本好き魔導士の溺愛

夾竹桃

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戦い

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「どうじゃ、テオバルト。儂のレラージュ5体と、お主のラーゾ、どちらが強いかのぉ?」

 テオバルト様は、魔法で剣を出現させ、それを地面に突き立てた。
すると、その突き立てた所から、大きな羽と角を持つ、3メートルぐらいありそうな巨人が姿を現す。
またその巨人は、大きな剣を携えている。
どうやらその巨人は闇の精霊王ラーゾで、所長が召喚したのもレラージュという名の精霊らしい。
というか、私……、まじ怖い。
テオバルト様が私の手を離さないから、グアン様の最期も、怖い精霊も、最前列で見る羽目になっているし。
これからきっと壮絶な戦いが始まるんだろうけど……、私、生きて帰れるだろうか。

 けれど私の心配をよそに、勝負は呆気なく、一瞬でついてしまった。
精霊王ラーゾが剣を大きく一振りすると、レラージュ5体は一瞬のうちに砕けるように散ってしまった。
剣はレラージュに全く触れていないし、剣圧もなかった。
それなのにどうして? なんで?
そう思ったのは私だけでなく、テオバルト様以外、皆、そのことに驚愕している。

「なぜじゃ、そんな馬鹿な……」

「所長、気づかないのか? どうやら本当に老いぼれたようだな」

「一体何をしたんじゃっ、テオバルトっ」

「ラーゾは注意を引き付けるためだけに召喚させたのであって、実際攻撃したのは、地中に埋まっている土の精霊イボスだ」

「そんなっ、いつの間に……」

「ならば、これも気づいていないのか」

 テオバルト様がそう言うと、所長が立っている場所に、赤黒い魔法陣が出現した。
その次の瞬間、赤黒い魔法陣から縄のような蛇が飛び出て、所長に絡みつき、牙を突き立てた。

「くっ、テオバルトっ、きさ……、まっ……」

 所長は目をむいたかと思うと、バタリと倒れた。
しばらく経っても、ピクリとも動かない。
また所長に絡みついていた蛇は、いつの間にか縄に変わっていて、所長を拘束している。

「テオバルト、所長は死んだのか?」

 皇太子殿下は、恐る恐る所長に近づき、様子を伺う。

「いいえ、蛇の毒で身体が麻痺しただけです。24時間ほど経てば、意識を回復します」

「であれば、魔力を遮断する拘束が必要だな」

 皇太子殿下は騎士に指示を出し、特殊な拘束具を所長の両手にはめた。
同じく、イザベラ様も秘書も、騎士に捕らえられる。
その時のイザベラ様は、まるで人形のように、ぼんやりした虚ろな目をしていた。
テオバルト様は、妹さんであるイザベラ様が捕らわれても、何も口出しせず、見守るだけ。

 それから、皇太子殿下とテオバルト様は事後処理に追われた。
テオバルト様は魔塔にいる所長の配下2名を捕らえる。
配下2名は、安堵した表情をしており、特に抵抗することなく捕らえられた。
皇太子殿下と騎士達は、魔法道具を使い、魔塔を封鎖した。
今は魔塔に入ることも、出ることも誰一人出来ない。

 私はというと、騎士2人に守られながら裏庭のガゼボにいて、テオバルト様を目で追っている。
テオバルト様も、私が心配なのか、チラチラと何度もこっちを見る。
その度に目と目が合う。

 2時間程経過した辺りだろうか、魔塔での作業の区切りがつき、帰宅することに。
テオバルト様は有無を言わさず、私を連れて、自分の屋敷に戻る。
部屋に入るなり、テオバルト様は私を抱え、ベッドに下した。
そして私の目を真っすぐ見て、声を発した。

「アメリア、今すぐ抱きたい」

 テオバルト様は切羽詰まった表情をして、私の返事を待っている。
どうしよう……、まさか今、そう言われるなんて思っていなかった。
本当に、思っていなかった。
でも、今ここで断ったら、テオバルト様の心が崩壊しそう、そんな気がする。
だから私は意を決し、口を開いた。

「はい、テオバルト様。お願いします」

 テオバルト様の瞳が一瞬、じわっと潤んだ気がした。
そんなテオバルト様が愛おしくて私は、テオバルト様の頬に両手でそっと触れる。
あれ……、なんかテオバルト様、熱くない?
興奮しているから、熱いのかな。
確認するために今度は、テオバルト様の頬をちゃんと触れてみる。
やはり熱い、明らかに熱い。
でもテオバルト様は自分の熱に気づいていないらしく、私と唇を合わせようとした。
ああ、もうすぐ唇が触れる、と思った瞬間、テオバルト様は、くたりと私に覆いかぶさった。
テオバルト様の全身の力が抜けているのか、とてつもなく重い。
チラっとテオバルト様の表情を確認すると、目を瞑り辛そうに呼吸していて、意識も朦朧としている。
これは、まずい。
一刻も早く、レーナお姉様に治癒してもらう必要がある。
私は、覆いかぶさっているテオバルト様から這い出て、ベルを鳴らし執事のローマンさんを呼んだ。
そしてローマンさんに至急、レーナお姉様を呼ぶようお願いした。

 あの強いテオバルト様が倒れるなんて、心配で心配で仕方がなかったが、レーナお姉様は、1時間もしないうちに、駆け付けてくれた。
どうやら舞踏会から戻らない私を心配していたらしく、寝ずに待っていたよう。

「レーナお姉様、来てくれてありがとう。それでテオバルト様なんだけど、熱が高くて、寝込んじゃっているの。お願い、診てあげて」

「わかったわ」

 レーナお姉様は、テオバルト様の額に手をあてて、診察している。
テオバルト様は相変わらず辛そう。

「どう? レーナお姉様」

「単なる過労ね」

「大丈夫なの? 治るの?」

「寝れば治るわよ」

「治癒は? 治癒してくれないの?」

「だから、寝れば治るわよ。それにすぐ治癒するより、数日休む方がテオバルトのためよ」

「そっ、そうなの? 本当に大丈夫なの?」

「大丈夫よ」

「そう……。私、心配だからテオバルト様が起きるまで傍にいるね」

「起きるまでではなく、2,3日は看病しなさい」

「えっ、いいの?」

「ええ。外泊の許可をあげるわ」

「ありがとう。あ、そういえば……、イザベラ様の件、知ってる?」

「ええ、ここに来る前に、皇太子殿下の早馬が知らせてくれたわ」

「色々ビックリすることが多すぎて、未だに私は頭がこんがらがっているよ」

「そうね、わたくしも驚いたわ。わたくしが、何年掛けて調べても全くわからなかったのに、テオバルトは数か月で、あっという間に解決したわ。本当に驚きだわ」

レーナお姉様は、ゆっくりと、聖女シャーロットについて話し始めた。
聖女シャーロットはレーナお姉様より2歳年下で、愛嬌があり、元気で活発、それでいて、聖女の治癒力も強く、勉学に励む努力家。
そんな聖女シャーロットをレーナお姉様と皇太子殿下は特に可愛がり、妹的存在だったそう。
けれど大戦が始まり、皇太子殿下が参戦すると、レーナお姉様も追いかけるようにして参戦。
大戦に出兵していた期間は1年ほどだったが、その間に、聖女シャーロットは行方不明に。
当初は大規模な捜索が行われたが、年を追うごとに、いつの間にか人々から忘れ去られていった。
だからレーナお姉様は独自で今まで調査していたが、全く成果は得られず。
同じ頃に聖女になったイザベラ様のことを怪しんでいたものの、生まれつきではない、突然聖女の力を持つ者も、過去に存在したため、確信が得られなかった。
そう涙を滲ませながら、レーナお姉さまは話した。

「辛かったね……、レーナお姉様」

「ええ。とても辛かったわ。でもこれからはきっと、辛くなくなるわ」

「うん。そうだね。それにしても、テオバルト様は天才だよね」

「ええ、そうね。今は素直に同意するわ」

「珍しい~」

「そうね。今は、本当にテオバルトに感謝しているの」

 それからすぐに、レーナお姉様は教会に戻って行った。
後日改めて、テオバルト様にお礼の訪問をすると伝言を残して。
私はドレスから私服に着替え、テオバルト様の横に寝転んだ。
テオバルト様、大丈夫かな……、額に触れ、再度熱を確認したが、まだ熱い。
けど表情はさっきより和らいで、深く寝入っている。
今日は結局、エッチできなかった。
でも、近い内に私達、するのかな……。
てっきりテオバルト様のことだから、結婚してから初夜を迎えると勝手に思っていた。
ピンクの恋愛本にも、そう書いてあったし。
私は、どうだろう、テオバルト様と、したいのかな~。
う~~ん、したいよ~な、したくないよぉ~な。
まあ、私のことだから、テオバルト様にまた、したいって言われたら、流されて、しちゃうんだろうな~。
それでも、まあ、いいかな~。
そんなくだらないことを、悶々と考えたら、私も知らない内に寝入っていた。

 翌日、テオバルト様は、夕方になってようやく目覚める。
熱もなく、すっきりとした表情。

「アメリア、俺はどれくらい寝てたんだ?」

「16時間ぐらいでしょうか。昨晩は熱もあって辛そうだったんですよ」

「そうか。俺は……、俺達はしなかったのか」

「そうですね。はい、しませんでした」

「昨日は……、どうしても抑えられなかった。すまない……」

 申し訳なさそうに言うテオバルト様。
別に謝ることでもないのにな。
やっぱり紳士的には結婚してからっていう固定観念があるのかな。

「いえいえ、大丈夫です。結局しませんでしたし」

「……そうか」

「あ、そうです。先ほど皇太子殿下の侍者が来て伝言していかれました。数日中に皇太子殿下がお見舞いに来てくださるそうですよ」

 続けて私は、テオバルト様に、昨晩の出来事を話した。
レーナお姉様が来た事、診察結果が過労で、2,3日休養が必要な事、また、レーナお姉様は聖女シャーロットの件に関して感謝していて、そのお礼を言いに後日訪問する事を、伝えた。

「レーナが来たのか……」

「はい。レーナお姉様からしっかり看病するようにと言われています。だから目いっぱい私に甘えて下さいね」

「それは、いいな」

「じゃあ、まずは食事にしましょう。はい、あーーん」

 私は、具沢山スープをスプーンですくい、テオバルト様の口に近づける。
テオバルト様は恥ずかしがることもなく素直に口を開け、一口食べる。
なんだろう、この食べさせてあげる行為って、異様に私の母性本能をくすぐる。
口を開けてパクっとするテオバルト様、もう、めちゃくちゃかわいぃ~。
ずーっと、あげていたい。

 食事が終わり、今度はお風呂。
うっしっし、実はお風呂に関して企みがある。
いつもテオバルト様にエッチなことされているから、この機に仕返ししようと。
病人相手にちょっと酷かなって思ったけど、案外テオバルト様、元気そうだし。
今が、チャンスだ、辱めてやる!

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