本好き魔導士の溺愛

夾竹桃

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テオバルト様は、ベッドに、小さな箱、中くらいの箱、大きな箱、さっき私があげたハンカチ、紅茶、分厚い本を置き、最後に私をベッド中央に座らせた。
ハンカチと紅茶と本は、説明がなくてもテオバルト様が好きな物だとわかる。
けど、小中大の中身は何だろう。

「テオバルト様、この小さな箱は?」

「覚えてないのか? これはアメリアが感謝祭の時にくれたクッキーだ。まだ2つ残っている」

「そうでした。美味しかったですか?」

「ああ」

「では、この中くらいの箱は?」

「これは、媚薬が入っている。今の所10種類あり、全て俺が精製した」

「媚薬を作るのが好きってことですか?」

「そうだ。この媚薬を使ったらアメリアがどうなるかを想像しながら作っている。今一番好きな作業だな」

「へぇ……ぇ……」

「どんな効能があるか説明するか?」

「いえいえ、大丈夫です」

「そうか……」

「最後に、この大きな箱の中身は何ですか?」

「俺のお気に入りのコレクションが入っている」

「わぁ~、それはなんですか?」

「見たいか?」

「ぜひ」

「まだ収集途中だから数は少ないが、どれもクオリティが高く魅惑的なものばかりだ」

 テオバルト様は大きな箱の蓋を開け、一つずつ丁寧に、まるで宝石を扱っているかの如く、それらを取り出し、ベッドに置いた。

「これって、まさか……」

「拘束具だ」

 その数、トータル7個。
可愛らしいピンク色の拘束具、黒光りしている黒色の拘束具、どうやって使うかわからない物。

「あは。あはは」

 もう笑うしかない。

「俺は、アメリアは拘束し、俺の手で感じているアメリアを見るのが最高に幸せなひと時だ」

「そっ、そうですか……」

 テオバルト様は、ピンク色の拘束具を手に取り、私にグイグイと近寄ってくる。
このままでは、また拘束されてしまう、それは、まずい。
私は、ちょっとずつ後退し、テオバルト様と距離を取る。
その時、テオバルト様が持ってきた分厚い本が私の手に触れた。
そうだ、本の話題を振って、この場を切り抜けよう。

「あは。テオバルト様の好きな本って、どんなのですか。興味津々ですー」

 と言いつつ、私はその本を手に取り、題名を確認する。
題名は“性感開発”

「それは、俺が今一番好きな本だ。もう何回も読んだ」

「それは、それは、凄いですね」

「それで俺はこれから、アメリア式の幸せになる時間を体験していいんだよな」

 確かにテオバルト様には、幸せな時間をいっぱい味わって欲しい。
提案したのも、私だし。
えぇ~い、もう覚悟を決めよう。

「わっ、わかりました。でも、ほどほどでお願いします」

 私がそう言うと、テオバルト様の瞳は、今日一番の輝きを宿した。

「アメリア、この媚薬も使っていいよな?」

 テオバルト様のやることに、極力水を差したくない。
もう、どんとこいだー……、いやいや、待て待て、冷静になれ私。
確認は必要だ。

「どっ、どんな効能の媚薬ですかっ?」

「これは感度が2倍になる媚薬で、飲み薬ではなく、塗り薬だ」

「感度が2倍……」

「そう。2倍気持ちよくなれる。それにこの媚薬は匂いにも凝っていて、甘い花のいい匂いがする」

 テオバルト様は私の手首を掴み、拘束具を付けようとした。
しかしその時、扉の戸を叩く音がした。

トントン「閣下、執事のローマンです。今少し宜しいでしょうか?」

「……」

 テオバルト様は無言。
一瞬部屋が静まり返るが、再度、ローマンさんが扉を叩く。

ドンドン「閣下、執事のローマンです。今少し宜しいでしょうか?」

「…………」

 またしてもテオバルト様は無言。
一生懸命、気づかない振りをしている。
ここでテオバルト様の幸せな時間を中断させてしまうのは、あまりに可哀想……。
けれど緊急なことかもしれないし、ローマンさんの呼び出しに応じるべきかもしれない。
そう思って私は、「応えてあげた方がいいんじゃないですか?」とテオバルト様に囁いた。
するとテオバルト様は、眉間に鋭い皺を寄せ、目をつぶった。
まるで苦渋の決断を迫られているような、そんな表情。
しばらくテオバルト様は微動だにしなかったが、私がテオバルト様の手にそっと触れると、ようやくテオバルト様は目を開き、しぶしぶベッドから下りた。
そして扉まで行くと、テオバルト様は、私の方へ振り返った。

「すぐ戻る」

 そう言い残し、部屋を出て行ったテオバルト様だったが、何時間経っても姿を見せない。
さすがに心配になった私は、夕食時に、テオバルト様の居場所をメイドさんに尋ねた。
恐らく、テオバルト様は別邸に行っていて、王宮から運ばれた荷物の対応をしているのではないか、とのこと。
王宮から運ばれた荷物とは、お継母様の遺体で間違いないはず。
皇太子殿下も今日の午後運ばれると、言っていたし。
テオバルト様、お継母様の葬儀するのかな……、私が気にしても仕方がないことだけど、気になる。
もし葬儀をするなら、テオバルト様、忙しくなるよね。
イザベラ様の件もあるし。
私がもっとしっかりしていたら、支えてあげられるのに。
いや、そうじゃない、支えてあげよう、これから。
テオバルト様が、寂しくないように、幸せになるように、精一杯私ができることで、支えてあげよう。
まずは……、そうだな……、テオバルト様、疲れて戻ってくるだろうから、ベッド内を綺麗にして、すぐ寝られるようにしておこう。
それでベッド脇に、軽食とワインとか置いて……。
なんか、この作業って、新妻みたい。
遅くなる旦那様を心配して待つ新妻、うん、なんかいいかも。

 それにしても、テオバルト様、遅いな~。
眠気が襲ってきて、起きているのがもう辛い。
寝ちゃおうかな……、いやまだダメ、もう少しだけ……。
もう少し、頑張ら……ないと……。


……ァ…、メリア……、アメリア……、
なんだろう、遠くの方から私を呼ぶ声が聞こえる……。


「アメリア……、アメリア、起きるんだ」

 あ、テオバルト様だ、テオバルト様の声だ。
テオバルト様が戻ってきた。

「ふゎ~ぁ、ごめんなさいっ、テオバルト様。ちょっとウトウトしちゃって。今何時ですか?」

 私は背伸びをし、目をゴシゴシ擦って、辺りを確認した。
あれ、なんでだろう……、部屋が物凄く明るい。
小鳥の囀りまで聞こえる。
もしかして、もう朝?
そんなぁ~、夜遅くにテオバルト様が戻ってきたら、お疲れ様でしたって言って、ワイン注いで……って、労うつもりだったのに。
いつのまにか爆睡してたんだ、私。

「今は、朝の7時だ。そろそろ起きて支度した方がいい」

 テオバルト様は、もう完璧に支度が整っている。

「朝の7時……。テオバルト様は昨日、何時ごろ部屋に戻ってきたんですか?」

「夜中の1時過ぎだ」

「1時過ぎ……。起こしてくれても良かったのに……」

「起こしたが、起きなかった」

「そうだったんですね、ごめんなさい」

「いや。俺もすぐ戻ると言ったのに戻れなかった。悪かったな」

「いえいえ。でも大丈夫でしたか?」

「ああ。これから少し忙しくなるが、落ち着いたら必ず、アメリア式の幸せになる時間を体験させてもらう」

「わかりました。早く落ち着くといいですね」

「まったくだ」

 私は急ぎ支度をし、出掛ける準備を整えた。
王宮へは、テオバルト様の転移魔法で行く。
到着すると、私はテオバルト様に手を引かれながら、これから私達が働く建物に向かった。
その建物は、3階建てで、シンプルな作り。
内部も至ってシンプルで、ゴテゴテした装飾は一切ない。
テオバルト様の説明によると、先代の皇后が王宮内の喧騒に疲れ果てて、静養目的で使用していた建物だということ。
確かに、落ち着く。
また、テオバルト様が使用する部屋は、3階の角部屋。
大きな窓がいくつもあって、部屋の中は非常に明るい。

「テオバルト様、この部屋って建物内で一番広くないですか?」

「そうだな。そう希望を出したからな」

「広い部屋が好きなんですね。でも魔塔の時のように暗くないですけど、大丈夫ですか?」

「魔塔で地下の部屋にいたのは、ただ単に一番広かったからだ。地下全域を使用できたからな」

「なるほどです。あ、そうです。ここからも秘密の部屋に行けますか?」

「行けるようにするつもりだが、忙しくなるな」

 テオバルト様の言葉どおり、それから忙しい日々を送ることに。
引越し作業に、整理整頓、それらに約1ヶ月弱を要した。
その間、テオバルト様とのデートは一切なし。
ただ、皇太子殿下が言っていた通り、食事がとても美味しく、制服もとても素敵。
この制服を着たいがために宮廷魔導士の助手に応募してくる人もいそうなぐらいだ。

 そして今は、ようやく落ち着きを取り戻し、秘密の部屋で暖かな陽射しを浴びながらテオバルト様とランチを頂いている。

「アメリア、明日は夕食を一緒に食べに行くぞ」

「はい。久しぶりのデートですね。楽しみです~」

「仕事が終わったら、そのまま行くから」

「はい、わかりました。でしたら着替えを持ってきた方がいいですよね」

「そうだな」

 きっとテオバルト様は夕食後に、アメリア式の幸せ時間を体験するつもりに違いない。
であれば、私は身体を綺麗にしておく必要がある。
帰宅したら、さっそく身体をピカピカに磨こっと。



 
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