の世話を終えると、テオバルト様は、私を後ろから抱きかかえるようにして腰かけた。
そしてテオバルト様は私の頭にキスをしつつ、外の景色を見てリラックスしている。
私はテオバルト様の温もり、匂いに包まれ、うとうとと、まどろんだ。

 馬車は途中何度か休憩し、日が沈みかけた頃、宿泊する町に到着した。
今日宿泊するお宿は、2階建ての木の作りで、温かみがある普通のお宿。
もちろん、私とテオバルト様は同室。
宿の食事を頂き、お風呂にも入り、明日の準備も終え、後は寝るだけになった。

 実は、私はこの旅行で、テオバルト様と最後までエッチしてもいいかなって思っている。
だって、いつも私ばっかり気持ちよくなってて申し訳ないし、テオバルト様にも気持ち良くなって欲しい。
でも私から「エッチしましょう」なんて言うの恥ずかしいし、そんなこと言って、テオバルト様に引かれてもヤダ。
とりあえず今日は様子見かな、そう思いつつ、私はテオバルト様がいるベッドに入る。
しかし、テオバルト様と目と目が合った瞬間……。

「テオバルト様、私、エッチしたいです。テオバルト様と」

 と私の内なる声が、音となって私の口から発せられた。

「……」

 テオバルト様は、固まった。
驚きのあまり、言葉が出てこないようだ。

「えっと、おかしいな。こんなこと言うつもりなかったのに。なぜか思っていることが口から出てきてしまうんです」

「……」

 テオバルト様は、まだ固まったまま。

「もしかして媚薬の効果がまだ、続いているんでしょうか?」

「……かもな」

 ようやくテオバルト様は一言述べた。

「それで、あの、どうしましょう……」

「どう、とは?」

「その、エッチしますか? 私と……」

「……」

 テオバルト様は、再度固まった。
何かの考えを、まとめようとするかのように、動かずじっとしている。

「テオバルト様? 私は、その…、エッチしたいなって思っています」

「いや、しない」

 テオバルト様は、はっきり拒絶した。

「どうしてですか?」

「俺達はまだ結婚してないからだ」

「でも結婚するまでまだ期間ありますし、そうなると長い間エッチできないんですよ、いいんですか? テオバルト様は」

「我慢する」

「我慢なんてしなくていいです、私はテオバルト様にも気持ちよくなって欲しいんです」

 私はベッドの中でテオバルト様の腕をぎゅっと握りしめた。
しかしテオバルト様は、あろうことか私の手を振り払い、ピシャリと声を上げた。

「アメリア、それ以上、何も言うなっ」

「……ひっ、ひどいっ、怒鳴らなくてもいいじゃないですかっ。ううぅ、ぐすっ、わっ、わたしは、テオバルト様に少しでも喜んで欲しかっただけなのにぃっ、ぐすっ、ぐすっ、ひっく」

 こんなことで、泣きたくないのに、涙がこぼれ落ちる。
それも、大量に。

「すまない、つい」

「ばかばかっ、テオバルト様の、ばかっ。うぐっ、ぐすっっ、わっ、わたしだって、ひっくぅ、テオバルト様にいろいろ、ぐすっ、いろいろしてあげたいんです。いつもっ、いつもっ、ぐすぅ、テオバルト様に、してもらってばかりだからっっ」

「アメリア……」

「ぐずずっ、わたしは、レーナお姉さまぁみたく、美人じゃないし、ぐすっ、かしこくないしぃ、おかねも、もってないしぃ、ひっくぅっ、だっ、だから、うぐぅ、これくらいしかっ、ひっく、ひっくっっ」

「アメリア、もうわかったから、大丈夫だから、今日はもう寝るんだ」

 テオバルト様は、私の目の上に手を乗せる。
その途端、頭がぼーっとしてくる。

「うぐっっ、ぐずっ、うっ、うっっ、ひっく」

「おやすみ、アメリア」

 テオバルト様がそう私の耳元で囁くと、私は夢の中に落ちた。
ぽかぽかと暖かい夢の中へ……。




 夢から覚めると、そこには夢のようなイケメン、テオバルト様が窓から入るやわらなか風に当たっていた。
ああ、昨晩……、私はなんてことを言ってしまったんだろう。
媚薬のせいだけど、あんなマイナス思考のことを、グズグズ言うなんて。
私ぽくないな。
はぁ~~、私に幻滅しただろうな、テオバルト様。

「おはようございます、テオバルト様。その……、昨日は、ごめんなさい、変なこと言っちゃって」

「アメリアが謝る必要はない。それに、俺は嬉しかったんだ」

「嬉しいんですか?」

「そう、アメリアの気持ちが嬉しかった」

「それならいいですけど……」

 テオバルト様はベッド脇に腰かけ、私のおでこにキスした。

「アメリア、言っとくが、俺はアメリアから、色々貰っている」

「そっ……、そうですか? ハンカチぐらいしか渡してないと思いますけど」

「そんなことはない」

「他に何かありましたっけ?」

「ハートだな」

「あ! 私の愛ですね。私は愛溢れる人間ですから。テオバルト様になみなみ注いであげられます…、って冗談です、すみません。ハートって感謝祭の時に差し上げたクッキーですよね。今度は、ハートだらけのクッキーをプレゼントしますね」

「……、楽しみにしている。それと、アメリアは聖女レーナより美人だ。比べること自体、論外だ」

「本当に、本当に、そう思ってますか?」

「ああ。そう思っているし、事実だ」

「ありがとうございます、なんかちょっと嬉しいです」

 テオバルト様って、目、大丈夫?
それともあれかな、レーナお姉様を見る時にフィルターがかかっているのかな、悪女というフィルターが。
で、私には大好きフィルターがかかっているから、美人に見えるんだ、きっと。

「それじゃあ、そろそろ行く準備しよう」

 洋服を着替え、朝食を食べ、私達は馬車に乗って出発した。
これからは、テオバルト様はいやらしいこと、しないんだろうなって、私はそう思っていた。
だって、いやらしいことすると、エッチしたくなるだろうし、だったら最初からそんなことしない方がいいはず、そう勝手に私は解釈していた。
しかし、テオバルト様は違った……。
今日もテオバルト様は、王様ゲームで見事、王様の棒を引き当て、王様になった。
そして、当然のように私の身体を拘束し、感度が2倍になる媚薬を使って、触りに触りまくった。
私だけイって、テオバルト様はその様子を見て喜んでいる。
夜になると、何もせずに就寝。
そんな似たような日々が4日ほど続き、今日の午後には私の故郷に到着する。
その道中、早馬に乗った使者がテオバルト様を訪れた。
使者は、手紙と小さな小包をテオバルト様に手渡すと、すぐに帰って行ってしまった。

「テオバルト様、なんか嬉しそうですね」

「ああ、嬉しい知らせがきたからな。この小包の中はなんだと思う?」

「全くわかりません」

 テオバルト様は小包の封を開け、白い円柱型の容器を私に見せてくれた。
中身は、透明でプルプルしたジェル状の物が入っている。
匂いもない。

「これは薬、育毛剤だ」

「テオバルト様、毛、いっぱいあるじゃないですか」

「これは俺ではなく、アメリアように作った育毛剤だ」

「ええーーっ、私、ハゲてません」

「まあ、禿げてしまった者にも、もちろん効果はあるが、この薬は髪を伸ばす効果がある」

「ということは、その薬を使えば、私の髪の毛が長くなるんですか?」

 私の髪を切られたこと、テオバルト様はずっと気にかけていたのかな……。
私はもうすっかり立ち直っているのに。

「そうだ。早速試してみよう」

「わっ、私、今の髪型、結構気に入っているんです。テオバルト様が使ってみて下さい」

「心配なのか? 治験はしてあるんだが」

「少し……」

 髪が伸びるって、どんだけ伸びるのかわからないし……。
両親に会う前なのに、髪が爆発したように伸びたら悲劇だ。

「わかった。なら俺が試してみよう」

 テオバルト様は薬をべっとりと手に取り、頭皮に擦り付ける。
すると数秒も経たずに、テオバルト様の髪の毛がぐんぐん、伸びる。
おへそ辺りまで伸びると、自然と止まった。

「わぁ~~~、テオバルト様、素敵、カッコイイです、最高にカッコイイです!」

 ロングヘア―になったテオバルト様、まさに魔導士様って感じ。

「そんなにいいか?」

「はい」

「だが、邪魔だからもう切るぞ」

「ええーー。お願いです、この旅行中は切らないで下さい、お願いします」

「わかった。で、アメリアはこの育毛剤を使わなくていいのか?」

「はい。私は、旅行中は短いままでいいです。帰ったら使わせて下さい」

「わかった」

 それから故郷に着くまで、私はずーっとテオバルト様の髪をいじくって遊んだ。
テオバルト様は、私が喜んでいるのが嬉しいみたいで、どんなにテオバルト様の髪で遊んでも嫌がらなかった。

 そして、私達を乗せた馬車は、とうとう私の故郷に到着した。
いつ見ても、田舎。
何処見ても、田舎。
のほほんとした、田舎。
はー、田舎って、ほんと、何もないわ。
私の実家の屋敷も見えて来たけど、テオバルト様の屋敷に見慣れちゃったせいか、みすぼらしく感じる。
でも、やっぱり懐かしいなぁー。
あ、お母様だ、お父様もいる。
外に出て、待っていてくれたんだー。
嬉しい!
それに、メイドのミラも、あと……、幼馴染のノアもいる。
でもなんで、ノアが?
野菜を届けに来たのかな。
うーん、ノア、私に馴れ馴れしいんだよなー。
でも。もうお互い大人だし、大丈夫だよね!


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