本好き魔導士の溺愛

夾竹桃

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舞踏会

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今日は、とうとう舞踏会当日。
主要な王侯貴族は参加するらしい。
レーナお姉様も参加したかったらしいが、仕事があるため断念。

 舞踏会の私の支度はテオバルト様の屋敷でお願いすることとなっている。
だから朝早くに、テオバルト様のお屋敷を訪れた。
もう屋敷に入った瞬間から、私はお姫様のように扱われ、最高の夢心地を味わっている。
特に入浴後のボディーマッサージは最高で、コリというコリが、全て溶かされた。

 ヘアセットも、お化粧も、着替えも全て終わった時、テオバルト様がドレッシングルームに現れる。
テオバルト様の衣装は、私のドレスの色と同じグリーン系。
鏡の前で一緒に並ぶと、見まごうことなく完璧な恋人同士だ。

「アメリア、綺麗だ」

「うふふ、ありがとうございます。テオバルト様も、とっても、と~ってもカッコいいです」

 私達は馬車で王宮へ赴き、舞踏会会場のメインホールに入場した。
そこには既に大勢の人がいて、私達を遠巻きに観察している。
そして何やらヒソヒソと噂話をしている。
きっとテオバルト様のカッコよさに度肝を抜かれたに違いない。
でも、今更気づいたって遅すぎ。
私とテオバルト様は、熱々、ラブラブな恋人なんだから。
誰にも邪魔はさせませんよー。
そう思いつつも噂話は気になるので、こっそり聞き耳を立てると……。

「見て、公爵様だわ。隣にいる女性は誰かしら」
「あら、知らないの。公爵様の恋人で聖女レーナ様の妹よ」
「本当に? まあなんて素晴らしい方なのかしら。あの公爵様とお付き合いできるなんて」
「ですわよね~。わたくしなんて近寄ることさえはばかられますわ~。きっとあの方は慈愛の心をお持ちなのね」

 と壁際にいる独身女性が話している。
う~ん、褒めてないよね……。
次に、恰幅のいい男性達の話しに聞き耳を立てると…。

「あの女性が、聖女レーナ様の妹か?」
「そのようだな。皇太子殿下は姉を、公爵は妹を寵愛しているようだ」
「姉妹ともども、我々が知らぬ優艶な魅力があるのだろう」
「我々もその魅力を享受させてもらいたいものですな。あはははっ」

 と話している。
何エロいこと想像してるんだか、いやだ、いやだ。

 でも、これが上流貴族なんだ。
うまい嫌味を言えるのが、一種のステータスなのかもしれない。
私も何か嫌味を言って、あの人たちをギャフンと言わせたい。

「テオバルト様、私達も何か上手い嫌味を言ってみましょうよ」

「俺はあいつらと同類になりたくない」

「そんな~。せっかくですし、お願いします。あ、私いい嫌味を思いつきました」

「仕方がないな」

 私はヒソヒソとテオバルト様に耳打ちする。
それを聞いたテオバルト様は、若干呆れ顔。

「テオバルト様、あそこを見てください。美しい花が壁際に飾られていますよ。素晴らしいですね」
「アメリア、あれは花ではなく、ご令嬢だ」
「まぁ、本当だわ。それにしても美しいです。私も壁の花のようになれたらいいのに」
「アメリアには無理だな」

 と、壁際にいる独身女性をチラチラ見ながら、話した。
もちろん、彼女達は、怒り心頭。
うぷぷ、上手くいった。
次は、あの恰幅のいい男性だ。

「それにしてもテオバルト様、どこからかいい匂いがしませんか?」
「そうだな。熟成したチーズがあそこに用意されているのかもしれない」
「きっと、アオカビが沢山生えたブルーチーズですね。ぜひ堪能してみたいです」

 と、恰幅のいい男性の方向を見ながら、私とテオバルト様は会話した。
その男性達も、私達の嫌味に気づいたらしく、眉間に皺を寄せ、ムッとしている。
こっちも、上手くいった。
私は小さいガッツポーズをしつつ、テオバルト様にこそっと囁いた。

 「テオバルト様、やりましたね」

 返答こそなかったが、テオバルト様の口角が少し上がっている。
でも気分はいいけど、無用な敵を作ってしまったかも……、ちょっと反省するべきかな。

 社交界で私は一人も友達いないし、できれば今回の舞踏会を機に、気の合う友達が欲しい。
と思い、辺りをキョロキョロと見回すと、笑いながらこっちを見ている若い女性のグループがいる。
悪意ある笑いではなく、楽しそうな陽気な笑い。
きっと、先程のやり取りを見て笑ってくれたに違いない。
その証拠に、私に小さく手を振ってくれた。
もちろん私もニッコリほほ笑み、小さく手を振り返す。
うん、時間ができたらあの女性に話しかけてみよう。

 そんな時、イザベラ様とお継母様が舞踏会会場に現れた。
イザベラ様は、華奢な身体をさらに強調するかのような細身のドレスを纏っている。
そのドレスは、総レースで、髪の色と同じシルバー色。
お継母様は、派手な紫色のドレスで会場一目立っている。
まさか、二人が舞踏会に参加するなんて、予想外だ。
イザベラ様、私に毒を塗ったこと忘れちゃっているのかな……、平然と舞踏会に参加するなんて、なんてふてぶてしいんだ。
そう思ってイザベラ様を睨みつけたら、イザベラ様は逆に花のような笑顔を私に向ける。
また、イザベラ様は人気があるのか、人だかりがすぐにでき、楽しそうにしゃべり始めた。
お継母様はというと、私達を恐ろしい形相で睨みつけている。

 それからしばらく会場内はガヤガヤしていたが、国王陛下の入場の知らせが届くと、皆一様に静まる。
ラッパが鳴り響くと同時に、会場の正門が大きく開き、国王陛下、王妃、皇太子殿下が順に入場される。
国王陛下は挨拶の言葉を述べ、王妃と共に着席すると、優雅な音楽の演奏が鳴り響いた。
舞踏会の開始の合図だ。

「アメリア、国王陛下に挨拶しに行くぞ」

「はい……」

 初っ端から国王陛下に挨拶しなきゃいけないなんて、緊張する。
でも嫌なことは、早くに終わらせる方がいいよね。
私はテオバルト様の腕をガッチリ掴み、国王陛下の前に立った。
テオバルト様は私の緊張をほぐすように、ぽんぽんと優しく私の手に触れる。
国王陛下はうっすらと笑みを浮かべている……、けど目が笑っていないというか、目が鋭い。

「久しぶりだな、テオバルト。それで隣にいる令嬢が、ベレヌの聖獣に愛されし乙女か?」

「はい、陛下」

 テオバルト様は、私に挨拶するよう即す。

「初めてお目にかかります、陛下。私は、リヒター男爵家の二女、アメリア・リヒターです」

 実はこのセリフ、行きの馬車の中で、テオバルト様の指示のもと何度も練習した。
お辞儀の仕方、視線の方向、表情など細かく。

「ふむ。遠征時には大儀であった」

「はい」

 テオバルト様から、余計なことは一切発言するなと、言われている。
私が変なことを発言したために、国王陛下が私に対する関心を強め、私を利用しようとするかもしれない、とテオバルト様は心配している。
まあ、私もこれ以上は聖獣と関わり合いたくない。
というよりも、聖獣がいると思われる森の奥地等の秘境の地には、もう一歩も足を踏み入れたくない。
自然は懲り懲りだ。

 しかし国王陛下は私を興味深そうにじっと観察している。
一通り観察し終わると目を瞑り、立派な髭を撫でながら、何かを思案し始める。
長い、長い、沈黙。
ようやく目を開けたかと思うと、私ではなくテオバルト様に視線を送る。
テオバルト様も、まっすぐに国王陛下を見ている。
見ているというより、少し威嚇しているかもしれない。
なんとなくだが、二人の間に火花が散っているように見える。
徐々に私は居た堪れなくなり、助けを乞うように王妃様、皇太子殿下に視線を送る。
すると王妃様は、国王陛下の膝上に手を置き、ニッコリと微笑んだ。
皇太子殿下は、国王陛下の前に跪き、声を発した。

「国王陛下、遠征時におけることでご相談したいことがございます。今、申し上げてもよろしいでしょうか」

「なんだ、申してみよ」

「はい。ここにいる二人は遠征時、魔物から石を発見しました。テオバルトの見解では、魔力を含んだ石、魔石ではないかとことです。ただこの件は不確かなことが多く、報告が遅れていました。申し訳ございません。しかしこの件は調査すべきだと思います。私主導のもと、調査を進めてもよろしいでしょうか」

「ふむ、そんな石があるのか。テオバルト、価値がある石だと思うか?」

「はい。もし魔力を含んだ石、魔石であれば、非常に価値があります」

「ふむ、では皇太子よ。至急調査せよ」

「畏まりました」

 なぜだが話の話題が、私から魔石へ。
国王陛下はもう私の事なんて見向きもせず、皇太子殿下と魔石の調査についての話を進めている。
私、立ち去っていいのかな、どうかなと様子を伺っていると、テオバルト様は一礼し、「それでは失礼します」と述べた。
私もテオバルト様に続き、一礼し、「失礼します」と述べ、テオバルト様と一緒にその場を後にした。

 私は緊張からか、喉がカラカラだったので、テオバルト様と一緒に飲み物を取りに行った。
また無性に暑かったので、シャンパン片手にベランダで涼むことに。
なんとなく、大人な気分。

「お月様、雲に隠れちゃってますね~。月の光を浴びながら、ダンスしたかったのに、残念です」

「そのうち雲が開けるさ」

「そうですね。あ、魔石の調査ってテオバルト様も参加するんですか?」

「魔石の収集は、皇太子殿下に任せる。研究は俺がすることになるだろうな」

「また忙しくなっちゃいますね」

「忙しくなることは問題ないが……。今回、魔石発見の功績を皇太子殿下に譲る形になってしまって、すまないな。アメリア」

「いえいえ、私が発見したというより、テオバルト様が一番先に発見したじゃないですか。テオバルト様が魔物を倒して、そこから魔石を発見したんです。だから功績はテオバルト様の物です」

「だが、アメリアの一言がなければ魔物から石など探さなかった」

「私こそ、テオバルト様が魔物を倒さなければ、そんな発言しませんでした」

「アメリアは、欲がないな」

「欲はかなりありますよ~。今はテオバルト様とキスしたい欲があります」

 まさか私が、そんなことを言うと思ってなかったテオバルト様は、不意打ちを食らったようで、頬が赤らんだ。
少しの間、ドキマギしていたテオバルト様だったが、深呼吸し、私を抱き寄せ、向き合った。

「その欲なら、満たせそうだ」

 テオバルト様はそう言うと、ゆっくり顔を近づけてくる。
私は目を閉じ、いまかいまかと、テオバルト様の唇が触れるのを待つ。
それなのに、突如奇声が響き、ベランダの扉が大きく開け放たれた。
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