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<テオバルト視点>本
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テオバルトは、王宮内にある地下牢に向かっていた。
妹のイザベラに会うために。
数時間後には、イザベラはグターナ牢獄へ収監されるため、会うなら今しかない。
「久しぶりだな、イザベラ。一ヵ月ぶりか……」
牢屋にいるイザベラは、プラチナ色の髪は輝きを失い、老婆のような、みすぼらしい白髪に。
華奢な体つきは、今や、ただの骨と皮だけの骸骨のような惨めな姿に成り果てていた。
「何しに来たのかしら? わたくしを助けに?」
「まさか」
「そうよね」
「お前の母に関して、伝えに来ただけだ。お前の母はナーク領地にある聖教会に埋葬されることとなった」
「お母様の故郷ね……、葬儀は行ったのかしら?」
「いや」
「それもそうよね……。お母様が死んで嬉しいでしょう? お兄様」
「イザベラ、お前はどうなんだ?」
「そうね、もっとすぐに死んでほしかったわ。そうすれば私に聖女の力が無いことを、知られずに済んだのだから。あれは、お兄様が仕組んだのかしら? お母様が即死しないように」
「いいや、違う。恐らくお前の母は、毒の耐性を知らず知らずのうちに得ていたのであろう。薬物を乱用していたからな」
「あははっ、さすがお母様だわ。どこまでも私の足を引っ張るのね。本当に腹立たしいわ」
「お前の母は、お前を可愛がっていただろう。なぜそこまで嫌悪する?」
「お兄様は何もわかっていないのね。お母様は今まで一度たりとも、わたくしを認めたことはなかったわ。お母様はいつも、いつも、わたくしの容姿について不満を漏らしていた。わたくしの髪の色、目の色、姿が、お母様と一つも似ていなかったから……。もしお母様と似ていたら、少しはお父様に認めて貰えたのかしら……。わたしくの容姿は、昔いた庭師にそっくりなのでしょう?」
「さあな」
「お兄様も、お父様と同じ。わたくしを一度も認めてくださらなかった。聖女になった時も……」
「イザベラ、お前が俺をどう思っているか知らないが、俺はお前のことを妹として認めていた」
「今更、何を言っているのかしら? 妹ですって。わたくしのこと、見向きもしなかったでしょう?」
「お前と俺は似ている。人を殺すことを厭わない残虐性、力への渇望、支配欲、そして何より愛に飢えている」
「……、そうね……、確かに、わたくしと、お兄様はそっくりだわ」
「お前が、俺の物を傷つけさえしなければ、お前が、そこまで落ちぶれることもなかっただろう」
「……、すぐに治すつもりだったのよ。それなのに、隊から一人遅れて……。でも、今思えば本当にバカなことをしたわ。後悔しても、もう遅いけど……」
「イザベラ、これを受け取れ。兄としての餞別だ」
テオバルトは、イザベラに水玉模様の紙に包まれた飴を差し出した。
イザベラは全てを把握したように、その飴を手に取る。
「懐かしいわ……、この飴。この飴を舐めている時は幸せだったわ」
「俺はそろそろ行く」
「ええ。お兄様、さようなら……」
翌日、テオバルトはいつものようにアメリアが待つ職場に赴く。
毎日のことなのに、アメリアはテオバルトと会う瞬間、子犬のように喜ぶ。
そんなアメリアが愛おしくて仕方ない。
ついつい甘やかしたくなってしまい、今日もアメリアに渡すプレゼントを隠し持っている。
今日あげる予定のプレゼントはシャンテーネレストランのお菓子。
シャンテーネはアメリアの大のお気に入りで、これからも一年に一度は必ず行きたいと、約束されられたほどだ。
プロポーズした日の料理がそんなに美味しかったのだろうか……、テオバルトはそれどころではなかったので、出された料理がどんなだったか全く思い出せない。
「おはようございます、テオバルト様」
アメリアはいつも、花が咲くような笑顔をテオバルトに向ける。
「おはよう。アメリア、これをやる」
「わぁ~、なんですか? あ、シャンテーネのお菓子!」
「たまたま近くを通ったからな」
「シャンテーネのお菓子、大好きです。ありがとうございます。すっごく嬉しいです」
「そうか」
「あ、それでですね、昨日、両親から連絡がきました。日程は特に問題ないそうで、お待ちしていますとのことです」
「わかった」
来週、アメリアの実家に挨拶に行く。
片道だけで5日ほどかかるが、休暇も兼ねて行くので、一ヵ月ほど仕事を休む予定だ。
ただ、行く前にどうしても確認したことがある。
それは婚前交渉しても問題ないか、という点。
どの本を確認しても、初夜は結婚後となっている。
王宮図書館の本をくまなく確認してみたが、婚前交渉を認めている本は一つもなかった。
逆に婚前交渉を禁止している本が殆ど。
どう考えても婚前交渉なくして、アメリアと一ヵ月過ごせる自信が、テオバルトにはない。
なら今回だけは、本通りではなく、婚前交渉をしてみてはどうか……。
しかしここまで順調に進んだのは、本の助けがあってこそ。
今ここで、本に禁止されていることを、実行するのはかなり危険だ。
だが……、どうしても諦めきれない。
仕方がない、今回は本ではなく人に確認してみよう。
本よりも実体験の方がより確かだ。
テオバルトは屋敷に帰宅次第、執事のローマンを呼んだ。
「閣下、お呼びでしょうか」
「ああ、リアム卿と、ベン卿、2人をここに連れて来るように」
「畏まりました、すぐに手配します。また先ほど密偵から連絡が入りました」
ローマンは密偵からの手紙を、テオバルトに手渡す。
テオバルトは手紙の封を開け、内容を確認した。
『未だ花は咲いてない』
ただその一文のみ、書かれてある。
花とは、テオバルトが探し求めている物。
咲いてないとは、見つかっていない、という事。
つまり、テオバルトが探し求めている“秘伝書”は未だ見つかっていない、ということ。
アメリアが行ったあの技法が書かれてある秘伝書を、テオバルトは何としても入手し、読みたいと切望していた。
まずはアメリアの領地に密偵を放ったが、全く手掛かりを掴めなかった。
そのため大金をかけ、何人もの密偵を雇い、広範囲に秘伝書を探し求めている。
しかし何一つ手掛かりを掴めていない。
勿論、王宮図書館でも探してはいるが、毎日のように王宮図書館に出入りしていたら、アメリアに怪しまれてしまった。
アメリアに、秘伝書を入手しようとしているなどと、絶対に知られてはならない。
だが、必ず手に入れたい、必ず。
「閣下、密偵に手紙を渡しますか?」
「いや。引き続き捜索するよう伝えてくれ。それだけでいい」
「畏まりました。それと例の薬の治験結果のレポートが届いております」
テオバルトはレポートを受取り、ざっと確認する。
これなら何も問題はなさそうだ、テオバルトは治験結果に満足した。
「担当者に、治験を終了し量産するよう伝えてくれ」
「畏まりました。ではリアム卿、ベン卿の2人を呼んでまいります」
間もなくして、リアム卿、ベン卿が書斎に姿を現した。
リアム卿は25歳、妻と子供3人いるが、結婚前は女遊びが激しかったと聞く。
ベン卿は23歳、妻と子供1人いて、同じく遊び人だったと聞く。
両名、どちらとも恋愛経験が豊富だろうから、婚前交渉の話を聞くには適任だ、そうテオバルトは確信している。
「悪いな、遅くに。まずは掛けてくれ」
「はい、閣下」
二人とも声を合わせて答え、ソファーに浅く腰かけた。
そのタイミングでテオバルトはワインを注ぎ入れ、2人に差し出す。
「お酒は飲めるよな?」
「はい。大好物です」
「でも、本当にいいんですかっ? 頂いても」
「勿論だ」
「では、頂きます」
「なんだ、これはっ。うっ、うまいっ」
「高級な味がする」
「これ、本当に高級なワインじゃないっすか」
二人はワインボトルのラベルを確認し、しまったな~という微妙な表情をした。
「そう、賄賂にはもってこいのワインだ」
テオバルトはそう言いながら、二人の空いたグラスに再度ワインを注ぎいれる。
二人ともテオバルトがこれからどんな要求を突き付けてくるのか、戦々恐々としている。
「二人には、この賄賂の見返りとして、教授してもらいことがある」
「一体どんなことでしょうか?」
「俺らが閣下に教授できることなんて、何もなさそうですけど」
「婚前交渉についてだ」
テオバルトがそう述べると、2人は顔を合わせ、コソコソ話始めた。
「? こっ、こんぜん? こんぜんこうしょう?」
「婚前交渉だ、知らないのか?」
「なんだそれ?」
「結婚前にセックスすることだ」
「ああ、そういうこと」
今までの会話から想定するに、ベン卿よりリアム卿の方が賢そうだ。
「君たちは、恋愛に長けていると聞いている」
「それは、そうですね。俺らは恋愛マスターです」
ベン卿が、自信ありげに答える。
「なら教えて欲しい。君たちは婚前交渉をしたのか?」
まずはリアム卿が答える。
「閣下、俺は今の妻と婚前交渉はしませんでした。妻だけは真剣に、真面目に、一番大事に付き合っていたので」
「ということは、妻以外には婚前交渉をしてきたのか?」
「はい。閣下。してきました」
「そのことは、妻は知っているのか?」
「妻は黙認しております」
「では今の妻以外は、真剣でなく、真面目でもなく、一番大事でもないから、婚前交渉したのか?」
「俺は……、妻以外の女性と婚前交渉した時も真剣で真面目でした。けれどその時は、一番大事なのは俺自身でした」
「なるほどな」
リアム卿の回答は、本に記載されていた内容と同じで、大事な人との婚前交渉を否定している。
では、次のベン卿の回答に期待しよう。
ベン卿が婚前交渉をしていれば、テオバルトに希望が持てる。
テオバルトがリアム卿からベン卿に視線を移すと、ベン卿が身を乗り出して語り始めた。
「閣下、俺は今の妻と婚前交渉しました」
「それは、本当か?」
「ええ、本当です。俺は妻にぞっこんで、婚前交渉せずには、いられませんでしたから」
「ベン卿の妻も、無論、同意の上か?」
「はい……、あっ、少し強引ではありましたが、それも俺の魅力ってことで、そこまでの拒絶は妻にありませんでした」
「そうか」
「はい。ですから、婚前交渉しても何も問題ありません。結局は結婚するんですから」
「そう……、だな」
ベン卿に婚前交渉を聞いて良かった。
これなら自信をもってアメリアと婚前交渉ができる。
「ベン卿、ありがとう。参考になった」
「それは、どうもです。お役に立てて嬉しいです」
「では、2人とも帰って休んでくれ」
テオバルトは2人を部屋から追い出し、早速、アメリアとの婚前交渉の計画を立てようとした。
しかしリアム卿はその場から動かず、何か物言いたげにテオバルトを見る。
「どうかしたのか、リアム卿」
「あのっ、閣下、一応お伝えしますが、ベンの奥さん、今出て行ってますよ」
「は? 出て行くとは?」
「ベンの奥さん、子供を連れて家出したんです。ベンは奥さんに見捨てられたんです」
「見捨てられた……」
その時、ベン卿が慌てた様子でテオバルトとリアム卿の間に割って入ってきた。
「いやーー、ほんと、俺もビックリなんっすよ。家帰ったら突然、もぬけの殻で。あっ、でも昨日ようやく妻子の居場所を突き止めました。妻の実家にいます」
テオバルトは愕然とした。
婚前交渉を行ったが故に、ベン卿の妻は家出をしたのか。
数年後に悪影響が出る場合があるのか。
「ベン卿、なぜ妻は家出した? 原因はわかっているのか?」
「いやーー、それがさっぱりで。まあ、とりあえず謝りまくって許してもらいます。あ、婚前交渉したのと、妻が家出したのは関係ないと思いますよ。それは断言できます」
原因不明なのに、なぜ婚前交渉が原因ではないと断言できるのか。
ベン卿の言うことには、全く信憑性がない。
「ベン、奥さんが戻ってきたら、これからは大事にするんだな」
リアム卿は、ぺしっとベン卿の頭を軽く叩いた。
ベン卿は耳の後ろ辺りを掻き、肩をすくめ、「そうっすね」と呟く。
そして、二人はテオバルトに礼をし、部屋から出て行った。
テオバルトはリアム卿とベン卿の会話を何度も思い返し、熟考した。
やはり本に書いてあることは正しかった。
婚前交渉はしてはいけないんだ。
もし婚前交渉をしてしまえば、大事な人を失ってしまう可能性がある。
アメリアを失う可能性が……。
それだけは絶対に駄目だ。
もう覚悟を決めよう、どんなに欲情しようとも、決して、アメリアと婚前交渉は行わないと。
そして固く決意しよう、結婚するまでは、アメリアの性感開発に集中し、徹底的に取り組むことを。
テオバルトは、そう自分自身と約束した。
妹のイザベラに会うために。
数時間後には、イザベラはグターナ牢獄へ収監されるため、会うなら今しかない。
「久しぶりだな、イザベラ。一ヵ月ぶりか……」
牢屋にいるイザベラは、プラチナ色の髪は輝きを失い、老婆のような、みすぼらしい白髪に。
華奢な体つきは、今や、ただの骨と皮だけの骸骨のような惨めな姿に成り果てていた。
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「まさか」
「そうよね」
「お前の母に関して、伝えに来ただけだ。お前の母はナーク領地にある聖教会に埋葬されることとなった」
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「いや」
「それもそうよね……。お母様が死んで嬉しいでしょう? お兄様」
「イザベラ、お前はどうなんだ?」
「そうね、もっとすぐに死んでほしかったわ。そうすれば私に聖女の力が無いことを、知られずに済んだのだから。あれは、お兄様が仕組んだのかしら? お母様が即死しないように」
「いいや、違う。恐らくお前の母は、毒の耐性を知らず知らずのうちに得ていたのであろう。薬物を乱用していたからな」
「あははっ、さすがお母様だわ。どこまでも私の足を引っ張るのね。本当に腹立たしいわ」
「お前の母は、お前を可愛がっていただろう。なぜそこまで嫌悪する?」
「お兄様は何もわかっていないのね。お母様は今まで一度たりとも、わたくしを認めたことはなかったわ。お母様はいつも、いつも、わたくしの容姿について不満を漏らしていた。わたくしの髪の色、目の色、姿が、お母様と一つも似ていなかったから……。もしお母様と似ていたら、少しはお父様に認めて貰えたのかしら……。わたしくの容姿は、昔いた庭師にそっくりなのでしょう?」
「さあな」
「お兄様も、お父様と同じ。わたくしを一度も認めてくださらなかった。聖女になった時も……」
「イザベラ、お前が俺をどう思っているか知らないが、俺はお前のことを妹として認めていた」
「今更、何を言っているのかしら? 妹ですって。わたくしのこと、見向きもしなかったでしょう?」
「お前と俺は似ている。人を殺すことを厭わない残虐性、力への渇望、支配欲、そして何より愛に飢えている」
「……、そうね……、確かに、わたくしと、お兄様はそっくりだわ」
「お前が、俺の物を傷つけさえしなければ、お前が、そこまで落ちぶれることもなかっただろう」
「……、すぐに治すつもりだったのよ。それなのに、隊から一人遅れて……。でも、今思えば本当にバカなことをしたわ。後悔しても、もう遅いけど……」
「イザベラ、これを受け取れ。兄としての餞別だ」
テオバルトは、イザベラに水玉模様の紙に包まれた飴を差し出した。
イザベラは全てを把握したように、その飴を手に取る。
「懐かしいわ……、この飴。この飴を舐めている時は幸せだったわ」
「俺はそろそろ行く」
「ええ。お兄様、さようなら……」
翌日、テオバルトはいつものようにアメリアが待つ職場に赴く。
毎日のことなのに、アメリアはテオバルトと会う瞬間、子犬のように喜ぶ。
そんなアメリアが愛おしくて仕方ない。
ついつい甘やかしたくなってしまい、今日もアメリアに渡すプレゼントを隠し持っている。
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シャンテーネはアメリアの大のお気に入りで、これからも一年に一度は必ず行きたいと、約束されられたほどだ。
プロポーズした日の料理がそんなに美味しかったのだろうか……、テオバルトはそれどころではなかったので、出された料理がどんなだったか全く思い出せない。
「おはようございます、テオバルト様」
アメリアはいつも、花が咲くような笑顔をテオバルトに向ける。
「おはよう。アメリア、これをやる」
「わぁ~、なんですか? あ、シャンテーネのお菓子!」
「たまたま近くを通ったからな」
「シャンテーネのお菓子、大好きです。ありがとうございます。すっごく嬉しいです」
「そうか」
「あ、それでですね、昨日、両親から連絡がきました。日程は特に問題ないそうで、お待ちしていますとのことです」
「わかった」
来週、アメリアの実家に挨拶に行く。
片道だけで5日ほどかかるが、休暇も兼ねて行くので、一ヵ月ほど仕事を休む予定だ。
ただ、行く前にどうしても確認したことがある。
それは婚前交渉しても問題ないか、という点。
どの本を確認しても、初夜は結婚後となっている。
王宮図書館の本をくまなく確認してみたが、婚前交渉を認めている本は一つもなかった。
逆に婚前交渉を禁止している本が殆ど。
どう考えても婚前交渉なくして、アメリアと一ヵ月過ごせる自信が、テオバルトにはない。
なら今回だけは、本通りではなく、婚前交渉をしてみてはどうか……。
しかしここまで順調に進んだのは、本の助けがあってこそ。
今ここで、本に禁止されていることを、実行するのはかなり危険だ。
だが……、どうしても諦めきれない。
仕方がない、今回は本ではなく人に確認してみよう。
本よりも実体験の方がより確かだ。
テオバルトは屋敷に帰宅次第、執事のローマンを呼んだ。
「閣下、お呼びでしょうか」
「ああ、リアム卿と、ベン卿、2人をここに連れて来るように」
「畏まりました、すぐに手配します。また先ほど密偵から連絡が入りました」
ローマンは密偵からの手紙を、テオバルトに手渡す。
テオバルトは手紙の封を開け、内容を確認した。
『未だ花は咲いてない』
ただその一文のみ、書かれてある。
花とは、テオバルトが探し求めている物。
咲いてないとは、見つかっていない、という事。
つまり、テオバルトが探し求めている“秘伝書”は未だ見つかっていない、ということ。
アメリアが行ったあの技法が書かれてある秘伝書を、テオバルトは何としても入手し、読みたいと切望していた。
まずはアメリアの領地に密偵を放ったが、全く手掛かりを掴めなかった。
そのため大金をかけ、何人もの密偵を雇い、広範囲に秘伝書を探し求めている。
しかし何一つ手掛かりを掴めていない。
勿論、王宮図書館でも探してはいるが、毎日のように王宮図書館に出入りしていたら、アメリアに怪しまれてしまった。
アメリアに、秘伝書を入手しようとしているなどと、絶対に知られてはならない。
だが、必ず手に入れたい、必ず。
「閣下、密偵に手紙を渡しますか?」
「いや。引き続き捜索するよう伝えてくれ。それだけでいい」
「畏まりました。それと例の薬の治験結果のレポートが届いております」
テオバルトはレポートを受取り、ざっと確認する。
これなら何も問題はなさそうだ、テオバルトは治験結果に満足した。
「担当者に、治験を終了し量産するよう伝えてくれ」
「畏まりました。ではリアム卿、ベン卿の2人を呼んでまいります」
間もなくして、リアム卿、ベン卿が書斎に姿を現した。
リアム卿は25歳、妻と子供3人いるが、結婚前は女遊びが激しかったと聞く。
ベン卿は23歳、妻と子供1人いて、同じく遊び人だったと聞く。
両名、どちらとも恋愛経験が豊富だろうから、婚前交渉の話を聞くには適任だ、そうテオバルトは確信している。
「悪いな、遅くに。まずは掛けてくれ」
「はい、閣下」
二人とも声を合わせて答え、ソファーに浅く腰かけた。
そのタイミングでテオバルトはワインを注ぎ入れ、2人に差し出す。
「お酒は飲めるよな?」
「はい。大好物です」
「でも、本当にいいんですかっ? 頂いても」
「勿論だ」
「では、頂きます」
「なんだ、これはっ。うっ、うまいっ」
「高級な味がする」
「これ、本当に高級なワインじゃないっすか」
二人はワインボトルのラベルを確認し、しまったな~という微妙な表情をした。
「そう、賄賂にはもってこいのワインだ」
テオバルトはそう言いながら、二人の空いたグラスに再度ワインを注ぎいれる。
二人ともテオバルトがこれからどんな要求を突き付けてくるのか、戦々恐々としている。
「二人には、この賄賂の見返りとして、教授してもらいことがある」
「一体どんなことでしょうか?」
「俺らが閣下に教授できることなんて、何もなさそうですけど」
「婚前交渉についてだ」
テオバルトがそう述べると、2人は顔を合わせ、コソコソ話始めた。
「? こっ、こんぜん? こんぜんこうしょう?」
「婚前交渉だ、知らないのか?」
「なんだそれ?」
「結婚前にセックスすることだ」
「ああ、そういうこと」
今までの会話から想定するに、ベン卿よりリアム卿の方が賢そうだ。
「君たちは、恋愛に長けていると聞いている」
「それは、そうですね。俺らは恋愛マスターです」
ベン卿が、自信ありげに答える。
「なら教えて欲しい。君たちは婚前交渉をしたのか?」
まずはリアム卿が答える。
「閣下、俺は今の妻と婚前交渉はしませんでした。妻だけは真剣に、真面目に、一番大事に付き合っていたので」
「ということは、妻以外には婚前交渉をしてきたのか?」
「はい。閣下。してきました」
「そのことは、妻は知っているのか?」
「妻は黙認しております」
「では今の妻以外は、真剣でなく、真面目でもなく、一番大事でもないから、婚前交渉したのか?」
「俺は……、妻以外の女性と婚前交渉した時も真剣で真面目でした。けれどその時は、一番大事なのは俺自身でした」
「なるほどな」
リアム卿の回答は、本に記載されていた内容と同じで、大事な人との婚前交渉を否定している。
では、次のベン卿の回答に期待しよう。
ベン卿が婚前交渉をしていれば、テオバルトに希望が持てる。
テオバルトがリアム卿からベン卿に視線を移すと、ベン卿が身を乗り出して語り始めた。
「閣下、俺は今の妻と婚前交渉しました」
「それは、本当か?」
「ええ、本当です。俺は妻にぞっこんで、婚前交渉せずには、いられませんでしたから」
「ベン卿の妻も、無論、同意の上か?」
「はい……、あっ、少し強引ではありましたが、それも俺の魅力ってことで、そこまでの拒絶は妻にありませんでした」
「そうか」
「はい。ですから、婚前交渉しても何も問題ありません。結局は結婚するんですから」
「そう……、だな」
ベン卿に婚前交渉を聞いて良かった。
これなら自信をもってアメリアと婚前交渉ができる。
「ベン卿、ありがとう。参考になった」
「それは、どうもです。お役に立てて嬉しいです」
「では、2人とも帰って休んでくれ」
テオバルトは2人を部屋から追い出し、早速、アメリアとの婚前交渉の計画を立てようとした。
しかしリアム卿はその場から動かず、何か物言いたげにテオバルトを見る。
「どうかしたのか、リアム卿」
「あのっ、閣下、一応お伝えしますが、ベンの奥さん、今出て行ってますよ」
「は? 出て行くとは?」
「ベンの奥さん、子供を連れて家出したんです。ベンは奥さんに見捨てられたんです」
「見捨てられた……」
その時、ベン卿が慌てた様子でテオバルトとリアム卿の間に割って入ってきた。
「いやーー、ほんと、俺もビックリなんっすよ。家帰ったら突然、もぬけの殻で。あっ、でも昨日ようやく妻子の居場所を突き止めました。妻の実家にいます」
テオバルトは愕然とした。
婚前交渉を行ったが故に、ベン卿の妻は家出をしたのか。
数年後に悪影響が出る場合があるのか。
「ベン卿、なぜ妻は家出した? 原因はわかっているのか?」
「いやーー、それがさっぱりで。まあ、とりあえず謝りまくって許してもらいます。あ、婚前交渉したのと、妻が家出したのは関係ないと思いますよ。それは断言できます」
原因不明なのに、なぜ婚前交渉が原因ではないと断言できるのか。
ベン卿の言うことには、全く信憑性がない。
「ベン、奥さんが戻ってきたら、これからは大事にするんだな」
リアム卿は、ぺしっとベン卿の頭を軽く叩いた。
ベン卿は耳の後ろ辺りを掻き、肩をすくめ、「そうっすね」と呟く。
そして、二人はテオバルトに礼をし、部屋から出て行った。
テオバルトはリアム卿とベン卿の会話を何度も思い返し、熟考した。
やはり本に書いてあることは正しかった。
婚前交渉はしてはいけないんだ。
もし婚前交渉をしてしまえば、大事な人を失ってしまう可能性がある。
アメリアを失う可能性が……。
それだけは絶対に駄目だ。
もう覚悟を決めよう、どんなに欲情しようとも、決して、アメリアと婚前交渉は行わないと。
そして固く決意しよう、結婚するまでは、アメリアの性感開発に集中し、徹底的に取り組むことを。
テオバルトは、そう自分自身と約束した。
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「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
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